村長、今度は何の相談ですか!?
「ちほさーん! ちょっと相談があるんじゃが!」
翌朝。
ちほは、村長の声で目を覚ました。
「……はいはい。ちょっと待ってて下さい!今度は何ですかー?支度したら村へ向かいます!」
昨日はミカミに地球へ帰れる時期を聞いてみたものの、結局、何も進展しなかった。
出入口を大きくするのも難しいらしい。
しばらく帰れそうにない。
「はぁ〜……」
思わずため息が出る。
「まあ、考えても仕方ないか。さて、今度は何の相談かしら?」
ちほは身支度を整え、村長のところへ向かった。
「おはようございます。それで、どうしました?」
「うむ。先日の商人との取引のことなんじゃがな」
「ああ! 金貨三万枚の件ですね!」
「そうじゃ。あれから村の者たちと話しておったのじゃが……」
村長は少し考えるように顎へ手を当てた。
「売れたお金で、今度は村に必要な物を買いたいという話になってな」
「なるほど! 売るだけじゃなくて、買い物も大事ですよね!」
ちほは大きく頷いた。
商品を作って売る。
そして、そのお金で必要な物を買う。
商売としては、ごく当たり前の流れだ。
しかし、この村では、今まで売るための商品を作る機会そのものが少なかった。
それが、今回の取引で大きく変わったのだ。
「それで、何を買いたいんですか?」
「それがのう……」
村長は困ったように笑った。
「皆、それぞれ欲しい物があるようなのじゃが、何から手を付ければよいのか、わしにも分からんのじゃ」
「……え?」
「いや、村に必要な物は色々あると思うのじゃ。じゃが、どれを優先するべきなのかとなるとな……」
ちほは、腕を組んだ。
「うーん……」
この村で足りない物?
何かしら?
……いや、待って。
私からすると、何もかも足りないような気がするんだけど!
まず、家。いや、家はある。
あるけど、私が住んでいる小屋だって、地球の基準で考えれば随分と簡素だ。
水道はない。電気もない。冷蔵庫もない。
調理器具だって限られている。
道路だって、整備されているとは言い難い。
農具は?衣服は?医療に使う道具は?
食料の保存方法は?
……あれ?
考え始めると、いくらでも出てくるんだけど!?
「……村長」
「なんじゃ?」
「この村で足りない物って、具体的に何ですか?」
「それが分からんから、ちほさんに相談しておるのじゃが……」
「ですよねー!」
ちほは思わず頭を抱えた。
自分が知っている地球の暮らしを基準に考えれば、足りない物はいくらでもある。
しかし、それを全部持ち込めばいいという話ではない。
この村で本当に必要なのか。
今ある道具で代用できないのか。
買ったとして、使いこなせるのか。
そして、維持できるのか。
それらを考えずに、あれもこれも買ってしまうのは危険だ。
「……よし!」
ちほは顔を上げた。
「村長! まずは、村の人たちに聞き取りをしてみましょう!」
「聞き取り?」
「はい! 何が必要なのか、どんな物があれば生活が楽になるのか、仕事に役立つのか。実際に使う人たちに聞いてみるんです!」
「なるほど……」
村長は頷いた。
「確かに、わしらだけで考えても限界がある。村の者たちに聞けば、色々な意見が出るじゃろうな」
「そうです! 私が勝手に必要だと思った物を買っても、使わなかったら意味がありませんからね」
「うむ。そうするとするか!」
こうして、村で必要な物を調べることになった。
村長は、各家や作業場を回って、必要な物を聞き取ることにした。
ちほも一緒に回ることになった。
まずは、木工職人の作業場。
「今、何か困っていることはありますか?」
ちほが尋ねると、木工職人は少し考えた。
「そうだな……。道具は今ある物でも何とかなるが、もっと細かい加工ができる道具があれば、作れる物が増えるかもしれんな」
「なるほど。加工用の道具ですね」
「それと、刃物を研ぐ道具も、もう少し良い物が欲しいところだ」
ちほは、しっかりと記録した。
次は、竹籠を作っている村人たち。
「竹籠作りでは、何か必要な物はありますか?」
「竹を細く割るときに使う道具が欲しいな。今のやり方でも作れるが、もっと均一に割れれば、仕上がりも良くなるはずだ」
「なるほど……。竹を加工する道具ですね!」
さらに、農作業をしている村人たちにも話を聞いた。
「畑仕事で困っていることは?」
「農具じゃな。今の道具でも使えないわけではないが、数が足りないこともある」
「それに、収穫した物を運ぶのも大変だな。竹籠が増えたのは助かっておるが、もっと大きな物も欲しいところだ」
「ふむふむ……」
ちほは記録を続けた。
ほかにも、衣服を作るための材料や、食料を保存するための容器、日常生活で使う鍋や刃物など、様々な意見が出てきた。
「……なるほどねぇ」
一通り話を聞いて、ちほは考え込んだ。
村人たちが欲しがっているのは、必ずしも珍しい物や高価な物ではない。
今の生活や仕事で不便に感じていることを、少しでも改善できる物なのだ。
そして、それらの多くは、買ってくれば終わりというものでもない。
使い方を覚える必要がある物もあれば、村で修理できるようにしておきたい物もある。
「村長。これ、かなり大事なことですね」
「うむ。わしも、そう思う」
村長は、記録した紙を眺めた。
「今までは、必要な物があっても、手に入るとは限らなかった。じゃが、これからは、商品を売って得たお金で買える可能性がある」
「そうですね!」
ちほは笑顔で頷いた。
「それに、何が必要か分かれば、買う順番も決められます!」
まずは、生活や仕事に直結する物。
次に、作業を効率よくする物。
そして、余裕ができたら、暮らしをより便利にする物。
もちろん、実際に何を買うかは、村人たちと相談して決める必要がある。
でも、少なくとも、これで一歩前進だ。
「売る物が増えれば、買える物も増える。買った道具で仕事が楽になれば、もっと商品を作れるようになる……」
ちほは、考えを整理するように呟いた。
「うん! これなら、村がもっと成長できそう!」
「そうじゃな。売るための商品を作るだけでなく、村の暮らしそのものを良くしていかねばならん」
村長も、嬉しそうに頷いた。
商売というのは、ただお金を稼ぐだけではない。
稼いだお金を使い、生活や仕事を改善する。
そして、その結果、さらに多くの商品を作れるようになる。
村は今、その循環を作り始めたところなのだ。
「よし! では、聞き取りの結果を整理して、何から買うか考えましょう!」
「うむ! 頼んだぞ、ちほさん!」
「はい!」
……と、元気よく返事をしたものの。
ちほは、手元にある記録を見て、ふと気が付いた。
「……あれ?」
「どうしたんじゃ?」
「これ、必要な物を全部書き出したら、かなりの数になりません?」
「……」
「……」
村長とちほは、顔を見合わせた。
「……まあ、少しずつ買っていきましょう!」
「そうじゃな……」
いきなり全部を揃える必要はない。
今回の商談で得たお金も、無限にあるわけではないのだから。
「まずは、本当に必要な物から!」
ちほは、改めて自分に言い聞かせた。
村を豊かにする道のりは、まだ始まったばかり。
そして、今度は何を買うべきなのかを考える、新しい課題が生まれたのだった。




