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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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ユーカリから生まれる新商品

翌日。

私は昨日印刷した資料を持って、村長さんのところへ向かった。


ユーカリの葉から作った液体。


その使い道について、地球で調べた情報をまとめたものだ。


「村長さん、ちょっとこれを見てもらえますか?」


「これは?」


「ユーカリの使い道について、調べたものです」


私は資料を村長さんに渡した。

そして、村の人たちにも見てもらう。


「香りを楽しむものとして使えたり、消臭に使えたり、虫を遠ざける用途にも使えるみたいです」


「ほう……」


「それから、石鹸に香りを付けたり、温泉に入れたりもできます」


「温泉に?」


「はい。昨日作ったものを少し入れてみましたけど、結構いい香りでしたよ」


村人たちは資料を囲んで眺めている。

すると、一人の女性が手を挙げた。


「香りを楽しむのであれば……香り袋なんてどうでしょう?」


「香り袋?」


「はい。布の中に乾燥させた葉を入れて、紐で縛るんです」


「あ、それいいですね!」


私が思わず反応すると、女性は嬉しそうに笑った。


「ちょうど布を作った時の端材があります。小さな袋なら作れます」


「じゃあ、試してみましょうか」


「はい!」


女性たちはさっそく布の端材を集め始めた。

私はそれを眺めながら、


「……仕事が早い」


と呟いた。でも、今回は私から作り方を細かく説明する必要はなかった。

彼女たちが自分たちで考えている。

それが何より嬉しかった。


「石鹸に使うというのは、どうじゃろう?」


今度は石鹸作りをしている村人が資料を見ながら呟いた。


「ユーカリの香りがする石鹸……」


「試してみますか?」


「ぜひとも」


その人はさっそく試験用の石鹸を作ることにした。


「最初から大量に作らず、少しだけ作ってみるといいと思います」


「そうじゃな。香りが強すぎても困る」


「うんうん」


石鹸作りの人は、さっそく配合を考え始めた。


「なるほど……こういうのも面白いな」


さらに別の村人が言った。


「温泉に入れる香りはどうじゃ?」


「温泉専用の商品にするのも面白そうですね」


「温泉に入った時だけ使うようにすれば、特別感も出る」


「それなら、温泉に置いておけばいい」


「量も少なくて済むじゃろう」


村人たちの話がどんどん膨らんでいく。

私は口を挟まず、その様子を眺めていた。


「……なんか、私がいなくても話が進んでるな」


少し寂しいような。でも、それ以上に嬉しい。

これが私の目指していた形なのかもしれない。

私が全部考えるんじゃない。

きっかけだけを持ってくる。

そして、そこから先は村の人たちが考える。


「そうじゃ!」


今度は別の男性が声を上げた。


「消臭に使えるなら、靴に入れてみてはどうじゃ?」


「ああ、確かに」


「家畜小屋にも使えんか?」


「葉を乾燥させて袋に入れるだけなら簡単そうじゃ」


「いや、袋だけじゃなくて、葉っぱごと何かに混ぜる方法も試してみよう」


「それも試してみるか」


今度は消臭袋の試作が始まった。


靴用。家畜小屋用。家の中用。

同じユーカリでも、使う場所によって違うものを作れそうだ。


「虫除けはどうじゃ?」


「夏場の畑で使えないか?」


「家の中にも置いてみたい」


「なら、畑と家で試してみよう」


こちらも試験することになった。

私は思わず笑ってしまった。


「……すごいな」


昨日までは、ただの木だった。

それが今では、香り袋。石鹸。温泉用の香り。

消臭袋。虫除け。次々と名前が増えていく。


しかも、私が一つ一つ考えたわけじゃない。

村の人たちが、自分たちで考えている。

しばらくすると、村長さんが私の隣にやってきた。


村人たちが試作品について話し合っている姿を眺めながら、村長さんが口を開く。


「ちほさん」


「はい?」


「ユーカリという木一本から、随分と色々な物ができるのう」


「……そうですね」


私は植林地の方向を見る。


「私も、こんなに使い道があるとは思いませんでした」


薪にでき、木材にできる。葉から香りを取れる、その香りを使って商品も作れる。

一本の木から、いくつもの仕事が生まれている。すると、木工職人さんが資料を眺めながら言った。


「ならば……」


「はい?」


「ユーカリの木そのものを使った新しい物も考えてみるか」


「!」


私は思わず職人さんを見る。


「木材として使えるなら、普通の木とは違う特徴もあるかもしれん」


「なるほど……」


「湯船だけでなく、家具や道具、それに小物なども試してみたい」


「いいですね!」


ユーカリの木。


そのものを使った新商品。

また一つ、可能性が広がった。


「ユーカリって……」


私は小さく呟いた。


「もしかして、村の新しい基幹資源になったりするのかな?」


最初はお風呂の薪の為だった。でも調べると木材にもなるし、葉から香りも取れる。良いところは、成長も異常に早い。


「……」


そこで、ふと気づいた。


「ん?」


私は腕を組む。


「待てよ」


ユーカリがいくら成長が早いとはいえ。

今ある木を使い続けたら――。


「足りるか?」


私は植林したユーカリの木を思い出した。

種も蒔いた。苗も植えた。

でも、今後商品が増えていったら?

薪として使う。木材として使う。葉も採取する。さらに温泉でも使う。


「……全然足りないんじゃ?」


急に心配になってきた。


「ちょっと植林地区を見てくるか」


私は立ち上がった。


「ちほさん?」


「ユーカリの様子を見てきます!」


「そうか?」


「はい。念のためです!」


私は急いで村を出る。

向かう先は、ユーカリを植えた場所。

種から育てたものもある。

苗を植えたものもある。


そして――異常な速度で成長してしまったユーカリもある。


「……さて」


森の奥へ進みながら、私は少しだけ不安になった。ユーカリが村の新しい資源になるのなら。

それを支えるだけの木が必要になる。


「まさか……」


私は歩く速度を上げる。


「また、とんでもないことになってないでしょうね?」


そして私は、ユーカリの植林地区へと足を踏み入れた。

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