椎茸の原木に異変が!?
「……おい。これ、昨日もあったか?」
森の中に設けられた原木の管理場所。
いつものように状態を確認していた木工職人が、一本の原木を見つめていた。
「どうした?」
仲間の職人が近づいてくる。
「いや、ここを見てくれ。昨日までは、こんな変化はなかったと思うんだが……」
指さした先には、原木の表面に小さな変化が現れていた。
「ん? これは……」
二人は顔を近づけ、じっくりと観察する。
「おお! 確かに変化が出てきているぞ!」
「椎茸が生えてくる前触れなのか?」
「分からん。だが、何かが変わっているのは確かだ!」
二人は、すぐに記録用の紙を取り出した。
原木の種類。菌を植え付けた日。
置き場所。これまでの観察記録。
ひとつずつ確認していく。
「この原木は、最初に選んだ候補のひとつだったな」
「置き場所は、森の中でも比較的湿り気のあるところだ」
「ほかの原木はどうなっている?」
「それも確認してみよう!」
木工職人たちは、ほかの原木も見て回ることにした。
◇
「ちほさん! ちょっと来てくれ!」
村長のところで別の仕事をしていた私は、木工職人に呼ばれた。
「どうしたんですか?」
「椎茸の原木に変化が出てきたんだ!」
「えっ!? 本当ですか!?」
私は思わず立ち上がった。
ついに来た?椎茸が生えてきたの!?
いや、まだ分からない。
でも、変化が出てきたというのなら、確認しないわけにはいかない!
私は木工職人たちと一緒に、原木の管理場所へ向かった。
「これだ!」
案内された原木を見てみる。
確かに、表面に小さな変化が見られる。
「おお! これは……!」
思わず顔を近づけてしまった。
「確かに変化が出てきている。もしかして、これが大きくなると……?」
村人たちも、期待した顔で原木を見つめている。
「椎茸が生えてくるのかもしれんな!」
「いや、まだ分からんぞ。決めつけるのは早い!」
「そうだな。まずは、きちんと記録しておこう」
うんうん。
期待する気持ちは分かるけれど、まだ確定ではない。私は、そっと原木に手を近づけた。
そして……。
「鑑定!」
原木の状態を確認してみる。
……うーん。
椎茸菌には、相変わらず+神が付いている。
でも、今の変化が何を意味するのかまでは分からない。
「……まだ椎茸そのものではないわね」
「そうなのか?」
「はい。少なくとも、私には椎茸が生えてきたようには見えません」
「なるほどな……」
木工職人たちは、もう一度原木を確認した。
「しかし、今までと違うのは確かだ」
「そうだな。ほかの原木にも同じ変化があるか、調べてみよう」
◇
村人たちは、さっそく記録を広げた。
変化が見られた原木と、まだ変化が見られない原木。
それぞれの種類や置き場所を比較していく。
「こちらの原木には、まだ何も見られないな」
「こっちは少し表面の様子が違う気がする」
「木の種類が違うからか?」
「それとも、置き場所の違いかもしれん」
いくつかの条件が違うため、今の段階では原因を特定できない。
ただ、変化が出てきた原木がある。
それだけでも、今後を考えるための大切な情報だ。
「よし! この原木は、今までより注意して観察しよう」
「ほかの原木も、同じように記録を続けるぞ」
「変化があったら、すぐに記録するんだったな!」
村人たちは、やる気十分だった。
私は、その様子を見ながら考えていた。
……もしかして、+神の影響なのかな?
ユーカリも、竹も、果樹も、驚くほど早く成長した。
もし椎茸菌にも同じような影響があるのなら、通常より早く変化が現れている可能性はある。
でも、今の段階では断定できない。
普通に栽培していても、原木の状態には変化が出るはずだ。
今回の変化が、椎茸が育つための通常の過程なのか。
それとも、+神によって成長が早まっているのか。
「……うーん。分からん!」
結局、そこに戻ってしまう。
鑑定で+神が付いていることは分かっても、それが具体的にどう作用しているのかまでは分からないのだ。
「まあ、観察を続けるしかないわね!」
私がそう言うと、木工職人がうなずいた。
「そうだな。焦っても仕方がない。毎日、状態を確認していこう」
「はい!」
◇
その日から、村人たちは原木の観察を、これまで以上に丁寧に行うようになった。
変化が見られた原木には目印をつけ、記録用の紙に状態を書き込む。
ほかの原木にも変化がないか、ひとつずつ確認していく。
「昨日より、少し変わったように見えるぞ!」
「本当か? 記録と比べてみよう!」
「こっちは、まだ同じだな……」
小さな変化でも、見逃さないようにする。
そうやって記録を積み重ねていけば、どの木が椎茸の栽培に適しているのかも、少しずつ分かってくるかもしれない。
そして、もし本当に椎茸が生えてきたら……。
村で育てたキノコを収穫できる。
料理に使える。
乾燥させて保存もできる。
上手くいけば、村の新しい商品になる可能性だってある。
「……早く大きくならないかなあ」
思わず、そんな言葉が漏れた。
「ちほさん、また食べることを考えておるのか?」
村長が笑いながら声をかけてきた。
「ち、違いますよ! ちゃんと栽培のことも考えています!」
「ははは! まあ、楽しみに待つとしよう」
私は、もう一度原木を振り返った。
表面に現れた小さな変化。
それが何を意味するのか、今はまだ分からない。
でも、何も変わらなかった原木に、確かな変化が現れ始めた。
これが大きくなれば……本当に、椎茸が生えてくるのかもしれない。
「……頑張って育ってね!」
私は心の中でそう願いながら、村人たちと一緒に、原木の成長を見守ることにした。




