椎茸菌が届くまでに!
「さて、椎茸菌が届くまでに、何を準備しておこうかな?」
私は小屋の机に資料を広げていた。
原木の候補は見つかった。
木工職人たちが種類ごとに選び、森の中の置き場所も変えながら、状態を記録してくれている。
でも、原木があれば、それだけで椎茸が育つわけではない。
菌を植え付けるための道具も必要だし、植え付けたあとの管理方法も確認しておかなければならない。
「原木に穴を開けて、そこに菌を植え付ける……と」
資料を読みながら、私は必要な道具を紙に書き出していく。
穴を開ける道具。
菌を植え付けるための道具。
原木を管理するための場所。
それから、記録用の紙も必要だ。
「うーん。準備するものは、そんなに難しくなさそうね」
もちろん、実際にやってみないと分からないこともある。
菌を植え付ける深さや間隔、原木の状態など、気をつけることはいろいろあるようだ。
それに、菌がきちんと広がってくれるかどうかも、すぐには分からない。
「まあ、まずは少量から試すのがいいわね!」
一度に大量の原木を用意して、全部失敗したら困る。
候補をいくつか選び、条件を記録しながら試していけばいい。
よし!方針は決まった。
あとは、木工職人たちと相談しながら、道具を準備していこう。
◇
「ちほさん、原木の状態を確認してきたぞ!」
村長のところへ行くと、木工職人たちが集まっていた。
「ありがとうございます! どうでした?」
「種類によって、乾き方が違うな。置く場所によっても差がある」
「こちらは、まだ少し乾燥が進んでいるようだ」
「こっちは日陰で、比較的状態が安定しているな」
木工職人たちは、それぞれの原木について説明してくれた。
うんうん!
ちゃんと記録を続けてくれている。
「では、菌を植え付けるときも、原木の種類と置き場所を記録しておきましょう」
「そうだな。どれが上手くいくか、比べられるようにしておこう」
「穴を開ける道具も、準備しておくか」
木工職人たちは、さっそく必要な道具について相談を始めた。
私は、植え付け方法をまとめた資料を渡す。
「この方法を参考にして、道具を作ってもらえますか?」
「おう。これなら、うちにある道具も使えそうだ」
「ただ、実際に菌を植え付けるときは、資料の方法を確認しながら進めましょう」
「分かった。まずは少し試してみるさ」
よしよし。
私が全部やる必要はない。
木工職人たちは道具を作り、原木を知る人たちは管理を担当する。
それぞれが得意なことを生かしてくれれば、きっと上手く進められるはずだ。
……まあ、まだ栽培に成功したわけではないんだけどね!
そこは、これからのお楽しみだ。
◇
それから数日。
私は、いつものように小屋でパソコンを開いていた。
原木栽培の方法を再確認しながら、村人たちに説明できるように情報を整理している。
すると。
「ちほー! 椎茸菌が届いたよ!」
鞄の向こうから、さとるの声が聞こえてきた。
「えっ! もう届いたの!?」
「うん。注文していたものが届いたから、送るね!」
「ありがとう! こっちで受け取るわ!」
私は鞄を開き、さとるから送られてきた椎茸菌を受け取った。
「おお……これが椎茸菌……!」
思わず、しげしげと眺めてしまう。
これがあれば、いよいよ栽培実験を始められる。
ただし、菌が届いたからといって、すべての原木で椎茸が育つとは限らない。
そもそも、こちらの世界の木が適しているかどうかも、まだ分からないのだ。
「よし! さっそく村長のところへ行こう!」
私は椎茸菌と資料を持って、小屋を飛び出した。
◇
「村長ー! 椎茸菌が届きましたよ!」
「おお! ついに届いたか!」
村長のところへ行くと、木工職人たちも集まってきた。
「これが、キノコを育てるための菌か?」
「はい! これを原木に植え付けて、育てていきます」
「ほう……。これから、あの木にキノコが生えるようになるのか」
木工職人たちは、興味深そうに椎茸菌を眺めていた。
普段から木を加工している彼らにとっても、木を使ってキノコを育てるというのは新しい試みだ。
「ただし、いきなり全部の原木に植え付けるのはやめましょう」
私がそう言うと、木工職人のひとりがうなずいた。
「そうだな。どの木が適しているか、まだ分からんからな」
「はい。まずは候補の木に少しずつ植え付けて、違いを確認していきましょう」
「木の種類も、置き場所も記録しておくんだったな」
「そうです! 植え付けた日も忘れずに書いておきましょう」
村人たちは、さっそく準備を始めた。
原木を並べ、道具を確認し、記録用の紙を用意する。
木工職人たちは、資料を見ながら植え付けの手順を確認していた。
「よし、まずはこの原木から試してみるか」
「こちらの木も、少しだけ使ってみよう」
「置き場所も分けておこう。あとで違いが分かるようにな」
みんな、真剣だ。
それでいて、どこか楽しそうでもある。
「……上手く育つといいですね」
私がつぶやくと、村長が笑った。
「そうじゃな。上手くいけば、村でキノコを育てられるようになるかもしれん」
「森で採れるものだけに頼らなくてもよくなるわけか」
「しかも、たくさん採れたら乾燥させて保存もできるんだろう?」
「はい! 乾燥キノコにすれば、料理にも使えますしね!」
村人たちの期待が、どんどん膨らんでいく。
椎茸を育てられるようになれば、食べられるキノコの種類が増える。
収穫できる時期を考えながら栽培できれば、食料の確保にも役立つ。
さらに、乾燥キノコとして保存したり、商人に売ったりできる可能性もある。
もちろん、そこまでたどり着くには時間がかかるだろう。
菌を植え付けても、すぐに椎茸が生えるわけではない。
それでも、村人たちにとっては、新しい可能性への第一歩なのだ。
「よし! まずは、この原木で試してみよう!」
木工職人の声に、みんながうなずいた。
私は、その光景を見ながら思った。
最初は、私が地球から持ってきた知識だった。
でも、今は違う。
村人たちが自分たちで木を選び、準備をし、栽培の方法を考えている。
この先、上手くいくこともあれば、失敗することもあるだろう。
それでも、記録を残し、試行錯誤を続けていけば、きっと村に合った方法が見つかるはずだ。
「……ふふふ。椎茸鍋が食べられる日が楽しみね!」
「ちほさん、もう食べることを考えておるのか?」
「い、いいじゃないですか! 楽しみがあるのは大事ですよ!」
村長が笑い、木工職人たちもつられて笑った。
さあ、椎茸栽培の始まりだ。
この小さな菌が、村の新しい食料と産業につながることを願いながら、私は村人たちの作業を見守るのだった。




