ユーカリを使って
翌日。
ちほは、村の木工職人さんのところへ向かった。昨日、村長さんにも見てもらったユーカリ。まずは、実際に木材として使えるのか確認してもらう必要がある。
「職人さん!」
「おお、ちほさん。どうしたんじゃ?」
「昨日話していた木です!」
ちほはユーカリの枝を見せる。
「これが?」
「はい。ユーカリという木です」
木工職人さんは枝を受け取り、じっくりと眺める。
「……こんな木は見たことがない」
「やっぱり?」
「葉も変わっておるな」
「そうなんです」
「どれ……」
職人さんは小さな枝を切り、木材の状態を確認する。
「ふむ」
ノコギリを入れる。
ギコギコ。
「……」
「どうですか?」
「硬いな」
「硬い?」
「思ったより、しっかりしておる」
切断面を指で触る。
「木目も面白い」
「湯船に使えそうですか?」
「まだ分からん」
職人さんはそう言って、切り出した木材を水の入った容器に入れた。
「しばらく浸けてみよう」
「はい!」
◇
しばらくして。
「……おお?」
職人さんが木材を持ち上げる。
「どうですか?」
「水を弾いておる?」
表面についた水滴が、木材に染み込まずに転がっている。
「本当だ……」
ちほも覗き込む。
「これならいけるんじゃないですか?」
「まだ分からん」
職人さんは慎重だ。
「水を弾くからといって、長く湯に浸けても大丈夫とは限らん」
「なるほど」
「一度、乾燥させてみよう」
「乾燥?」
「水に浸けた後、木がどうなるかを見るんじゃ」
「なるほど!」
さすが職人さん。私なら、
「水を弾いた! じゃあ湯船!」
と、すぐ決めてしまいそうだ。
「では、乾燥させてみよう」
「お願いします!」
木材を乾燥させ、しばらく様子を見る。
そして――。
「……問題なさそうじゃな」
「本当ですか!?」
「うむ」
職人さんが木材を叩く。
コンコン。
「これなら湯船に使えそうじゃ」
「やった!」
これで湯船の材料が決まった……と思った。
その時だった。
職人さんが、ユーカリの木をもう一度眺める。
「しかし……」
「はい?」
「この木、異様に成長が早くないか?」
「……」
やっぱり気づいた。
「ですよね」
「普通の木なら、これほど短期間でここまで育つとは思えん」
「私もそう思います」
「しかも、かなり丈夫そうじゃ」
職人さんは幹を眺める。
「これだけ早く育つなら……」
そして。
「薪にも使えるのではないか?」
燃料として使える。しかも成長が早い。本当はそうしようと思っていた。
「温泉の湯船だけじゃなくて、薪にも使えるってことですよね?」
「そうじゃそれなら、村の燃料問題にも使える」
ユーカリを植えた目的の一つは、薪の確保だった。それが、思った以上に早く実現するかもしれない。
「それだけじゃない」
職人さんが言う。
「これだけ硬い木なら、建物にも使えるかもしれん」
「建築材ですか?」
「うむ」
湯船。薪。建築材。
「……」
ちほはユーカリを見る。
「村の新しい木材資源になりそうですね」
「そういうことじゃ」
今まで村では、周囲の森から木を切って使っていた。でも、ユーカリを計画的に育てられるなら。森を切りすぎる必要もなくなる。
「すごい……」
ちほはユーカリを見上げる。
植えた時は、小さな苗木だった。
それが今では、村に新しい可能性を与えている。
「……まあ」
ちほは少し笑う。
「育ってるんだから、いいか!」
原因は分からない。普通ではない。
でも、今はそれを深く考えない。
使えるものは、ありがたく使わせてもらおう。
◇
その日の帰り。
ちほはふと、ユーカリの葉を見る。
「……待てよ」
木材だけじゃない。
ユーカリといえば――。
「葉も使えるんじゃん!?」
ちほは急いで小屋へ戻った。
パソコンを起動する。
「ユーカリの葉……」
検索する。
「アロマ、精油、油の作り方、殺菌……」
いろいろな情報が出てくる。
ユーカリの葉から精油を取る方法。
香りを利用する方法。
そして、昔から利用されてきた用途。
「へぇ……」
ちほは画面を読み進める。
「葉っぱから油が取れるんだ」
これは面白い。湯船の材料だけじゃない。
燃料だけでもない。葉まで利用できる。
「しかも……」
ユーカリには独特の香りがある。
温泉との相性も良さそうだ。
「……」
ちほは画面を見ながら考える。
「これ、作れないかな?」
問題は作り方。葉を集めて何かしらの方法で成分を取り出す。
蒸留?水蒸気蒸留?
「なるほど……」
ちほはさらに検索する。
必要な道具。蒸留器の構造。材料。作り方。
「……」
次々と情報を調べていく。
「これなら……」
村の職人たちと一緒に作れるかもしれない。
大規模な工場なんて必要ない。
まずは小さな実験から。
「よし!」
ちほは立ち上がる。
「作ろう!」
温泉の湯船を作るために植えたユーカリ。
それが今では湯船になり。薪になり。
建築材になり。そして――葉から新しい商品まで作れるかもしれない。
「ユーカリ……」
ちほは窓の外を見る。
「思ったより、すごい木だったのね」
……いや。本当に普通のユーカリなのかは、まだ分からないけど。
「まあ、育ってるんだからいいか!」
ちほはそう言って笑った。




