Scene.13 絶望の連鎖
五十嵐さんの読みは、すぐに形になった。超級霊障が出現したのだ。欠員が1名出た1番隊、そして私たち2番隊が出撃となった。
とてつもない大きさの霊障が千代田区を包む。
中心がどこなのか把握することが困難な大きさは、私たちの恐怖心、そして警戒心を限界まで引き上げる。
だけど、警戒するまでもなく、霊障の中心はとても大きく一目瞭然だった。
「あの時と一緒じゃの」
狐火さんが呟いた。
「ああ。明日香の時と同じだ」
五十嵐さんが拳を握り締めている。
「ぎゃははは」
「え?」
九条さんが突撃してしまう。
「1番隊も突撃している。俺たちも行くぞ!」
戦闘が始まった。だけど……
「あかん。全然効いとらへん!」
新太郎くんが嘆く。数珠で戦っていた狐火さんも後退してくる。
「まるで効いてないぞよ、戦いにならんのじゃ」
「お前ら、愚痴ってると死ぬぞ」
五十嵐さんの剣撃も全く通らない。
「沙庭。あんたのダーツを温存してる場合じゃなさそうだ。頼む」
「はい!」
私はダーツを投げた。光の矢が霊障に刺さる。でも、いつもみたいに霧散しない。それどころか――
「え……効かない?」
「もう一発だ」
「は、はい!」
霧散しない。
「そ、そんな……」
「沙庭。このままじゃ全滅するぞ。一旦撤退だ」
「わ、分かりました。皆さん、撤退します!」
皆で来た道を走った。だけど、その行く手を霊障の攻撃が阻む。
当たれば致命傷になるのは必至の怒涛の攻撃を避け、受け流しながら進む。
「走れ! 止まればやられるぞ!」
五十嵐さんの必死の檄が飛ぶ中、使われてない地下鉄の入口から続くヤマトの基地へ入る頃――
「あれ? 九条さんがいません」
「何だと? いつからだ?」
「ごめんなさい。逃げるのに必死で分かりません」
私が五十嵐さんに謝罪していると、玉藻ちゃんが口を開いた。
「変な人なら、叫びながら霊障に突っ込んでったけど」
「え……何で?」
私は理由が分からなかった。
「……くそ、あの野郎。囮になったのか」
「囮?」
「なるほどの……途中から攻撃が減ったのはそういうことじゃったかの」
「なら、助けにいかないと!」
私が戻ろうとすると、五十嵐さんに手を掴まれた。
「九条の犠牲を無駄にする気か。今のままであの霊障に勝てるのか? まずは方法を考えるのが先だ」
「そんな……」
また仲間を失った。変な人で交流できなかったけど、戦闘では活躍してた人だ。その姿は焼き付いている。
「しかし、沙庭のダーツが効かないとなると、どうしたものだか」
腕を組んで唸る五十嵐さんは、そう零した。これまでに、私のダーツが効かないことなんてなかったから余計に、次の手が浮かばない。
「どちらにせよ、今日は解散だ。皆、霊力切れしている。明日に備えて各自準備だ」
「はい」
部屋に戻った私は、悩んでいた。霊力を短期間で強化する方法は存在しない。
今ある霊力の使い方を工夫するしかない。何か方法はないものか……
そんなことを考えていたらいつの間にか眠っていた。
翌朝、そんな自分に自己嫌悪した。九条さんが犠牲になったばかりで、それを嘆くわけでもなく、あっさり眠るのだから、太々しい。
「でも、短期間で死にすぎだよね」
だから、死が軽く感じられているのも本音だった。それは他人の死だけでなく、自分の死も同じだ。
五十嵐さんが決めた時刻に、広場に集まり、対策を練ることになった。
「命以外にあれを仕留めることができるものがいるかの」
「あたし、やる」
狐火さんの言葉に、玉藻ちゃんが返事する。
「どうやってやるつもりだ、渋谷?」
「霊門解放」
「そうじゃの、お主は超級じゃからの。それなら倒せるかもしれんの」
「駄目だ、許可できない。それにここで戦いが終わりとは限らないんだ。渋谷、命は大事にしろ」
私はふと浮かんだ疑問をぶつける。
「五十嵐さんって、中級霊力者ですよね? 何で上級のような力を発揮できるんですか?」
「ああ、それか。それは居合の要領で力を溜め……沙庭、それだ!」
「え?」
「溜めるんだよ、2本分の霊力を1本に」
「そんなこと、できるんですか?」
「できる、現に俺は普段、本来振り回せる数の半分にすることで上級相当の力を振るっている」
「ただ、練習してる暇はない。ぶっつけ本番になるだろう――」
そう告げた五十嵐さんは、刀を抜き、見本を見せてくれた。集中の仕方、霊力の動かし方、何度も何度も……
「ありがとうございます。だいぶイメージできました」
「よし、沙庭が失敗した場合、渋谷……」
五十嵐さんは申し訳なさそうに玉藻ちゃんを見つめる。
「分かった。霊門解放でしょ? いいよ」
「そうならないことを願う」
一区切り着くと伝言係がやってきて、司霊官室に呼び出された。出撃だろう。
「……1番隊全員、消息不明となった」
「全員ですか!?」
これは次があることを意味していた。
「君だけが頼りだ、沙庭くん」
◇◇◇
「1番隊が消息不明だと?」
「はい。有村の手に落ちたと私は考えています」
「同感だな。今回の超級霊障だけで終わらないってことだ。沙庭、頼むぞ」
現場に着くと皆、防御に徹する。集中する私をサポートするためだ。皆が作ってくれた時間、絶対にミスできない。
はぁ……はぁ……はぁ……
呼吸がやけに聞こえる。鼓動もドクドクと速まっている。集中、集中――
右手で構えるダーツに、私の霊力の全てを流し込むイメージで――
あ、できたかも。
「皆さん、離れてください!」
次の瞬間、光に遅れて音がやってくると、超級霊障に大きな穴が空いた。
同時に空を覆っていた霊障が晴れていき、目の前の本体は霧散する。
「やりよったの、命」
狐火さんが、頭をわしゃわしゃとかき乱す。そう。私はやったんだ。素直に嬉しかった。
「あれを一撃とは、さすが鬼級の底力だな」
にこやかな空気の中、新太郎くんだけが暗い顔をしていた。
「わいにこないな芸当無理や……そろそろ潮時かもしれへん」
「何そんな弱気なこと言ってるの、バッカじゃない?」
玉藻ちゃんが新太郎くんに檄を飛ばす。
「あたしだって、このくらい、できるから」
そう言って、私を睨みつける玉藻ちゃん。プイとそっぽ向き、先に帰り始める。
「ま、待ってーな、玉藻!」
新太郎くんが走って追いかける。何だか、微笑ましい姿に、思わず笑みが零れた。
◇◇◇
2日後だった。司霊官室で、私は絶望していた。超級霊障、3体同時出現。
1体でもあれだけ苦戦するのに、3体なんて。
しかも、対応できるのが、私たち2番隊だけという深刻な危機がヤマトを襲っていた。




