金貨三万枚!? 村が大騒ぎ!
「き、金貨三万枚じゃと!?」
商人との商談が成立した翌日。
村長の声が、村中に響き渡った。
……いや、違う。
昨日から、ずっと響き渡っている。
「本当に金貨三万枚なのか!?」
「そうじゃ! 間違いない!」
「おおおおお!!」
村人たちの歓声が上がった。
自分たちが作った竹籠や木工品、ユーカリ製品、干し椎茸。
それらが、金貨三万枚という大金になったのだ。
今まで、この村では商人から必要な物を買い、手持ちの品を少し売る程度だった。
それが、今回は違う。
自分たちで考え、自分たちで作った商品が、まとまった金額で売れたのだ。
「俺たちの竹籠が売れたんだぞ!」
「木工品だって、商人が驚いていたじゃないか!」
「ユーカリの香り袋も、もっと欲しいと言っていたぞ!」
「干し椎茸も、興味を持ってくれたんだ!」
あちこちで、喜びの声が上がる。
ちほは、その様子を少し離れたところから眺めていた。
「うんうん。みんな、嬉しそうね!」
自分が考えたことを、村人たちが実際に形にしてくれた。そして、それが商品として売れた。
これは、嬉しい。本当に嬉しい。
でも……。
「……村長。ちょっといいですか?」
「おお、ちほさん! どうしたんじゃ?」
「お金の使い道について、考えておきたいんです」
「お金の使い道?」
村長は不思議そうな顔をした。
「ええ。金貨三万枚が入ってくるのは嬉しいですけど、全部をそのまま使ってしまうわけにはいきませんよね?」
「そ、それは……そうじゃな」
「次の商品を作るためのお金も必要ですし、村人たちへの支払いも必要です。それに、村全体で使うお金も残しておきたいです」
ちほが説明すると、村長は真剣な表情になった。
「なるほど。確かに、売れたからといって、すべて使ってしまえば次が続かんのう」
「そういうことです!」
売上があった。だから、儲かった……と、単純に考えてはいけない。
商品を作るために使った材料。
道具の費用。作業にかかった時間。
そして、これからも商品を作り続けるための資金。それらを考えなければならない。
「まずは、今回売れた商品の材料費や、作業にかかった費用を確認しましょう」
「うむ。木工職人や竹籠を作った者たちにも、確認しておこう」
「それから、商品を作った人たちには、きちんと対価を支払いたいですね」
「当然じゃな」
村長は、力強く頷いた。
「自分たちで作った物が売れたのじゃ。働いた者たちが報われるようにせねばならん」
「はい!」
ちほは笑顔になった。
自分たちで商品を作り、それが売れた。
その成果が、きちんと村人たちに返ってくる。
それが大切なのだ。
もちろん、村の共同資金も必要になる。
道の整備。作業場の拡張。道具の購入。
新しい商品を作るための試作費用。
村全体で使うお金を確保しておけば、今後の開発も進めやすくなる。
「村長、今回の売上から、次の商品を作るための資金と、村全体で使う資金を分けておきましょう」
「うむ。個人への支払いと、村のための資金じゃな」
「そうです! そして、残った分については、村人たちと相談して決めればいいと思います」
「なるほど……」
村長は、しばらく考え込んだ。
「ちほさん。これまでは、村で必要な物を手に入れることばかり考えておった。じゃが、これからは違うのじゃな」
「はい。作った物を売って、そのお金で必要な物を買う。そして、また新しい商品を作るんです」
「売る。買う。作る……か」
村長は、ゆっくりと頷いた。
「これが続けば、村も少しずつ豊かになっていくのう」
「そういうことです!」
ちほは胸を張った。
もちろん、一度売れたからといって、今後も必ず売れるとは限らない。
商人が持ち帰った商品が、どれだけ売れるかも分からない。
だからこそ、売れる物を見極め、品質を良くし、無理のない量を作っていく必要がある。
でも、今の村には、それを考えられる人たちがいる。
木工職人は、新しい木工品を考えている。
竹籠を作る村人たちは、使いやすさを考えて改良を続けている。
ユーカリ製品も、干し椎茸も、まだまだ工夫の余地がある。
「……うん。これなら大丈夫そうね」
ちほは、満足そうに頷いた。
自分がいなくても、村人たちは商品を作り続けられる。
自分がいなくても、新しい物を考えられる。
そして、商人との取引を続けられるようになれば、必要な物を村の外から買うこともできる。
「これで、この村も自立して成長できるね!」
思わず、そんな言葉が口から出た。
「じりつ?」
村長が首を傾げた。
「あっ、自分たちの力で、生活を良くしていけるってことです!」
「おお! それは良いことじゃな!」
村長は笑った。
「ちほさんが来てから、この村は大きく変わり始めた。じゃが、これから先は、わしら自身の力で進んでいかねばならん」
「そうですね。私が何かを教えなくても、みんなで考えて、試して、改良していけばいいんです」
「うむ!」
二人は、村の作業場へ目を向けた。
そこでは、さっそく次の商品について話し合う村人たちの姿があった。
「竹籠は、もっと大きな物も作ってみよう!」
「木工品は、違う種類の木を組み合わせてみたいな!」
「ユーカリの葉は、まだまだ使い道がありそうだぞ!」
「干し椎茸も、もっと安定して作れるようにしよう!」
……うん。いい感じだ。本当に、いい感じだ。
ちほは、ほっと息を吐いた。
「ふぅ〜……」
これで、この村も自立して成長していける。
自分がいなくなっても、何とかやっていけそうだ。
……ん?自分がいなくなっても?
ちほの動きが止まった。
「…………」
そういえば。
「ミカミさん……」
空を見上げる。
「私は、いつ地球に戻れるんだ?」
…………。
そう!すっかり忘れていたわけではない。
忘れていたわけではないのだが!
村の開発が面白くて、ついつい夢中になってしまっていた。
温泉を作り、ユーカリを育て、果樹園を整え、竹籠を編み、干し椎茸まで作るようになった。
気づけば、村の商売まで始まっている。
「……いやいやいや! 私、もともと地球にいた人間なんですけど!?」
思わず自分に突っ込んでしまった。
もちろん、地球には店がある。
弟のさとるがいる。
ミカミさんだって、店を任されているはずだ。
……いや、あの神様、ちゃんと仕事しているんだろうか?
「ミカミさーん! 聞こえてますかー!?」
ちほは、いつものように鞄へ向かって声をかけた。
返事はない。
「……まあ、今すぐ帰れるわけじゃないのかもしれないけど」
ちほは小さくため息をついた。
「せめて、いつ帰れるのかくらい教えてほしいわね……」
村のために頑張るのはいい。
この村が豊かになるのも嬉しい。
でも、自分の人生だってあるのだ。
「よし。今度、さとるに連絡して、ミカミさんに聞いてもらおう!」
そう決めたちほは、気を取り直して立ち上がった……ところで。
地球に帰る方法が分かったとして、今さらこの村を離れられるのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎったが、ちほは慌てて振り払った。
「いやいや! それは、そのとき考えればいいの!」
こうして、村は初めての大きな商談をきっかけに、自立への一歩を踏み出した。
そして、ちほ自身にも、そろそろ考えなければならない問題が浮かび上がってきたのだった。




