椎茸栽培、始めてみよう!
「姉さーん!椎茸菌、注文できそうだよ!」
鞄の向こうから、さとるの声が聞こえてきた。
「本当? ありがとう!」
「ただ、届くまでには少し時間がかかるみたい。それまでに準備しておけばいいんじゃない?」
「そうね! こっちも準備を進めておくわ!」
椎茸菌が手に入る見込みが立った。
そうとなると、次は栽培の準備だ。
私はパソコンで調べていた情報を印刷した。
原木栽培の方法。原木に使う木の種類。
木を切る時期や、切ったあとの乾燥。
菌を植え付けてからの管理方法。
「うーん……思ったより、いろいろあるわね」
椎茸の菌を手に入れて、木に植え付ければすぐに育つ。
そんな簡単な話ではないらしい。
原木を切っても、すぐに使えるわけではないようだ。木の種類や状態によっても、準備の仕方が変わる。
しかも、こちらの世界にある木が、地球と同じように椎茸の栽培に向いているとは限らない。
「……まずは、村長に相談ね!」
私は印刷した資料を持って、小屋を出た。
◇
「村長ー! ちょっと相談があるんですけど!」
「おお、ちほさんか。今度は何を始めるんじゃ?」
村長が、少し警戒したような顔でこちらを見た。
……あれ?
なんだか、最近この反応が増えていない?
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ!」
「そうかのう……?」
うん。たぶん、大丈夫。
「今回は、キノコの栽培をしてみたいんです!」
「キノコの栽培?」
「はい。椎茸というキノコなんですけど、地球では木に菌を植え付けて育てる方法があるんです」
私は持ってきた資料を広げた。
「この方法なら、森で採れるキノコだけじゃなくて、村で育てて収穫できるようになるかもしれません」
「ほう……キノコを育てるのか」
村長は資料を眺めながら、うなずいた。
「森には木がたくさんあるからのう。原木に使える木が見つかれば、試すことはできそうじゃな」
「そうなんです! ただ、こちらの世界の木が使えるかは分からないので、まずは調べたいんです」
「なるほど。木のことなら、木工職人たちにも相談した方がよさそうじゃな」
そう。木の種類を見分けるだけなら、私よりも村の木工職人たちの方が詳しい。
私は木の名前を知っていても、実際にどんな性質があるのかまでは分からない。
ここは、専門家にお願いしよう。
◇
「椎茸ってのを育てる木か?」
村長に呼ばれた木工職人たちは、私の資料を見ながら考え込んでいた。
「こういう木を使うようなんです。ただ、こちらでも同じように育つかは分からなくて……」
「ふむ。木の種類によって、硬さも水の吸い方も違うからな」
「切ったばかりの木を使えばいい、というわけでもないんだな?」
「はい。切ってから準備する期間も必要みたいです」
「なるほどな。なら、まずは候補を探すところからか」
木工職人のひとりが、資料を指でなぞった。
「森には何種類もの木がある。見た目だけで決めるわけにもいかん。木の特徴を確認しながら、候補を選んでみよう」
「お願いします!」
よし!これで、最初の一歩が進みそうだ。
「ただし、いきなり大量に切るのはやめておこう」
別の職人が言った。
「どの木が使えるか分からんのだからな。まずは少しずつ試せばいい」
「そうですね! 失敗したときに、何が原因だったのか分からなくなってしまいますから」
「木の種類ごとに分けて記録すればよさそうだな」
「置く場所も変えてみるか? 日陰と、風が通る場所では違いが出るかもしれん」
「湿り具合も確認した方がいいだろう」
おお!早くも、村人たちの間で話が進んでいる。私は栽培方法を紹介しただけ。
実際にどの木を使うのか、どこで管理するのか、どうやって比較するのか。
そういう部分は、木を知っている彼らに任せた方がいい。
「では、まずは原木探しですね!」
「そういうことだな」
木工職人たちは、さっそく森へ向かう準備を始めた。
◇
「さて、私は何をしておこうかな?」
木工職人たちが原木の候補を探しに行ったあと、私は小屋に戻った。
椎茸菌が届くまでに、こちらもできる準備を進めておきたい。
候補となる木が見つかったら、種類ごとに記録する。
いつ切ったのか。
どのくらい乾燥させたのか。
どこに置いていたのか。
そして、菌を植え付けたあと、どんな変化があったのか。
「うん。記録用の紙も用意しておこう」
実験は、成功することだけが大切なのではない。
失敗したとしても、原因が分かれば次に生かせる。
村人たちが自分たちで栽培方法を見つけられるようになれば、私が毎回地球から菌を取り寄せなくても、椎茸を育て続けられるかもしれない。
さらに、収穫した椎茸を食べるだけでなく、乾燥させれば保存食にもなる。
森で採れるキノコに加えて、村で育てたキノコまで利用できるようになれば、食料の選択肢も増えるはずだ。
もちろん、すぐに上手くいくとは限らない。
そもそも、こちらの木で椎茸が育つかどうかも、まだ分からないのだから。
「まあ、まずは試してみないとね!」
私は記録用の紙を机に並べた。
原木の候補探し。木の準備。椎茸菌の到着。
そして、栽培実験。
ひとつずつ進めていこう。
干し場での乾燥実験も、まだ始まったばかりだ。
もし椎茸の栽培まで成功すれば、採れたての椎茸を料理に使い、余った分は乾燥させて保存できる。
いずれは、村の新しい商品になるかもしれない。
「……キノコ鍋、また食べたいな」
思わず、そんなことをつぶやいてしまった。
いやいや!
食べることばかり考えている場合じゃない。
まずは、原木探し。
私は気を取り直して、記録用の紙を整えた。
村の新しいキノコ作り。
その第一歩が、始まろうとしていた。




