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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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温泉小屋を作ろう

温泉を見ながら、村人たちの話し合いは続いていた。


「ここに小屋を建てよう」


「道も整えた方がいいな」


「湯船はもう一つ必要じゃないか?」


「男と女で分けるなら、二つあった方がいい」


「休める場所も作ろう」


次々と意見が出てくる。

ちほはその様子を眺めながら、ふと思った。


「……じゃあ、皆さんにお任せしてもいいですか?」


「もちろんじゃ」


村長さんが頷く。


「では、そうしよう」


こうして、温泉計画は村の人たちに任せることになった。


◇


翌日。

木工職人さんが、紙に簡単な図を書いていた。


「温泉小屋は、こんな感じでどうじゃろう」


「おお……」


二つの湯船。その間に壁を作り、男女を分ける。入口には脱衣所。さらに奥には、温泉から上がった後に休める場所。


「休憩所は、ここに椅子を置けばいい」


「湯冷ましする場所じゃな」


「屋根も付けよう」


「雨の日でも使えるようにしたい」


話を聞いているだけで、どんどん形になっていく。


「すごい……」


ちほは思わず呟いた。

私が最初に考えていたのは、


「温泉に入れればいい」


くらいだった。それが今では、ちゃんとした温泉施設になろうとしている。

そして別の村人たちは、温泉までの道を整え始めていた。


「ここの土を少し削ろう」


「石を敷けば歩きやすい」


「雨が降ったら水が流れるように、少し傾斜をつけよう」


こちらも完全に任せきりだ。


「……」


ちほは立っているだけだった。


「ちほさん」


「はい?」


村長さんがこちらを見る。


「何をしておるんじゃ?」


「え?」


「いや、さっきからずっと見ておるだけじゃからの」


「……」


言われてみれば。私は何もしていない。


「私は……何をすればいいんでしょう?」


「ははは!」


村長さんが笑う。


「温泉を見つけたのは、ちほさんじゃろう?」


「それはそうですけど……」


「なら、もう十分じゃ」


「でも……」


「完成したら、一番最初に入ってくれればよい」


「……それ、役割なの?」


思わず聞き返してしまった。


「大事な役割じゃぞ」


「そうなんですか?」


「そうじゃ」


村長さんは真顔で頷く。


「最初に見つけた者が、最初に入る。これでよい」


「……」


まあそれなら喜んでやろう。温泉だし。


「では、完成を楽しみにしていますね」


「ああ。ところで――」


村長さんが、木工職人さんの方を見る。


「一つ問題がある」


「問題?」


「湯船じゃ」


「湯船?」


木工職人さんが頷く。


「普通の木では、長く湯に浸けておけば傷みやすい」


「確かに……」


毎日温泉を張るなら、普通の木材では耐久性が心配だ。


「水に強い木材が必要になる」


「なるほど」


私は温泉の周りを見る。


「水に強い木材……」


村長さんが考え込む。


「この辺りに、そういう木はあるかのう?」


「うーん……」


木工職人さんも首を傾げる。


「木材なら色々あるが、湯船に使えるとなると……」


「そうだな」


村長さんも困った顔をする。


「……」


私は黙って考える。

水に強い木。しかも、できれば手に入りやすいもの。腐りにくい木。長く水に触れていても大丈夫な木。


「……ん?」


そこで、ふと思い出した。


「村長さん」


「なんじゃ?」


「水に強い木材が必要なんですよね?」


「ああ」


「それについては……」


ちほは少し考えてから、笑う。


「私、心当たりがあります!」


「おお?」


村長さんが驚いた顔をする。


「何かあるのか?」


「はい!」


もちろん、すぐに使えるとは限らない。

この世界に持ち込めるか。それを加工できるか。実際に温泉に使えるか。確認する必要はある。

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