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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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果樹を増やそう!

「ほう。そんな実がなるのか……」


果樹園に集まった村人たちは、ちほが持ってきた資料を眺めながら、実際になっている果物を一つずつ確認していた。


「なあ? この木は、くくの実に似てないか?」


「ん? くくの実?」


ちほが首を傾げる。


「ここの世界にもある木なんですか?」


「そうだ。実は食えるし、昔から山で見かける木だな」


「へぇ……」


ちほは木を見上げる。


確かに葉の形が少し似ている。


「言われてみれば、葉が似てるな」


「だろ?」


別の村人も木を眺める。


「ならよー。この木なら増やせるな」


「ん?」


「……増やす?」


ちほが反応した。


果物を食べるだけではなく、増やす。


それは、果樹園を維持するためにも重要なことだった。


「そうだな。増やし方についても、資料を作ってきました」


「ほう」


ちほは持ってきた紙を広げる。


「果樹によって違いますけど、基本的には大きく三つの方法があります」


「三つ?」


「はい。まずは、種から育てる方法」


「これは分かるな」


「次が、挿し木」


「挿し木?」


村人たちが顔を見合わせる。


「枝を切って、土に挿して育てる方法です。うまくいけば、そこから根が出て新しい木になります」


「枝から木が増えるのか?」


「そういうことです」


「それは面白いな」


ちほはさらに紙をめくる。


「そして、もう一つが接ぎ木」


「接ぎ木ってのは、聞いたことが無いが……」


「これは少し難しいです」


ちほは簡単な図を見せる。


「別の木の枝を、別の木の根に繋げる方法です」


「……枝を繋げる?」


「はい」


「そんなことができるのか?」


「地球では普通に行われています」


ちほは説明を続ける。


「例えば、種から育てるよりも、接ぎ木の方が実をつけるまで早くなる果樹もあります」


「ほう……」


「ただし、果樹によって向いている増やし方が違います」


「なるほどな」


村人たちは資料を覗き込みながら、果樹園を見渡す。


「じゃあ、全部を接ぎ木すればいいってわけじゃないんだな?」


「そうです」


「挿し木が向いている木もある」


「種から育てた方がいいものもある」


「そういうことです」


ちほは頷いた。


「だから、まずは一種類ずつ試してみるのがいいと思います」


すると――。


「いや」


一人の村人が口を挟んだ。


「一種類ずつ試そう」


「え?」


「いきなり全部やると、何が良くて何が悪かったのか分からなくなる」


「そうだな」


別の村人も頷く。


「まずは、この木からだ」


「それが上手くいったら、次の木を試せばいい」


「うんうん」


ちほは少し驚いた。


自分が言おうとしていたことを、村人たちが先に決めている。


「じゃあ、私は資料を渡しますので、あとは皆さんで試してみてください」


「おう」


「まずは種からだな」


「いや、挿し木も少し試してみよう」


「両方やって、どっちが良いか比べればいい」


「なるほど」


話し合いがどんどん進んでいく。


ちほは少し離れたところから、その様子を眺めた。


「……うん」


なんだか嬉しくなる。


最初は、自分が教えなければ何も進まないと思っていた。


でも違う。


きっかけさえあれば、村の人たちは自分たちで考える。


「私が全部やる必要はないんだよね」


むしろ、その方がいい。


果樹園を作るのも。


木を増やすのも。


育て方を覚えるのも。


村の人たち自身ができるようになった方が、この先ずっと続いていく。


「よし。あとはお願いします!」


「任せろ」


「まずは種を採っておくか」


「挿し木用の枝も選ぼう」


「この木は残しておいた方がいいな」


「そうだな」


さっそく村人たちは木を見ながら話し合いを始めた。


ちほはその様子を見て、ふと周囲を見渡す。


果樹園。


……いや。


正確には、まだ果樹園と呼べるほど広くはない。


木が並んでいるだけだ。


「……あれ?」


ちほは少し考える。


今ある木を増やす。


種を植える。


挿し木をする。


接ぎ木にも挑戦する。


そうなると――。


「……場所、足りなくならない?」


「ん?」


近くにいた村人が振り返る。


「どうした?」


「この果樹、もっと増やすんですよね?」


「ああ」


「だったら……」


ちほは周囲を見渡す。


「果樹園をもっと広げる場所が必要だな」


「……そうだな」


村人たちも周囲を見る。


「今の場所だけじゃ、そのうち足りなくなる」


「なら、もう少しこの辺りを見回ってみるか!」


「そうだな!」


「使えそうな場所を探そう」


村人たちはさっそく歩き始めた。


「えっ、もう行くの!?」


ちほも慌てて後を追う。


果樹園を広げるための土地探し。


それは、思っていたよりも早く始まることになった。


そして――。


ちほはまだ知らない。


この土地探しが、村の新しい農地を作るきっかけになることを。

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