↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
159/179

鍛冶の入門書を取り寄せよう!

「鍛冶の本、かぁ……」


地球側の店に頭を突っ込んだ私は、パソコンの画面を見ているさとるに尋ねた。


「ねえ、初心者向けの鍛冶の本って、普通に売っているものなの?」


「さあ? 探してみないと分からないね」


「だよねぇ……」


そもそも、私は鍛冶なんてやったことがない。

金属を熱して、金槌で叩いて形を整える。

そんな大まかなイメージはあるけれど、実際に何をどうすればいいのかなんて、さっぱり分からない。


「それとも、昔の鍛冶職人がどんな道具を使って、どうやって刃物を作っていたのか。そういう歴史の本の方がいいのかな?」


「うーん。歴史の本だと、作り方が詳しく載っているとは限らないんじゃない?」


「ああ、そっか」


確かに。昔の人が鍛冶をしていました、こんな道具を使っていました、という説明だけでは、実際に作るときの参考にならないかもしれない。


かといって、現代の専門的な技術書を買っても、村の設備では再現できない可能性がある。


「じゃあ、両方探してみよう!」


「両方?」


「うん。初心者向けの鍛冶や金属加工の本。それから、昔の鍛冶の歴史や道具について書かれた本。できれば、図や写真が多いものがいいな」


「なるほど。現代の基礎知識と、昔の道具や製法を参考にするわけか」


「そうそう!」


私は大きく頷いた。


地球の現代技術を、そのまま異世界へ持ち込めるとは限らない。

電気を使う機械もなければ、温度を正確に測る機器だってないかもしれない。


でも、昔の人たちだって、今ほど便利な設備がない時代に金属を加工していたはずだ。


ならば、参考になることもあるだろう。

もちろん、昔の製法がすべて優れているわけではない。


現代の本で基礎を学び、歴史の本で道具や製法の変遷を知る。

その両方があれば、村でできることを考える材料になるはずだ。


「よし、それで探してみよう!」


「分かった。何冊か候補を見つけて、内容を確認してみるよ」


「よろしくね!」


私は鞄から頭を引っ込めた。

これで一歩前進!


……いや、まだ本を探してもらう段階なんだけどね。それでも、何も知らないまま悩んでいるよりはずっといい。


そして、数日後。


「お姉ちゃん、頼まれていた本が届いたよ」


「おおっ!」


さとるから連絡が来た。


私はさっそく地球側へ頭を突っ込み、店のカウンターに並べられた本を確認する。


金属加工の入門書。

鍛冶の基礎を解説した本。

そして、昔の鍛冶職人が使っていた道具や製法を紹介する本。

何冊か用意してくれたようだ。


「おおお……。なんか、本格的だね!」


「専門的な内容もあるから、全部を理解するのは難しいと思うよ」


「うっ……。まあ、それはそうだよね」


私は一冊ずつ手に取って、目次や内容を確認した。


金属の種類による性質の違い。

金属を加熱するときの注意点。

鍛造という加工方法。

道具の種類や使い方。

そして、刃物を作るために必要な工程。


……うん。


知らない言葉がいっぱい出てくる!


「これ、私が読んでも分かるかなぁ……」


「分からないところは、村の職人さんと一緒に調べればいいんじゃない?」


「そうだね。私が全部理解する必要はないんだし」


大事なのは、私が鍛冶職人になることではない。


村の職人さんたちが、自分たちの技術を伸ばすための材料を用意することだ。

私は必要なページを確認し、村に持ち込めるように内容をコピーした。


図や写真もできるだけ分かりやすい形で印刷する。


本そのものを渡すより、必要な部分を整理しておいた方が、職人さんたちも使いやすいだろう。


もちろん、専門的な内容を私が勝手に簡略化しすぎないように気をつける。

分からないところは、分からないままにしておく。


そこを無理に解釈したら、かえって危ないからね。そして、村へ戻ると、さっそく鍛冶職人に集まってもらった。


「これが、金属加工の本を参考にした資料です」


「ほう……!」


鍛冶職人は、印刷された紙を興味深そうに眺めた。


「こちらは、昔の鍛冶について書かれた資料です。使われていた道具や、作業の流れなどが載っています」


「なるほど。これは興味深いですな」


職人は一枚ずつ、じっくりと目を通していく。


やがて、今度は村にある設備や道具を確認することになった。


「炉はあります。金属を熱することもできます」


「金槌もありますね」


「金床もあります。ただし、地球の本に載っている道具と同じものではありません」


「では、今ある設備で、どこまでできるのでしょう?」


私が尋ねると、鍛冶職人は腕を組んだ。


「簡単な金属部品の加工なら、今でもできます。ですが、良い刃物を作るとなると、話が違います」


「やっぱり、難しいんですね」


「ええ。金属の種類によって性質が違いますし、加熱や冷却の仕方によっても、仕上がりが変わります」


なるほど。ただ熱して叩けばいい、というものではないらしい。


刃物は、硬ければそれでいいわけでもない。


硬すぎれば欠けやすくなることがあるし、柔らかすぎれば切れ味が長持ちしない。


用途に合った性質に仕上げる必要がある。

しかも、金属の種類や状態によって、適した加工方法も違う。


「うーむ……。思った以上に奥が深いですね」


「そうですな。これまで作っていた簡単な金属製品とは、必要な技術が違います」


鍛冶職人も、難しそうな顔をしていた。


それでも、資料を読むうちに、いくつかできそうなことが見えてきた。


まずは、木の柄が傷んだ道具の交換。


次に、単純な金属部品の加工や、壊れた部分の確認。


そして、刃物については、いきなり新しく作るのではなく、切れ味が落ちた物をどう手入れするか、どんな状態なら修理できるのかを学ぶ。


もちろん、刃が大きく欠けた物や、金属そのものが傷んでいる物を、無理に直そうとはしない。


修理できる範囲を見極めることも、技術の一つなのだ。


「まずは、簡単なところから試してみましょう」


私がそう言うと、鍛冶職人は力強く頷いた。


「はい。資料を参考にしながら、今ある道具でできることを確認していきます」


「分からないことがあれば、また一緒に調べましょう」


「よろしくお願いします」


よし!


これで、村の鍛冶技術も少しずつ進歩していくかもしれない。


ただし、いきなり素晴らしい刃物が作れるようになる、なんて期待してはいけない。


本を読んだだけで技術が身につくなら、誰も苦労しないのだから。


「まあ、いきなり大きな修理は無理だよなぁ……」


私は小さく呟いた。


「少しずつ、だよね」


木の柄を交換する。

簡単な金属部品を作る。

道具の状態を見て、修理できるか判断する。


そうした小さな経験を積み重ねていけば、いずれはできることが増えていくはずだ。


そして、いつか村で使う刃物も、自分たちの手で作ったり、修理したりできるようになるかもしれない。


そのためにも、今は焦らず、基礎から学んでいこう。


……うん。村の発展は、一日にしてならず!


「さて、これで次の商人への注文も進められそうだし……」


私は注文書を思い出した。


「って、まだ注文する物の最終確認が残ってるんだった!」


そうだった。


鍛冶の資料を用意したからといって、仕事が減るわけではない。

むしろ、また新しい課題が見つかってしまった気がする。


「……まあ、いいか」


私は自分に言い聞かせた。

少しずつ。本当に、少しずつ進めていこう。


そうしないと、私の仕事がいつまで経っても終わらないからね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。