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Scene.7 有村聖

 作戦地域に着いた時には、悲惨な有様だった。通りかかった一般人も霊障に巻き込まれて何人も倒れている。


「まどかさん!」


「おい、沙庭! 単独行動はよせ!」


 私は彼女を見つけて駆け寄った。呼吸を確認する。まだ生きてる。


 だけど、全身から多量に出血が見られて、すぐに医務班に渡さないと大変なことになる。


『ぐぉぉぉんっ!』


 まどかさんを担ごうとした時、目の前で2番隊の皆が戦い始めていた。巨大霊障3体だ。彼らも苦戦じゃ済まないかも。


 でも、まどかさんはこのままじゃ死んじゃう……


「……バ、カね。あん、たは、敵に、集中、し、なさい」


「まどかさん!」


 そう言い残し、意識を失った。早く皆を助けて、まどかさんを救う方法――


 倒して終わらせるしかない。私はダーツを取り出す。


 1本目は一番遠くで動いている霊障に。一撃で霧散する。2本目は皆が襲われた霊障に放つ。霊障は霧散した。


 残りはあと1体。そう思っていると、霊障の近くから拍手が聞こえる。


「驚いたよ。こんな秘密兵器がヤマトにいたなんて」


 長い黒髪で細身の男性がそこにいた。


「お前は! 有村(ひじり)!」


「五十嵐くん。久しぶりだね。大した霊力でもないのに、よく生き残っていると思うよ。純粋に尊敬する」


「有村ぁぁぁっ!」


 普段、何事にも動じない狐火さんが叫んでいる。そして、単身で有村と呼ばれる男の元に走り込もうとする。


「あかんで、オバちゃん! 落ち着くんや! 姉ちゃん、手伝ってーな!」


「は、はい!」


 私は激昂する狐火さんを新太郎と共に抑え込む。私たちがまるで見えてないかのように力が込められている。


「狐火もよくもまあ、その老体で五体満足でいられたね。素晴らしいよ」


「よくも俺たちの前に顔を出せたもんだな」


「君たちには用はないよ? そこの魅力的な霊力を持つ彼女に用があるだけさ」


 有村は私を見る。状況が分からない私は見つめ返す。


「君、名前は?」


「さ、沙庭命」


「沙庭……そうか、くすくす……覚えておくとするよ」


 そう告げると、振り返り手をひらひらとさせながら、霊障の向こうへ消えていった。


 彼は一体、何者?


 そんな疑問を忘れさせるように、残った巨大霊障の熾烈な攻撃が再開する。


 私はもう攻撃できない。防御に徹して、攻撃できる人たちの盾になる。


 実際は5、6分だっただろう。とても長く戦っていた気がした。全身に汗をかいている。やっと霊障が霧散する。


「ひとまず1番隊の生存確認だ」


 散り散りになっていた隊員を捜索して確認する。私は最初にまどかさんの死亡を確認した。


「……ごめんなさい。遅かったですね」


 涙が流れる。悔しかった。私のダーツがあと1つ撃てれば、戦いは早く終わっていたのに。私のせいだ。


 次の隊員の捜索を始める。


「あ」


「相変わらず可愛いね〜」


 ビルの陰に隠れるように座る西崎さんが生きてた。涙が出る。


「あらあら、感動の再会なのは嬉しいんだけどさ、ほら見てよ、この足」


 すぐに足を見る。両足の膝から先がなくなっている。


「君の前だから強がってるけど、ちょっと痛くてね。助け呼んでもらえるかな?」


「わ、私が背負います!」


「そうかい? ありがとう、お言葉に甘えちゃうかな」


 私は彼を背負って、合流ポイントまで移動する。重い。そして、血が私の身体中に付着して何とも言えない感じだ。


「西崎、生きてたか」


「いや、何とかね……」


「他の隊員は、全滅や。今、オバちゃんが霊体を消して回っとる」


 惨状だった。あの時、私を救ってくれた人たち。それに顔は皆、覚えてる。助けられなくて本当に悔しい。


 基地に着くと、西崎さんは医務班に連れて行かれた。その姿を見送ると、司霊官から呼び出しがあった。


 報告する内容が重い。だから、足取りも重くなった。ノックして司霊官室に入ると星澤さんがいた。


「大手柄だ、沙庭くん。前代未聞の巨大霊障3体同時出現の撃退。素晴らしい働きだよ」


「いえ……犠牲者はたくさん出てしまいました」


「そうだな。殉職した隊員のことは残念に思う。そして、隊員の補充を終えるまで、1番隊は動けないだろう」


 そんな話じゃない。私はあの人たちの死が悲しいのに。


「それに有村の尻尾を掴めたのは嬉しい誤算だった」


「何者なんですか、有村って」


 私の質問に、司霊官は少し答えに困っているように見えた。しばらくすると、回答が得られた。


 元2番隊隊員。そして、前任の隊長を殺した張本人であり、危険人物だとまとめられた。


「尻尾さ〜え、見つけれ〜ば、こっ〜ちのものだ〜よ」


 星澤さんは、細い目をさらに細めてにやりと笑う。いつも思うんだけど、この人ってすごく不気味。


 部屋に戻ろうと、トボトボ歩いていると、突然、缶ビールが飛んできた。


「わっ、とと」


 飛んできたその先には、五十嵐さんが微笑んでいた。


「沙庭、飲めるだろ? 少し付き合わないか?」


「の、飲めますけど……」


 私は連れられるがままに、展望デッキに上がる。お世辞でもいい景色なんて言えない、灰色の世界が広がっていた。


「柳井や他の隊員は、俺とほぼ同期だった」


「そうなんですか」


 まどかさんの最期の姿を思い出す。


「俺にもっと力があれば、助かる隊員もいたかもしれない」


「私もそう思います」


「ふ、俺が言うのもおこがましいが……沙庭、あんたは良くやっている。あんたがいなきゃ、俺たちも全滅だった。感謝している」


「そんな……」


 励ましてくれているのは分かってる。だけど、悔しさと悲しさは晴れない。


「3番隊も一度全滅している。誰一人残らずな。俺たちがいる場所は、そういう場所なんだ」


 私が思っていたより、危険な場所にいる。そういうことだろう。


「……確かに、AIに捕まって施設に入ったほうが、楽かもしれませんね」


「言ってくれるなよ。だが、本音ではある」


「ところで、前任の隊長をあの有村さんが殺したんですか?」


 何気なく話題に出したことを後悔した。信じられないくらいの怒りを感じる。


「ああ。奴が明日香を殺したんだ」


 あすか? そうだ! 前任者名が海原明日香と書かれていたのを思い出す。


「何でそんなことになったんですか?」


 恐る恐る尋ねてみると、眉間にシワを寄せ、目をギラ付かせ怒る五十嵐さんが答える。


「実験だ」

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