初めての露天風呂
だぁ……疲れた!腕もパンパン。
何往復したんだろう。
川まで行って石を拾って、温泉まで運んで。
それを何度も繰り返して、ようやく浴槽らしい形になった。
「はぁ……」
私は腰に手を当てて、完成した温泉を眺める。
石を並べて作っただけの、簡単な浴槽。
まだ温泉は少しずつ溜まっている途中だ。
「……これ、ちゃんとお風呂になるの?」
見た目は……まあ、それっぽい。
石で囲っただけだけど。
温泉はちゃんと温かい。
あとは、ここに入るだけ。
「よし……」
私は恐る恐る足を入れてみる。
ちゃぷん。
「……」
うむ!良い湯加減!
「これは……いける!」
思わず声が出た。温度はちょうどいい。
熱すぎないし、ぬるすぎない。
しかも、薪を燃やしているわけでもないのに、ずっと温かい。
「温泉ってすごいなぁ……」
早く入りたい。今すぐ入りたい。
でも……。
「まだ足だけで我慢しよう」
さすがに、温泉が十分に溜まってからだ。
せっかく作った浴槽なのだから、ちゃんと浸かりたい。私は石の縁に腰を下ろし、足だけ温泉につける。
「……あったかい」
じんわりと温かさが伝わってくる。
「はぁぁぁ~~~……」
思わず力が抜ける。今日は本当に疲れた。
苗木を植えたり、石を運んだり。
最近は村のことばかり考えていて、自分の生活のことは後回しだった。
でも。
「やっぱり、お風呂って大事だわ……」
以前は家に帰れば、当たり前のように風呂があった。蛇口をひねればお湯が出る。
湯船に浸かって、疲れを取る。
そんな生活が、ここでは当たり前じゃない。
だからこそ。
「温泉、見つけて本当に良かった……」
私は温泉を眺める。
少しずつ水位が上がっている。
もう少し、もう少し溜まれば……。
「入れる!」
その瞬間、私は立ち上がった。
「……いや、待て」
すぐに座る。
「今入ったら、また石を並べ直すことになるかもしれない」
せっかく作った浴槽なのだ。
最初のお風呂くらい、ちゃんと入りたい。
「よし。今日は待つ!」
私は近くの石に腰を下ろし、温泉が溜まるのを眺める。
……暇だ。小屋に戻るか。
◇
「姉さん! いるー?」
さとるだ。
「いるわよー!」
「何してんの?」
「温泉貯まるの待ってる!」
「……は?」
「温泉を見つけたの!」
「また何やってんの!?」
私は今日あったことを説明する。
鉄を探すために神具らしき道具を使ったこと。
その結果、なぜか温泉を掘り当てたこと。
そして、石を運んで露天風呂を作っていること。
「……姉さん」
「なに?」
「もう異世界生活、完全に満喫してない?」
「……」
言われてみれば。最初は生きていくので精一杯だった。それが今では、畑を作って、村の人たちと商売をして、果樹を植えて、ユーカリまで植えて、そして今は、温泉まで掘っている。
「……まあ、そうかも」
「いや、普通もっと驚くところだろ」
「だって温泉よ?」
「そこじゃない!」
さとるの声が響く。
私は笑ってしまった。
「まあいいじゃない。温泉は嬉しいんだから」
「そりゃそうだけどさ」
そんな話をしている間にも、温泉は少しずつ溜まっていく。
「……」
私はまた温泉を見る。
「もう少しかな」
「何が?」
「お風呂に入れるくらいまで」
「入るの?」
「もちろん!」
「……風邪ひくなよ」
「温泉で風邪を心配されるとは思わなかったわ」
さとるが笑った。
「……はぁ。早く、肩まで浸かりたいなぁ……」
異世界に来て初めて私は心から、自分のための時間を楽しみにしていた。
そして数十分後。
温泉は、ようやく十分な量まで溜まり始めていた。
「……よし」
私は立ち上がる。
「初めての露天風呂、入りますか!」




