Scene.8 ヤマトの因縁
その違和感のある言葉を、私は繰り返した。
「実験?」
「霊門を破壊した上で、浮遊する霊体を重ねて霊障を発生させるんだ」
「え……それって」
「しかも、それが超級ならどのくらい巨大な霊障に仕上がるのか、それを試しやがった」
「人間が故意に霊障を作り出せるんですか?」
ガンと手すりを強く叩く音が響き渡る。
「奴には……奴だけには、できちまうんだ。奴の霊特性が、霊体操作なんだよ……」
「霊体操作? そんな霊特性があるんですか?」
「現に明日香の体からは、これまでに確認したことのないほどの巨大な霊障が生まれたんだ」
何でそんな事を?
「だが、この時は偶然、4部隊全部が基地にいたお陰で撃退できた。そうでなきゃ、基地ごとやられてた」
「何が目的だったんですか?」
「分からない。奴はあまり、他人に自分を見せるタイプでもなかったからな、あんたと違って」
「……どういうことですか」
何だかサラッと小馬鹿にされた気がした。少しムッとした。
「すまんすまん。悪い意味で言ったつもりはない。あんたは、俺たちに分かりやすく気持ちが伝わるんだ。だから、どうしたら良いかも分かる。だけど、奴はそういうのを全く見せなかったんだ」
「そうだとしたら、明日香さんは何故彼を信用したんですか?」
「あんただって、今、九条から頼み事をされても答えようとするだろ? 素性の知れない間柄でも」
「……そうかもしれません」
「奴のことだ。次の関心はきっとあんただ。巨大霊障を一撃で消し去る霊力の持ち主。それを霊障にしたがるはずだ」
「それにしても、目的が分かりません。快楽犯、なんでしょうか?」
「いや……もしかしたら」
言葉を止めた五十嵐さんは、遠くを見つめた。
「冗談に聞こえるだろうが、社会の転覆、かもしれない」
「そ、そんなこと、誰もできませんよ」
「では、仮に巨大霊障を10体手なづけていたとしたら?」
「10、体……私たちは何もできずに殺されると思います」
「俺たち以外で、この攻撃を防げる者がいると思うか?AIには映らないんだぞ?」
「……」
「全てのシステムをバグらせ、このAI社会を終わらせることもできる、かもしれない」
下手な軍事攻撃より、可能性は高い。素人知識の私でもそう思えた。
「思い出したんだ」
グビと缶を飲み干した五十嵐さんは、缶の口を眺めている。
「奴が一度だけミスをした。それで、AIに取り囲まれたことがあった。その時に、こんな社会は間違っているとしきりに叫んでいた……」
缶を握り潰すと、私のほうに振り返り、真剣な眼差しで見つめている。
「奴の思い通りにさせる訳にはいかない。俺は絶対、あんたを守る。そして、面白くはないが悪くもないこの社会を守る」
「ありがとうございます……」
それだけじゃない因縁がこの2人にはある気がした。
話し込んでいると、私を探していた職員の人が現れ、例の如く、司霊官に呼び出されるのだった。
◇◇◇
「まともな休息も与えられなくてすまないと思っているよ」
「はい」
「しかし、残念ながら1番隊を欠いた穴を、他の隊で埋めなければならない」
西崎さんの命は大丈夫だったのだろうか。
「品川区八潮、対象者は有村聖」
「え?」
思わず聞き返してしまった。それにしても、品川って遠い。
「移動用のオートモービルの使用許可を出しておく。五十嵐が運転できるだろう」
「あの」
「何だね?」
「有村が霊障になっていることはないと思うんですが」
「そうだな。純粋な反逆者への対処を求める」
「捕まえるんですか?」
「できるなら、してみればいい。まあ、処刑以外に道はないと思うがね」
「司霊官は、どのくらい彼を知っているのですか?」
「私を操作しようとした愚か者だ」
「司霊官を操作?」
「君にはまだ言っていなかったか。私は霊体だ。ただ、安心してくれ。霊障ではない」
「え?どういうことですか?」
「簡単な話だ。幽体離脱をしたまま、肉体が死んだまでだ」
不思議だった。生きてる人のような質感をしている。
「私も有村同様、霊特性があってね。実体化といって、文字通り、霊体を実体化できるのだよ」
「全く気づきませんでした」
「普通はそうだ。しかし、有村は違った。気付いた。そして、私を操作しようとした」
「操作できなかったんですか?」
「いや、寸でのところを海原に救われた」
「明日香さん、ですね」
「とにかく、有村は危険な存在だ。最優先で片付けたい。頼んだぞ」
「分かりました」
その後、皆を集め、案内された車庫へ行き、鍵を五十嵐さんに預ける。
「まさか、オートモービルをまた運転することになるとはな」
文京区にあるヤマトの通用口が開き、オートモービルが飛び出した。
「と、到着時刻は20:45です」
「あと30分やな、すぐやんけ」
「狐火さん。今回は冷静に対処をお願いします」
私の言葉に狐火さんは素直に頷いた。
「前回は取り乱してしまったからの。大丈夫じゃ」
「て、敵です!十時の方向です」
窓から、その方向を見る。巨大霊障、2体。オートモービルが、止まる。
「お前ら、下りろ! 接敵するぞ」
私は先に1体倒そうと、腰のバッグに手を当てる。すると、狐火さんがその手を止めた。
「きっとまだ先は長いからの。お主のは取っておくべきじゃ」
そう告げると、お札を投げて先陣を切った。皆あとに続く。私は、防御のサポートに回ることにした。
2体いるので、なかなか有効打を与えられないでいると、狐火さんがお札をしまった。そして、首に巻いていた、大きくて太い数珠を両手で持つ。
それに霊力を込めて振り回した。
お札なんて目じゃない。とてつもない一撃が霊障を捉える。五十嵐さんの斬撃よりもダメージを与えているようだった。
それにより、予想より早く1体目が霧散した。
「と、年は取りたく、ないもの、だの」
だけど、その代償に狐火さんはほとんど霊力を使い切ってしまった。
「十分やってくれたさ。あとは俺たちに任せろ」
狐火さんが下がった中、今度は五十嵐さんが奮戦する。何もできない私は歯がゆかった。前に出ようとした瞬間――
「んんっ!」
私の後ろで狐火さんの声がして、振り返った。そこには、狐火さんを締め上げて口を塞いでいる有村の姿があった。




