干し果物の準備をしよう!
「さて。次の準備はっと……」
小屋に戻ったちほは、机の上に資料を広げていた。
甜菜がこちらの世界で育つかどうかは、まだ分からない。
砂糖が作れるようになるのも、まだ先の話だ。
「となると、今できるのは干し果物だね!」
果物を乾燥させて保存する方法なら、砂糖がなくても始められる。
「これなら、大半の果物でできるかな?」
柿やイチジクはもちろん、ほかにも乾燥させて保存できる果物はある。
ただし、果物によって適した方法は違う。
「念のため、作り方をまとめて印刷しておこう!」
ちほはパソコンで資料を整理し、プリンターを動かした。
干し柿の作り方。
干しイチジクの作り方。
乾燥させる時の注意点。
保存する時に気をつけること。
「よし! これだけあれば、話し合いくらいはできるね!」
ちほは資料を束ねると、小屋を出た。
◇
「村長ー!」
「おや? 今回は落ち着いとるな」
村長が、ちほの姿を見て笑った。
「いつもそんなに慌てておるから、今度は何が起きたのかと思ったぞ」
「今回は大丈夫です!」
「ほう?」
「今後のための準備です!」
ちほは、持ってきた資料を差し出した。
「果物が収穫できた時のために、干し果物を作る準備をしておこうと思いまして!」
「干し果物か……」
村長は資料を受け取り、ページをめくっていく。
「ほう。これは干し柿か」
「はい。渋柿も、種類によっては干すことで甘くなります」
「なるほどな……」
さらにページをめくる。
「こちらはイチジクか」
「そうです。こうやって乾燥させれば、保存しやすくなります」
村長はしばらく資料を眺めていた。
「……確かに、果物が採れるようになってから考えるのでは遅いな」
「ですよね!」
「まずは、雨や夜露を防げる干し場を作っておかんとな」
「はい! そうです!」
ちほは嬉しそうに頷いた。
「今回は、ちゃんと準備を!」
「ははは! いつも準備をしておらんような言い方じゃな」
「うっ……」
否定できない。
ユーカリは森になり、竹は竹林になった。
どちらも、気づいてから慌てて対処することになったのだ。
「今回は先に考えているんです!」
「分かった、分かった」
村長は笑いながら資料を読み進めた。
「ふむふむ……これなら、この村でもすぐに始められそうじゃな」
「そうなんです!」
「だが、ただ干せばいいというわけでもなさそうだな」
「はい。そこも考えないといけません」
ちほは資料の一部を指差した。
「まず、虫や鳥に食べられないように、網や覆いを工夫したいです」
「なるほど。せっかく干しても、食べられてしまっては困るからな」
「それに、雨が降った時に濡れないようにすることも大事です」
「屋根が必要じゃな」
「はい!」
村長は、しばらく考え込んだ。
「なら、風通しの良い屋根付きの干し場を作るのがよさそうじゃな」
「そうですね!」
竹の仮置き場を作った時と同じだ。
村にある材料を使い、必要なものを作る。
そして、実際に使ってみて、問題があれば改良する。
「乾燥具合も記録していきましょう」
「記録?」
「はい。どのくらい干したら、ちゃんと保存できる状態になるのか。果物によっても違うでしょうから」
「なるほど……」
村長が頷く。
「なら、最初から大量に作るのではなく、少しずつ試した方がよさそうじゃな」
「そうです!」
ちほは思わず笑顔になった。
自分が考えていたことを、村長がすぐに理解してくれる。
いや、それだけではない。
村長自身も、どうすれば村で続けられるかを考えているのだ。
「まずは少量で試して、保存状態を確かめる。それから量を増やしていきましょう!」
「うむ。そうしよう」
話は順調に進んでいた……その時だった。
「なあ、村長」
近くで話を聞いていた村人が、ふと思いついたように口を開いた。
「果物だけでなく、キノコや薬草も干せるんじゃないか?」
「……ん?」
ちほが振り返る。
「キノコや薬草?」
「ああ。キノコは採れる時期にたくさん採れることもある。全部をすぐに食べるのは難しいからな」
「確かに……!」
別の村人も頷いた。
「薬草だって、使う時に採りに行くより、必要な分を乾かして保存しておけば便利だろう」
「おおお!」
ちほの目が輝いた。
「それ、いいですね!」
果物を干す。それだけを考えていた。
でも、乾燥させて保存する方法そのものを整えれば、ほかにも使い道がある。
「キノコなら、採れすぎた時にも無駄にしなくて済みますね!」
「薬草も、種類ごとに分けておけば使いやすそうじゃ」
「それなら、干し場も少し広めに作った方がいいか?」
「いや、最初は果物とキノコで分けた方がいいかもしれんぞ」
「そうだな。薬草も一緒に干すなら、混ざらないようにしないとな」
村人たちの話し合いが始まった。
ちほは、その様子を眺めながら感心する。
「おー! 凄い! いい流れがまた!」
最初は果樹園のためだった。
果物を無駄にしないように、保存方法を考えただけ。それが今では、キノコや薬草まで話が広がっている。
「……いいね!」
ちほは満足そうに頷いた。
村人たちは、自分たちの暮らしに必要なものを考えている。
果物を干すための設備が、村全体で使える乾燥設備になるかもしれない。
「果樹園から、村全体の保存食や乾燥品作りに発展しそうね!」
もちろん、すべてがすぐに上手くいくとは限らない。
乾燥させるだけで安全に保存できるとは限らないし、果物、キノコ、薬草では、それぞれ気をつけることも違う。
だからこそ、少しずつ試していけばいい。
「よし! まずは干し場からですね!」
「そうじゃな」
村長が立ち上がる。
「大工仕事のできる者にも相談してみよう」
「お願いします!」
ちほは、頭の中でこれからのことを考えた。
竹籠に、ユーカリ製品。そして、果物やキノコの乾燥品。村で作れる商品が、また一つ増えるかもしれない。
「……うんうん」
ちほは頷いた。
「私、今回はちゃんと先回りできてる!」
少しだけ誇らしい気分になる……もっとも。
ユーカリと竹の成長問題は、まだ完全に解決したわけではないのだが。
「……そっちは、まあ、うん」
ちほは考えるのをやめた。
今は、干し場の準備が先だ。




