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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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次の商人に注文しよう!

購入する物の優先順位が決まり、ちほたちは注文する品の一覧をまとめていた。


木工職人が欲しがっていた道具。

竹細工職人が必要としている刃物。

農作業に使う道具や、村人たちの生活を便利にする鍋や保存容器。


村人たちから聞き取った要望を、一つずつ紙に書き出していく。


「よし、これで注文する物はまとまったかな?」


「ちほ殿、ずいぶんと多くなりましたな」


村長さんが一覧を覗き込みながら、苦笑いを浮かべた。


「そうですね。でも、必要な物ばかりですから」


「うむ。どれも村のためになる物じゃ」


そうなのだ。


どれも村の仕事を効率よくしたり、生活を便利にしたりするために必要な物だった。


問題は、そのお値段である。


「えーっと、まずは木工用の道具がこれで……竹細工用の刃物がこれ……」


私は商人さんから聞いていた価格を確認しながら、注文書に金額を書き込んでいった。


そして、最後に合計金額を計算する。


「……え?」


もう一度、計算する。


「ええっ!?」


さらにもう一度。


「えっ!? これだけで、そんなにするの!?」


思わず声が大きくなった。

村長さんが驚いて顔を上げる。


「ど、どうされましたかな?」


「村長さん、これを見てください!」


私は注文書を村長さんに差し出した。


「全部注文すると、予想していたよりもずっとお金が掛かります!」


「ふむ……」


村長さんは数字をじっと見つめた。


「確かに、これは少々厳しいですな」


そうなのだ。


前回、商品を売って三万枚もの金貨を手に入れた。

村が今まで扱ったこともないような大金だ。

だからといって、何でも好きなだけ買えるわけではない。

そもそも、村の収入が毎回三万枚になる保証なんてないのだ。


今回の商品が特別に高く売れただけかもしれないし、次の商人が同じ値段で買い取ってくれるとも限らない。


お金は使えば減る。


当たり前の話だけど、実際に注文書を作ってみると、その現実がよく分かる。


「どうしましょうか?」


村長さんが困ったように私を見る。


「そうじゃなぁ……数を少し減らすか?」


「そうですね。まずは、絶対に必要な物を優先しましょう」


私は注文書を机に広げ直した。


「例えば、職人さんたちが今すぐ必要としている道具は、できるだけ優先します。でも、同じ道具を何本も買う必要があるかどうかは、もう一度考えた方がいいですね」


「ふむ。一つを皆で使うことができるなら、数を減らせるわけですな」


「はい。ただし、使うたびに順番待ちになるようなら、仕事が遅くなってしまいます。そこは相談ですね」


必要だからといって、一人一人に全部買い与える必要はない。


でも、節約しすぎて仕事が進まなくなったら本末転倒だ。


このあたりの調整は、実際に道具を使う人たちに聞かなければ分からない。


「それから、今すぐ必要な物と、少し待てる物も分けましょう」


「なるほど。急ぎでない物は、次の機会でもよいということですな」


「そうです。まずは村の仕事が楽になる物から揃えていきましょう」


私たちは、注文書を一つずつ確認していった。


数量を減らせる物は減らす。


品質についても、何でも最高級品を買うのではなく、用途に合った物を選ぶ。

長く使う大切な道具は、多少高くても丈夫な物を選ぶ。


一方で、試しに使ってみる物や、消耗品については、最初から大量に買い込まない。

そんなふうに調整していくと、少しずつ注文金額が下がってきた。


「よし……これなら、何とかなりそうですね」


「うむ。村のために使う金とはいえ、無駄遣いはできませんからな」


「そうですね。これからもお金は必要ですし」


道具を買えば終わり、というわけではない。

材料も必要になるし、村人たちの生活に必要な物もある。


新しい商品を作るための費用だって、残しておかなければならない。

それに、今回の売上を全部使い切ってしまったら、次に商人が来るまで何かあったときに困る。


「注文する金額が決まったら、残しておくお金も決めておきましょう」


「残しておくお金ですか?」


「はい。何かあったときのためのお金です。次の商品を作るための材料費も必要ですから」


「なるほど……確かに、売上をすべて使ってしまうのは危険ですな」


村長さんは納得したように頷いた。


こうして、注文する品の一覧は、ようやく現実的な内容にまとまった。


……と思ったのだけど。


「ちほ殿、もう一つ考えなければならないことがありましてな」


「えっ、まだ何かあるんですか?」


思わず聞き返してしまった。


いや、村長さんが悪いわけではない。


村のことを考えれば、問題が次々に見つかるのは当然なのだ。


でも、できれば一度に言ってほしい。


私の頭の中にある予算表が、また大変なことになりそうだから!


「今回購入する道具ですが、壊れた場合はどうすればよいのでしょう?」


「壊れた場合?」


「はい。刃物が欠けたり、柄が折れたりしたときです。毎回、商人から新しい物を買わなければならないのでしょうか?」


「あ……」


私は思わず言葉に詰まった。


確かに、それは大事な問題だ。

地球だって、道具が壊れるたびに新品を買っていたらお金がいくらあっても足りない。


修理できる物は修理する。

交換できる部品は交換する。

そうやって、長く使っていくのが普通だ。


「道具によっては、村の中で修理できるようになった方がいいですね」


「やはり、そうですか」


「ただ、全部を自分たちで直せるようにするのは難しいと思います。まずは、どんな道具が壊れやすいのか、どこが壊れやすいのかを知るところからでしょうか」


木工職人なら、木の柄や持ち手を作り直せるかもしれない。

竹細工職人なら、竹を使った部品や道具の修繕に詳しくなれるかもしれない。


そして、刃物や金属部品については、鍛冶の技術が必要になる。


「村の中で、修理できる物を少しずつ増やしていく……ということですな」


「はい。最初から何でもできる必要はありません。できることから始めればいいと思います」


そう答えながら、私は考えた。


道具を買うだけなら、お金があれば何とかなる。

でも、修理する技術は、お金を払って道具を買うだけでは身につかない。

実際に使って、壊れた原因を調べて、直してみる。


うまくいかなければ、別の方法を試す。

その繰り返しが必要になる。

そして、それができるようになれば、道具を買う費用を抑えられるだけではない。


村の中に新しい仕事が生まれる可能性だってある。


「村長さん。次に商人が来たときは、修理に使えそうな道具や材料についても聞いてみましょう」


「分かりました。職人たちにも、どのような修理が必要になりそうか聞いておきます」


「お願いします」


注文書をまとめ、私は大きく息を吐いた。


これで、次の商人への注文は何とかなりそうだ。

けれど、村を発展させるために必要なのは、商品を作って売ることだけではない。


材料を手に入れること。

道具を揃えること。

そして、その道具を使いこなし、壊れたら直せるようになること。


村が自分たちの力で発展していくためには、まだまだ覚えることがたくさんある。


「……うーむ。村の発展って、奥が深いなぁ」


「ちほ殿?」


「いえ、何でもありません」


私は注文書を大切にしまった。

次の商人が来たら、まずはこの注文を済ませよう。


そして、その次は……いやいや、先のことを考えすぎるのはやめよう。


考え始めたら、また仕事が増えてしまう!


私は自分にそう言い聞かせながら、村長さんと一緒に注文書を持って立ち上がった。


……でも、村の中で道具を修理できるようになったら、きっと便利だよね。


うん。


これは、職人さんたちと相談してみよう。


あれ?また仕事を増やしてしまった気がするんだけど!?

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