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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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異世界の第一村人は猫人でした

深い森の手前は、低い生垣のような枝がガサガサと揺れる。

その手前で、私は鉈を握ったまま身構えていた。


「……」


ガサッ。


「もう……そこにいる!」


目の前の茂みが揺れる。


「ん?」


ちらりと見えたのは――


「猫耳!?」


思わず目を見開く。でも、大きい。


「……猫じゃない」


さらに見えた身体。


「トラ!?」


ガサ、ガサ、ガサ。


茂みから何かが近づいてくる。

私は鉈の柄をギューッと握った。


そして――


「なっ!?」


姿を現したのは、獣の耳と尻尾を持った女の子だった。


「猫人!?」


思わず声が出る。

すると、猫人の女の子が首を傾げた。


「ここで何してるんだ?」


「うお!?」


喋った!しかも女の子の声。


「……」


「……」


「本当に喋った」


「何を驚いてるんだ?」


「いや、その……」


私は改めて目の前の女の子を見る。

猫耳。尻尾。人間と変わらない身体。

でも、どう見ても猫っぽい。


「私はここに住んでいる」


「こんな所に?」


「そう」


「……」


森の中にある小屋。荒れた畑。

そして、異世界から来た私。

改めて考えると、かなり怪しい。


「貴女は?」


私はの女の子に話しかけた。


「森に薪を拾いに来たの」


「薪?」


「そう」


女の子は背負っている薪を見せる。


「そうしたら、人族の知らない人の匂いがしたから来てみた」


「……」


「人族の知らない人?」


「うん」


「……」


私は自分の服を嗅いでみる。


「うっ」


もしかして――


「私、臭いの!?」


「?」


女の子が不思議そうな顔をする。


「何を言ってるんだ?」


「いや、知らない人の匂いって……」


「そういう意味じゃない」


「あ、そう……」


恥ずかしい。


「畑をしているのか?」


女の子が私の後ろを見る。


「……そう!」


荒れた畑。

まだほとんど何もできていないけど、一応そのつもりだ。


「一人で住んでるの?」


「んー……」


私は少し考える。

さとるのことを説明するわけにもいかない。


「まあ、そうね」


「そっか」


女の子はあっさり納得した。


「じゃあな!」


「え!?」


突然、帰ろうとする。


「薪も集まったから帰る」


「え、あ……」


「じゃあねー」


「……」


女の子はそのまま森の中へ消えていった。


「……」


私はしばらく、その背中を見送った。


「第一村人発見……」


いや。村人じゃない……?


「猫人発見って……」


私は鉈を下ろす。


「……こんなもの?」


もっとこう――


「『お前は何者だ!』とか」


「『この土地から出ていけ!』とか」


「『魔物だ!』とか……」


何か事件が起こると思っていた。

でも、実際は――


「薪拾って帰っただけ……」


私はため息を吐く。


「まあ、悪い子じゃなさそうだったけど……」


少なくとも、敵意は感じなかった。



「えー!?」


鞄の向こうから、さとるの大声が聞こえる。


「猫娘と会ったの!?」


「そうだよ!」


「本当に!?」


「本当に」


「どんな感じ!?」


「どんな感じって……」


私は思い出す。


「トラかと思って焦ったわ」


「トラ!?」


「耳が大きかったのよ!」


「猫じゃないの?」


「猫っぽいけど、大きいの!」


「へぇ~」


さとるが興奮している。


「写メは?」


「写メ?」


「写真だよ!」


「あの状況で撮れるわけないでしょ!」


「いや、でも貴重な異世界の猫娘だぞ!」


「そんな余裕なかったわよ!」


「今度来たら撮っておいてよ!」


「まあ、その余裕があったらね!」


「見たかったなー」


「しつこい!」


私はお腹を押さえる。


「それより!」


「ん?」


「今日のご飯、早くよこしなさいよ!」


「はいはい!」


さとるの手が鞄から伸びてくる。

その手には――今日の夕食のおにぎりが握られていた。


「ほら」


「ありがとう!」


私は受け取る。


「いただきます!」


異世界に来て初めて出会った住人は、猫耳の女の子。

そして――思ったより、異世界生活は平和だった。



昼間のことを思い出す。


「……」


あの猫耳の女の子。


「ここには、色々な種族がいるのかしら?」


私のことを「人族」って言っていた。

ということは――


「人族以外にも種族がいるってことよね」


猫人。


「猫娘……」


そうなると、


「犬もいるのかしら?」


犬耳。狐耳。兎耳。


……本当にいるのかもしれない。


「まあ、危ないことにならなくて良かった」


初めて会った相手だったけど、特に敵意もなかった。


とはいえ――


「注意は必要よね」


異世界なのだ。

日本の常識がそのまま通用するとは限らない。


「うーむ……」


私は昼間の猫人を思い出す。


「今度来た時、お菓子でもあげようかな?」


薪を拾いに来るくらいだから、また会う可能性は高そうだ。


「でも……」


ふと思う。


「猫って、何食べてたっけ?」


私は腕を組む。


「お菓子なら何でもいいのかしら?」


いや。待て。


「猫が食べちゃダメなのって……何だったかしら?」


私は必死に記憶を掘り起こす。


「チョコ……?玉ねぎ……?」


「……」


「まあ、猫人だからって猫と同じとは限らないか」


そう考えながらも――


「念のため、変なものはあげない方がいいわね」


私は小屋の外を見る。


「次に会ったら、まず何が食べられるか聞いてみよう」


異世界の猫人にお菓子をあげる。

それだけなのに、妙に楽しみになってきた。

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