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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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道具を直せる村になろう!

翌日、村長さんは職人たちを集め、道具の修理について相談していた。


木工職人は、木の柄や持ち手が折れた場合なら作り直せると言う。

竹細工職人も、竹製品の割れやほつれなら、ある程度は修理できるらしい。


「なるほど。木や竹なら、今ある技術でも何とかなりそうですね」


私がそう言うと、職人たちは頷いた。


「木の柄なら、形を合わせて作り直せばよいからな」


「竹籠も、壊れた部分を編み直せば使える物は多いです」


おお!さすがは職人さんたち。

自分たちの得意分野なら、ちゃんと修理できるんだね。


ところが、問題はその先だった。


「しかし、刃物はどうする?」


木工職人が、購入予定の道具一覧を指差した。


「斧や鉈、包丁などは、刃が欠けたり、切れ味が落ちたりする。木の柄を作り直すことはできても、刃そのものは難しいぞ」


「そうですね。竹を割る刃物も、使い続ければ傷みますから」


竹細工職人も困った顔をする。

村長さんが私を見た。


「ちほ殿、金属製品の修理は、どうすればよいのでしょう?」


「うーむ……」


私は腕を組んだ。


確かに、この村では金属製品をまったく作れないわけではない。


釘のような簡単な物や、ちょっとした金属部品なら、作っている人もいる。


ただし、それと刃物を作る技術は別の話だ。

鉄を加工するだけなら、ある程度はできる。


でも、丈夫で、切れ味がよく、長く使える刃物を作るとなると、話が変わってくる。


金属をどのくらい熱するのか。

どんな形に鍛えるのか。

どの程度まで硬くするのか。


冷やし方によって、金属の性質がどう変わるのか。


そういった技術が必要になる。


「うーむ。確かに、金属系は作っていないわけではないんですが……」


私は村長さんに説明した。


「この村では、簡単な金属製品しか作っていません。早い話、刃物を作るための技術が足りないんです」


「技術ですか……」


「はい。材料があって、道具があっても、それだけでは良い物は作れませんから」


村長さんは難しい顔をした。


「では、鍛冶の技術を持つ者を探す必要があるのでしょうか?」


「それも一つの方法ですね」


ただ、鍛冶職人を探して村に来てもらうとなると、それなりに費用が掛かるだろう。


それに、せっかく来てもらうなら、村に技術を残してもらいたい。

職人さんがいなくなった途端、何もできなくなるのでは困る。


「……うーむ」


私は再び考え込んだ。


そこで、ふと思いついた。


「そうだ。資料を印刷すれば、作れるようになるのかな?」


「資料、ですか?」


「ええ。鍛冶について説明した本や、刃物の作り方を書いた本があるはずです」


もちろん、本を読めばすぐに一流の鍛冶職人になれる、なんて都合のいい話ではない。


知識があっても、実際に手を動かして覚える必要がある。


それでも、何も知らない状態から始めるよりは、ずっといいはずだ。


「それとも、初めて鍛冶をする人向けの本とか……」


初心者向けなら、基本的な道具や作業の流れから説明しているかもしれない。


いきなり高度な刃物作りを目指すのではなく、まずは金属を加工するための基礎から学べばいい。


「よし! ネットで本を探してみよう!」


私はさっそく、家へ戻った。


いつものように、魔法の鞄から頭と片手を地球側へ突っ込む。


「さとるー!」


「うわっ! また生首が出た!」


「生首じゃない! 姉だ!」


「分かってるって。で、今度は何?」


「鍛冶の本を探したいの。初心者向けの本とか、金属加工の基礎が分かる本とかないかな?」


「鍛冶?」


さとるが少し驚いた顔をした。


「今度は鍛冶屋でも始めるの?」


「始めるかどうかは分からないけど、村で道具を修理できるようにしたいのよ」


「なるほどね。木や竹は村で何とかできても、刃物は難しいってことか」


「そういうこと!」


さとるは納得したように頷くと、パソコンの前に座った。


「じゃあ、初心者向けの鍛冶の本と、金属加工の入門書を探してみるよ。実際の作業工程が写真や図で載っている物がいいかな?」


「そうそう! 図があると分かりやすいと思う!」


「ただし、読むだけで作れるようになるとは限らないからね。道具も設備も必要だろうし」


「それは分かってる。まずは何が必要なのかを知りたいの」


本を探すだけなら、すぐにできる。


でも、実際に鍛冶を始めるとなれば、炉や金床、金槌など、必要な設備を揃えなければならない。


そもそも、この村の炉でどこまでできるのかも分からない。


まずは知識を集めて、村にある設備でできることと、できないことを整理する必要があるだろう。


「分かった。何冊か候補を探してみるよ」


「ありがとう、さとる!」


私は鞄から頭を引っ込めた。


よし。


これで、鍛冶について調べる第一歩は踏み出せた。


木や竹だけでなく、金属の道具も村で修理できるようになれば、村の暮らしはもっと便利になるはずだ。


それに、技術が身につけば、将来は自分たちで新しい道具を作れるようになるかもしれない。


……もっとも。


本を一冊印刷しただけで、いきなり名工が誕生するわけではない。


そこは間違えないようにしよう。


「まずは、基礎からだね」


私はそう呟いた。


すると、外から村長さんの声が聞こえてきた。


「ちほ殿! 鍛冶の本というものは、いつ頃届きますかな?」


「まだ探しているところですー!」


「そうですか! では、鍛冶の仕事場を広げる場所も考えておきましょう!」


「えっ!? もう場所まで考えるんですか!?」


いやいやいや!


まだ本すら決まっていないんだけど!?

村長さん、行動が早すぎませんか!?


……まあ、やる気があるのは良いことだ。


良いことなんだけどね!

私は再び、鞄を覗き込んだ。


さとる、なるべく分かりやすい本を頼むよ!

できれば、村長さんが先走る前に!

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