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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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果樹園を広げる場所を探そう!

「果樹園をもっと広げる場所を探そう!」


村人たちは、さっそく果樹園の周辺を歩き始めた。ちほもその後ろをついていく。


「この辺りはどうだ?」


「うーん……日当たりは悪くないが、水が少し遠いな」


「なら、こっちは?」


「斜面になってるぞ」


「斜面でも使い方次第だろ」


村人たちは、木の生えている場所や地面の状態を確認していく。

ちほは、その様子を眺めながら感心していた。


「みんな、こういうの詳しいなぁ……」


果樹を育てるなら、日当たりは重要。

水も必要。そして、あまり急な斜面では作業が大変になる。

自分が考えるより、実際にこの土地で暮らしてきた村人たちの方が、よく分かっている。


「ん?」


その時だった。

先頭を歩いていた村人が立ち止まった。


「小川がここにあるな」


「本当だ」


ちほも近づいてみる。

細い小川が、森の方から流れてきている。


「この水を使えないかな?」


「使えるだろうな」


「なら、ここに水車を置けば、果樹園まで水を水路で運べるな」


「……水車?」


ちほが反応する。


「水車を置くの?」


「ああ」


村人は当然のように答えた。


「水の流れがあるなら、使わない手はないだろ」


「なるほど……」


水車を使って水を汲み上げ、水路を作って果樹園へ運ぶ。

地球でも昔から使われてきた方法だ。そして、私がこの世界に持ち込んだ。


「そうだな。これなら果樹園まで水を持っていける」


「水路を作るなら、こっち側に通せばいい」


「この辺りは少し掘ればいいな」


「なるほどな」


村人たちの頭の中では、すでに計画が出来上がり始めていた。


「じゃあ、果樹園はどこまで広げる?」


「そうだな……」


一人が少し離れた場所を指差した。


「あそこの丘は、どうだ?」


「丘?」


「日当たりはバッチリだ」


全員が丘を見る。確かに周囲より少し高くなっていて、木々に遮られることも少ない。


「だな」


「水路も、あっちからなら引けそうだ」


「なら、果樹を植える場所として使えそうだな」


「そうだな!」


ちほは思わず笑った。


「なんか……話がどんどん進んでる」


「なら、杭と縄を持ってくるか」


「そうだな。まずはどこまで使うか決めよう」


「水車も依頼してくか?」


「そうだな。早目の方がいいな」


「じゃあ村に戻ったら頼んでおこう」


「俺は水路の方を考える」


「なら俺は土地の区画を見ておく」


あっという間に役割まで決まっていく。

ちほは、その様子を見ながら大きく息を吐いた。


「ふぅ……」


どうやら大丈夫そうだ。


「これなら、果樹園もちゃんと管理できそうね」


少し前まで、果樹園に何が植わっているのかすら分からなかった。

それが今では――増やす方法を考え、植える場所を探し、水をどうするかまで考えている。


「いやー……危なかった」


ちほは一人で小さく呟いた。


「ユーカリの件で早目に気がついてよかった……」


あのまま放っていたら、ユーカリの森がさらに大きくなっていた。


果樹も同じだった。


気づいた時には、果樹園が森になっていた……なんてことになったら大変だ。


「手入れが遅れるところだったよ」


ちほは果樹園を見る。

どの苗木も元気に育っている。

葉も大きく、枝もしっかりしている。


「しかし……」


ちほは少し考える。


「+神は……」


ユーカリの異常な成長。そして、果樹たちの成長。どちらも普通とは明らかに違う。


「うーむ……」


単純に成長を早める力なのだろうか。

それとも――。


「成長を早めるだけじゃなくて……強くなる?」


ちほは苗木を眺める。

まだ小さい。それでも、妙に生命力があるように感じる。


「……まあ、今のところ元気に育ってるし」


悪い方向ではなさそうだ。


「それに、村の人たちがちゃんと管理してくれるなら大丈夫かな」


ちほはそう考えた……その時。


「…………ん?」


何かが引っかかった。


「何か……忘れてるような……」


腕を組む。


「何だっけな?」


しばらく考える。

ユーカリ。果樹。温泉。水車。水路。


「うーん……」


頭の中に何か浮かびそうで浮かばない。


「まあ、いいや」


ちほは考えるのをやめた。


「そのうち思い出すでしょ!」


そう言って、果樹園の方へ歩き出す。


――その頃。


果樹園から少し離れた場所。

地面から伸びた一本の細い竹が、風に揺れていた。まだ、誰も気づいていない。


「…………」


ちほは当然、それにも気づかない。


「さて、村に戻ったら水車の依頼かな」


果樹園の拡張計画は、こうして少しずつ動き始めた。

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