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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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商人が来るぞ!

「ちほさん! 商人が来るぞ!」 

朝、村長のところへ顔を出したちほは、いきなりそんな声をかけられた。


「えっ!? 商人ですか?」


「うむ。先ほど連絡があった。近いうちに、この村を訪れるそうじゃ」


「おおお! ついに来ましたか!」


ちほは思わず両手を握りしめた。

ここ最近、村ではいろいろな商品を作ってきた。


竹籠に、木工品。

ユーカリの香り袋や石鹸、消臭袋。

そして、干し椎茸。


どれも村で手に入る材料を使い、村人たちが工夫して作ったものだ。


これまでは試作品を作ったり、村で使ってみたりする段階だった。


しかし、商人が来るとなれば話は違う。

いよいよ、村の外へ売り出す機会がやってきたのだ。


「それで、商人はいつ頃来るんですか?」


「数日後には到着する予定だそうじゃ」


「数日後!?」


ちほは目を輝かせた。


「よし! みんなに知らせましょう!」


「うむ。すでに何人かには伝えてある。おそらく、今頃は村中で大騒ぎになっておるじゃろうな」


「でしょうね!」


ちほは笑った。


これまで、商人が来たときに売れるよう、村人たちは少しずつ商品を作り溜めていた。


木工職人は、新しい木工品を考えては作り、竹を扱う村人たちは竹籠を編んだ。


ユーカリの葉からは香りを取り出し、香り袋や石鹸などの試作を進めてきた。


さらに、椎茸の栽培も始まり、干し椎茸まで作れるようになった。


もちろん、すべてが大量にあるわけではない。

まだ試作品に近いものもある。

それでも、以前の村と比べれば、売り物にできそうなものは格段に増えていた。


「……うん。これは期待できそう!」


ちほは、さっそく村の作業場へ向かった。

そこでは、すでに村人たちが集まっていた。


「商人が来るんだってな!」


「ようやく、俺たちの作った物を見てもらえるぞ!」


「竹籠は、大小合わせてかなりの数ができているぞ!」


「木工品もある。小箱に、皿に、飾り物もな!」


「ユーカリの香り袋も用意してあるぞ!」


「干し椎茸も、少しだが商品用に分けてある!」


あちこちから、期待に満ちた声が聞こえてくる。


「みんな、頑張りましたね!」


ちほが声をかけると、村人たちは嬉しそうに笑った。


「ちほさんが色々と教えてくれたからな!」


「そうそう。最初は竹籠だって、まともに編めなかったんだぞ」


「今では、使いやすい大きさや形も考えられるようになった!」


「木工品だって、余った木材から商品が作れるようになったんだ!」


ちほは、並べられた商品を一つずつ眺めた。


最初は、ただの竹だった。ただの木材だった。

森に生えていたユーカリの葉だった。

それらが今では、商品として売れるかもしれない物へと変わっている。


「うんうん。いい感じ!」


思わず笑みがこぼれた。

ただし、ここで気になることが一つある。


「……ところで」


ちほは、並んだ商品を見ながら首を傾げた。


「これって、いくらで売るんですか?」


「……ん?」


村人たちの動きが止まった。


「いくら……とは?」


「いや、だから値段ですよ! 竹籠はいくら、木工品はいくら、香り袋はいくらで売るのかって話です!」


「……」


「……」


あれ?どうして、みんな黙るの?

ちほは嫌な予感を覚えた。


「もしかして……値段、決めてない?」


「いや、その……」


木工職人が頭を掻いた。


「作ることに夢中になっておってな……」


「俺たちも、どれくらいの値段になるのか分からん!」


「そうそう。売れるかどうかも分からないから、とりあえず作っておこうと……」


「なるほどねー……」


ちほは天井を見上げた。まあ、気持ちは分かる。今まで村人たちは、自分たちで使う物を作ることが中心だった。


それが、商品として売れるかもしれないとなれば、作ることに夢中になるのも当然だ。

でも。


「値段が分からないまま商人に渡すわけにもいかないですよね……」


「うむ。そこは考えねばならんな」


村長も腕を組んだ。


「商人に値段を決めてもらうという手もあるが……」


「それだと、安く買い叩かれる可能性もありますよね」


ちほは少し考えた。


もちろん、商人が悪い人だと決まったわけではない。

商人にも利益が必要だし、運搬費や売れ残る危険もある。

だからといって、村が相場を知らないままでは、適切な取引ができない。


「まずは、材料にどれくらい手間がかかっているか、確認しましょう」


「手間、か」


「はい。材料を集める時間、加工する時間、使った道具。それに、乾燥させたり、仕上げたりする手間もありますよね」


「なるほど……」


村人たちは、それぞれの商品を見直し始めた。


「竹籠なら、竹を切って、枝を落として、乾かして、細く割って、編む……」


「木工品は、木材を選ぶところから始まるな」


「香り袋は布が必要だし、香りを取り出す作業もあるぞ」


「干し椎茸は、栽培の手間もあるし、乾燥させる時間も必要だな」


次々と、作るまでの工程が挙げられていく。


「うん。そうやって整理するのは大切ですね!」

ただし、作業時間だけで値段が決まるわけではない。


珍しさや品質、商人が売る先での需要も関係する。

そこは、実際に商人と話してみなければ分からない部分も多いだろう。


「だから、まずは私たちが考える値段を用意して、商人の話も聞いてみましょう」


「こちらの希望を伝えたうえで、相談するということじゃな」


「そうです!」


ちほは大きく頷いた。


そして、作業場に並んだ商品をもう一度見渡した。


「それにしても……」


竹籠が並んでいる。木工品も並んでいる。

ユーカリ製品もある。干し椎茸まである。


「……本当に、いろいろ増えましたね」


「そうじゃな」


村長も、満足そうに頷いた。


「以前は、商人が来ても売る物は限られておった。だが今は、村の者たちが自分で考え、作った物がある」


「これが売れれば、材料を集めたり、商品を作ったりする仕事も増やせますね」


「うむ。村の者たちの暮らしも、少しずつ変わっていくじゃろう」


ちほは、嬉しくなった。


自分がすべて作ったわけではない。

竹籠を編んだのも、木工品を作ったのも、ユーカリ製品を試したのも、村人たちだ。


自分がしたのは、きっかけを作り、地球の知識や見本を持ち込んだこと。

そこから先は、村人たちが自分たちの力で進めている。


「よーし! 商人が来るまでに、商品の整理と値段の準備をしましょう!」


「おお!」


村人たちの声が響いた。

こうして、村では商人を迎える準備が本格的に始まった。


作り溜めてきた商品は、いよいよ村の外へ出ていくかもしれない。


果たして、商人はどんな反応をするのだろうか。

そして、村人たちが苦労して作った商品は、いくらで売れるのだろうか。


「……ふふふ。楽しみになってきた!」


ちほは、期待に胸を膨らませた。


……とはいえ。


商人が来る前に、値段だけはちゃんと考えておこう。


売れると思っていた商品が、まさかの値段になる可能性だってあるのだから。

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