異世界に魔法はありませんでした
「薪も、これだけあれば当面は平気かな」
小屋の薪置き場を見る。
昨日までより、かなり増えた。
「ガスも無かった時代の方々には、尊敬するわ……」
薪を集めて、運んで、割って、乾かして。
それを毎日のようにやっていたのだろう。
「……いや」
ふと、あることに気づく。
「ちょっと待ってよ」
私は小屋の中を見る。
「卓上ガスコンロ」
店にあったはず。
「それに、電気はどうにかなるから……」
ノートパソコンに電気を通せた。
ということは――
「IHの卓上コンロも、こっちに持ってこられれば……」
電気で料理ができる。
「薪、拾う必要なくない?」
「……」
しばらく考える。
「はぁ~……」
もっと早く気がつけばよかった。
「まあ、いいか」
せっかく集めた薪だ。何かに使えるだろう。
「スローライフ……?」
いや。
「スローラフ?」
自分で言っておいて、よく分からない。
まあ、のんびりできているなら、それでいいか。
「そういえば……」
昨日、森の切れ目から村を見つけた。
「村は見つけたけど……」
遠目から見る限り、危険そうな感じはなかった。畑が広がっていて、家が並んでいる。
人らしき姿も見えた。
「でもなぁ……」
いきなり村へ行ったら、怪しさ満点だ。
突然、森の外れに住み始めた人族。
しかも見たことのない服を着ている。
「……」
あの猫人親子は、
『何かあったら村に来なさいな』
と言ってくれた。それはありがたい。
でも――
「流石にね……」
自分から村へ乗り込んでいく勇気はない。
「色々と見てはみたいけど……」
うーむ。
「辞めておこう」
まだ、この世界のことを何も知らない。
知らないことばかりなのだから、慎重にした方がいい。
「……」
小屋の外を見る。
静かだ。木の葉が擦れる音。謎鳥の鳴き声。
聞いたことのない鳥の囀り。
「確かに……」
私は小さく息を吐く。
「ゆっくりは出来てるかな?」
その時だった。
ガサ……ガサ……
「ん!?」
森の方から音がする。
「また何か来た?」
私は小屋の外を見る。
ガサ、ガサ。
そして――
「おーい! 人間! 居るか?」
聞き覚えのある声。
「はーい! いるよ!」
私は声を返す。
すると、森の中から小さな影が出てきた。
「あっ」
昨日の女の子。猫人だ。
「こんにちは」
「暇だから遊びに来た」
「遊びに?」
「うん」
女の子は小屋の周りを見回す。
「何でここに居るんだ?」
「うーん……」
私は少し考える。
「気がついたら、ここに居た?」
「ふーん」
納得したのかしていないのか、よく分からない返事。女の子は小屋の中を覗き込む。
「しかし、見たことないもんがあるな」
「え?」
「何だこれ?」
女の子が電気スタンドを指差す。
「あー」
私は少し考える。
「生活に必要な道具?」
「ふーん」
女の子は首を傾げる。
「しかし、変わった道具だな」
「まあ……そうかもね」
電気スタンドなんて、この世界にはないのだろう。
「私からも質問があるんだけど」
「いいぞ?」
「聞いてもいい?」
「何だ?」
私は少し迷ってから尋ねた。
「魔法ってある?」
「……」
女の子が固まった。
そして――
「へ?」
次の瞬間。
「きゃははー!」
大笑いし始めた。
「何?」
「子供かよ!」
「え?」
「魔法なんてあるわけないじゃん!でもスキルの事を言ってるのか?」
「スキル……?」
「そうだ!」
「……」
私は黙って女の子を見る。
「そうなの?」
「そうだよ!」
「……」
魔法はない。私は少し考える。でもスキルはある?
「んー……」
「何だ?」
「魔法はない……」
「だから、そう言ってるだろ」
「少し残念だ」
「何言ってるんだ?」
「何でもない」
私は笑って誤魔化した。魔法のない異世界。
でも――スキルは、ある。元の世界の商店にも繋がっている。そのお陰で電気は使える。
そして、目の前には猫人の女の子がいる。
「……」
本当に不思議な世界だ。
「ねえ」
「ん?」
「今日は何して遊ぶ?」
「え?」
女の子が笑う。
「暇なんだろ?」
「……」
私は思わず苦笑した。
異世界に来てから、初めての友達になるのかもしれない。




