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Scene.6 狐火の信頼

 願ってるそばから呼び出しとか、嫌がらせですか。


「ずいぶんと不機嫌そうだね」


「はい。入ったばっかりで、3つも任務こなして、階段なんて、何段登ったのか分かりません。星澤さんは、寝る場所を用意してくれると言っていました。寝れてません」


 私の言葉に、くすりと笑った司霊官は続けた。


「安心したまえ。任務ではない。任務をこなした感想と、隊員たちとは上手くやれそうかを聞きたいだけだ。それが終われば、寝てくれて構わない」


「……感想ですか?AIを避けるのが大変だと思いました。それと霊障の範囲や個体数の把握が難しいと」


「なるほど、流れは掴んでいるようだな。隊員はどうかね?」


「このはさんは良く面倒を見てくれると思ってます。五十嵐さんは上司って感じです――」


1人1人との関わりを説明すると、ようやく解放された。


「はぁ〜、やっと眠れる〜」


 シャワーを済ませた私は、服を着る気力もなく、そのまま裸でベッドに入った。


 翌朝、ノックで起こされる。ドアを開く。


「ふぁ〜い?」


 その先には、驚いた顔をする五十嵐さんの姿があった。


「……沙庭、服くらい着て出てこい」


「へ?」


 自分の体を確認する――


「きゃぁぁぁぁっ!」


 バタンと慌ててドアを締める。そうだった、裸で寝てたんだった。いつもなら、家事AIドローンが時間で服を着せてくれてたのに。


 やっちゃった。五十嵐さんに全裸を見られちゃった……


 恥ずかし過ぎて死にそう。どんな顔して会えばいいの。どうしよう、どうしよう。


「……あ〜その、新しい任務だ。皆、広場で待ってる」


 そう言い残し、足音は遠ざかった。


◇◇◇


 広場に着いた私は、真っ先に五十嵐さんを見てしまった。目が合うと気まずそうに目をそらした。


 はぁ……考えても仕方ない。任務に集中しなきゃ。


「今回の任務は、荒川区に哨戒だ。AIを避けながら霊障に当たれば叩く」


「い、一番厄介な任務ですね」


「ほんまやで、隠れっぱなしやからな。神経使うわ」


「手早く終わらせるため、3チームに分かれて行動するぞ」


 五十嵐さんはそう告げると、テキパキと仕切った。五十嵐さんと九条さんペア。このはさんと新太郎くんペア。


 そして、私とまだ完治していない狐火さんがペアだった。


 東側を任され、私と狐火さんはAIに気付かれないよう、細心の注意を払いながら進む。


 視界の向こうには、何も知らない一般人が普通の暮らしをしている。私も少し前は、あっち側だった……


(めい)、だったかの」


 突然の声にビクッとなった。振り返ると、狐火さんが私を見ていた。


「言い遅れたのじゃが、あの夜はお主のおかげで命拾いしたのじゃ。礼をするぞよ」


「いえ、間に合って何よりでした」


「妾は、先任のリーダーを心底尊敬しておったのじゃ。一緒に死にたかったほどにの」


 歩みを進めながら、狐火さんは私に、ゆっくりと身の上を語ってくれた。


「新しいリーダーなんぞ、認める気がなかったのじゃ。しかし、間違っておった……」


 私の肩を掴み、狐火さんは真剣な眼差しで見つめる。


「お主にこの妾の命、預けても良いぞよ」


「ありがとうござ――」


 ズン――この感覚、体が重い。


「霊障じゃな、近いぞよ」


 先行する狐火さんは、監視AIドローンの見ていないルートをするすると進む。そして――


「いましたね」


 サイズ的にも、強い霊障ではなさそうだった。だけど、この世に憎しみを残したのか――


『死ねっ!死ねっ!死ねっ!』


 激しい怒りの叫びを上げていた。そんな中、狐火さんのお札が宙を舞う。


 そして、霊障ピタリと張り付くとジュッと音をさせ、炎を放つ。霊障が悲鳴を上げる。


「この程度ならば、お主のダーツの出番もあるまい」


 狐火さんの手元から札が何枚か飛ぶと、霊障は霧散した。


「では、規定のルートに戻るぞよ」


「はい」


 慣れている。数をこなして来た熟練者なのが素人の私にも伝わってくる。


 普段は、五十嵐さんが仕切っているから分からなかったけど、狐火さんも凄い。


 少し進むと、また霊障にぶつかる。先ほどの霊障と変わらないと思っていた。


「待つのじゃ、命……様子がおかしいぞよ」


 距離を取ることを促す狐火さんに、言われるがまま、私も下がる。


もう一体、霊障――


「融和しおったの、厄介な」


 サイズはふた周りほど大きくなっている。その右手が振り下ろされた。ズドンと地面が揺れる。


 私と狐火さんは左右に分かれて飛んで、攻撃を避ける。札が飛ぶ。炎を見せるも霊障は動じない。


 私は腰のバッグに手をやる。


「待つんじゃ、命! まだ、お主の技を使うのは早い!」


「でも、狐火さんの攻撃に動じていません。どうすれば?」


「大丈夫じゃ――」


 次の瞬間、霊障に剣撃が走る。次に、パチンコが当たる。銃撃も当たる。マークが付いて弱体化が始まる。


「皆さん!」


 気が付けば、私の周りには2番隊の隊員が揃っていた。


「合流ポイントだ。狐火、よくやったな」


「もう少し早く来れんのかえ? 年寄りは労って欲しいものよの」


「よく言うぜ。よし、お前ら、畳み掛けるぞ!」


「任しとき」「は、はい」「ぎゃははは」


「沙庭、お前は防御支援だ!」


「はい!」


 皆が揃うとあっという間に霊障は霧散する。開始から気付けば5時間が過ぎていた。


「哨戒は十分だろう」


「はい、そう思います」


「戻るぞ」


 基地に戻った私は、ビクビクしていた。また司霊官からのお呼びがかかるんじゃないかと――


「沙庭隊長ですね。司霊官がお呼びです」


 ほら、来た。もう嫌になる。ゆっくりさせてよ。隊長、変わって欲しい……などと心の中で呟きながら、司霊官室の前に着く。


 ノックをすると、「入れ」と言われたので嫌々入る。


「緊急事態だ。1番隊の任務先で巨大霊障が同時に3体出撃していると報告が入った。このままでは1番隊を全員失いかねない」


 狐火さんがやられかけたあのサイズが3体……


「幸い、作戦地域は近い。ここだ。すぐに向かってくれ」


 紙を渡されるそこには、中央区銀座と書かれており、複数人の名前が記載されている。


「分かりました」


 まどかさんたちには、助けて貰った。今度は私が助けなきゃ……


 慌てて、隊員たちを集め、私は作戦地域に向けて走る。

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