鍛冶の入門書を取り寄せよう!
「鍛冶の本、かぁ……」
地球側の店に頭を突っ込んだ私は、パソコンの画面を見ているさとるに尋ねた。
「ねえ、初心者向けの鍛冶の本って、普通に売っているものなの?」
「さあ? 探してみないと分からないね」
「だよねぇ……」
そもそも、私は鍛冶なんてやったことがない。
金属を熱して、金槌で叩いて形を整える。
そんな大まかなイメージはあるけれど、実際に何をどうすればいいのかなんて、さっぱり分からない。
「それとも、昔の鍛冶職人がどんな道具を使って、どうやって刃物を作っていたのか。そういう歴史の本の方がいいのかな?」
「うーん。歴史の本だと、作り方が詳しく載っているとは限らないんじゃない?」
「ああ、そっか」
確かに。昔の人が鍛冶をしていました、こんな道具を使っていました、という説明だけでは、実際に作るときの参考にならないかもしれない。
かといって、現代の専門的な技術書を買っても、村の設備では再現できない可能性がある。
「じゃあ、両方探してみよう!」
「両方?」
「うん。初心者向けの鍛冶や金属加工の本。それから、昔の鍛冶の歴史や道具について書かれた本。できれば、図や写真が多いものがいいな」
「なるほど。現代の基礎知識と、昔の道具や製法を参考にするわけか」
「そうそう!」
私は大きく頷いた。
地球の現代技術を、そのまま異世界へ持ち込めるとは限らない。
電気を使う機械もなければ、温度を正確に測る機器だってないかもしれない。
でも、昔の人たちだって、今ほど便利な設備がない時代に金属を加工していたはずだ。
ならば、参考になることもあるだろう。
もちろん、昔の製法がすべて優れているわけではない。
現代の本で基礎を学び、歴史の本で道具や製法の変遷を知る。
その両方があれば、村でできることを考える材料になるはずだ。
「よし、それで探してみよう!」
「分かった。何冊か候補を見つけて、内容を確認してみるよ」
「よろしくね!」
私は鞄から頭を引っ込めた。
これで一歩前進!
……いや、まだ本を探してもらう段階なんだけどね。それでも、何も知らないまま悩んでいるよりはずっといい。
そして、数日後。
「お姉ちゃん、頼まれていた本が届いたよ」
「おおっ!」
さとるから連絡が来た。
私はさっそく地球側へ頭を突っ込み、店のカウンターに並べられた本を確認する。
金属加工の入門書。
鍛冶の基礎を解説した本。
そして、昔の鍛冶職人が使っていた道具や製法を紹介する本。
何冊か用意してくれたようだ。
「おおお……。なんか、本格的だね!」
「専門的な内容もあるから、全部を理解するのは難しいと思うよ」
「うっ……。まあ、それはそうだよね」
私は一冊ずつ手に取って、目次や内容を確認した。
金属の種類による性質の違い。
金属を加熱するときの注意点。
鍛造という加工方法。
道具の種類や使い方。
そして、刃物を作るために必要な工程。
……うん。
知らない言葉がいっぱい出てくる!
「これ、私が読んでも分かるかなぁ……」
「分からないところは、村の職人さんと一緒に調べればいいんじゃない?」
「そうだね。私が全部理解する必要はないんだし」
大事なのは、私が鍛冶職人になることではない。
村の職人さんたちが、自分たちの技術を伸ばすための材料を用意することだ。
私は必要なページを確認し、村に持ち込めるように内容をコピーした。
図や写真もできるだけ分かりやすい形で印刷する。
本そのものを渡すより、必要な部分を整理しておいた方が、職人さんたちも使いやすいだろう。
もちろん、専門的な内容を私が勝手に簡略化しすぎないように気をつける。
分からないところは、分からないままにしておく。
そこを無理に解釈したら、かえって危ないからね。そして、村へ戻ると、さっそく鍛冶職人に集まってもらった。
「これが、金属加工の本を参考にした資料です」
「ほう……!」
鍛冶職人は、印刷された紙を興味深そうに眺めた。
「こちらは、昔の鍛冶について書かれた資料です。使われていた道具や、作業の流れなどが載っています」
「なるほど。これは興味深いですな」
職人は一枚ずつ、じっくりと目を通していく。
やがて、今度は村にある設備や道具を確認することになった。
「炉はあります。金属を熱することもできます」
「金槌もありますね」
「金床もあります。ただし、地球の本に載っている道具と同じものではありません」
「では、今ある設備で、どこまでできるのでしょう?」
私が尋ねると、鍛冶職人は腕を組んだ。
「簡単な金属部品の加工なら、今でもできます。ですが、良い刃物を作るとなると、話が違います」
「やっぱり、難しいんですね」
「ええ。金属の種類によって性質が違いますし、加熱や冷却の仕方によっても、仕上がりが変わります」
なるほど。ただ熱して叩けばいい、というものではないらしい。
刃物は、硬ければそれでいいわけでもない。
硬すぎれば欠けやすくなることがあるし、柔らかすぎれば切れ味が長持ちしない。
用途に合った性質に仕上げる必要がある。
しかも、金属の種類や状態によって、適した加工方法も違う。
「うーむ……。思った以上に奥が深いですね」
「そうですな。これまで作っていた簡単な金属製品とは、必要な技術が違います」
鍛冶職人も、難しそうな顔をしていた。
それでも、資料を読むうちに、いくつかできそうなことが見えてきた。
まずは、木の柄が傷んだ道具の交換。
次に、単純な金属部品の加工や、壊れた部分の確認。
そして、刃物については、いきなり新しく作るのではなく、切れ味が落ちた物をどう手入れするか、どんな状態なら修理できるのかを学ぶ。
もちろん、刃が大きく欠けた物や、金属そのものが傷んでいる物を、無理に直そうとはしない。
修理できる範囲を見極めることも、技術の一つなのだ。
「まずは、簡単なところから試してみましょう」
私がそう言うと、鍛冶職人は力強く頷いた。
「はい。資料を参考にしながら、今ある道具でできることを確認していきます」
「分からないことがあれば、また一緒に調べましょう」
「よろしくお願いします」
よし!
これで、村の鍛冶技術も少しずつ進歩していくかもしれない。
ただし、いきなり素晴らしい刃物が作れるようになる、なんて期待してはいけない。
本を読んだだけで技術が身につくなら、誰も苦労しないのだから。
「まあ、いきなり大きな修理は無理だよなぁ……」
私は小さく呟いた。
「少しずつ、だよね」
木の柄を交換する。
簡単な金属部品を作る。
道具の状態を見て、修理できるか判断する。
そうした小さな経験を積み重ねていけば、いずれはできることが増えていくはずだ。
そして、いつか村で使う刃物も、自分たちの手で作ったり、修理したりできるようになるかもしれない。
そのためにも、今は焦らず、基礎から学んでいこう。
……うん。村の発展は、一日にしてならず!
「さて、これで次の商人への注文も進められそうだし……」
私は注文書を思い出した。
「って、まだ注文する物の最終確認が残ってるんだった!」
そうだった。
鍛冶の資料を用意したからといって、仕事が減るわけではない。
むしろ、また新しい課題が見つかってしまった気がする。
「……まあ、いいか」
私は自分に言い聞かせた。
少しずつ。本当に、少しずつ進めていこう。
そうしないと、私の仕事がいつまで経っても終わらないからね!




