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Scene.12 上手くいかない

「任務を受けないと言っています。私は、ヤマトがこんな組織であることを知っていたら参加しませんでした」


「だが、参加している。違うかね?」


「ですから、任務を拒否しています」


 私がそう主張すると、司霊官はしばらく黙り込んだ。


「分かった。今回は君の主張を通そう。ただ、士気に関わる決定だ。相応の罰を受けてもらうことになる」


「構いません。それで仲間が死なずに済むなら」


「反省室にて、7日間の謹慎処分とする。これはかなり甘い処分だ。それは、君の両親の貢献に対する義理返しだと思ってくれたまえ」


 両親がここで働いていたことの決定打をこんな形で受け取る。


◇◇◇


 謹慎が明け、部屋から出る。暗い部屋だったのでまぶしい。


 謹慎は、気持ちを整理するのにちょうど良かった。このはさんの死を追悼する時間にもなった。


 建物から出ると、新太郎くんと新太郎くんより少し年上の女の子の姿があった。


「姉ちゃん、謹慎お疲れさん」


「ありがとう。この子は?」


「新しく隊に入ったもんや。隊長や、挨拶しーや」


 新太郎くんが声をかけるその相手の、ポニーテールのよく似合ったスポーティな服装の少女が、視線をそらし、ゆっくり口を開く。


「渋谷玉藻。14歳」


 2人の姿を見て、さらにヤマトへの不信感が強まった。


 当たり前にしてたけど、新太郎くんは10歳で、まだ幼い。そして、この玉藻ちゃんも14歳――


 こんな子供を平気で部隊に組み込むなんてどうかしてる。


「玉藻ちゃん、私が隊長の沙庭命です。よろしくね」


「あんた、世界で唯一の鬼級なんでしょ?」


「唯一か分からないけど、鬼級だと言われてるね」


「あたしは負けないから」


「え?」


 そう告げると、敵意のある目を向けた玉藻ちゃんは軽くお辞儀して立ち去る。それを慌てて追いかけるように新太郎くんも立ち去った。


 2人を見送るとそれを待っていたように、伝言係が現れ、司霊官室に呼び出される。


「謹慎、ご苦労だった」


「……」


「今、1番隊が有村と戦っている。すぐに向かってもらいたいところだが」


「……」


「少し様子を見るとしよう」


「司霊官は、これが正しいと思いますか?」


 聞かずにいられなかった。その言葉に顔色1つ変えずに司霊官は答えた。


「当然だ。なら聞くが、霊障は常に発生し続けている。それはどうするのが正しいのかね?」


「……でも、生きてる人を殺して幽体にしたり、死んでしまった人のことを悲しみもせず、駒のように使い捨てるのが、正しいんですか? それに幼い子を戦場に駆り立てるのはどうなんですか?」


 司霊官は、大きくため息をついた。


「君は何が言いたい? 悲しみ、嘆き、何もしないことが正しいと? 私は日本人の未来のために戦っている。そのために犠牲が出るのは致し方ない」


「……でも!」


「君はこの激化した環境しか知らないから、余計に不満を感じているだろうが、有村が現れるまでは、隊員の死亡はなかった。自然発生する霊障であれば、6人小隊は適切だったのだよ」


「……」


「有村が全てを狂わせているのだ。あの者を止めない限り、被害は増える一方だろう」


 正論だった。何も言えなくなってしまう。


「君の正義もご立派なことだが、正義の遂行には必ず犠牲が伴うことは忘れないことだ。他に何かあるかね? ないなら、戻りたまえ」


 私は……


◇◇◇


 久しぶりの部屋。


 久しぶりのシャワー。


 気持ちいいはずなのに、涙が出た。私は自分の無力の言い訳に、ヤマトを否定していただけかもしれない。


 葵。まどかさん。そして、このはさん……


 ベッドに寝転んでいると、ノックが聞こえる。タオルを巻いて、ドア越しに返事する。


「すまぬの。くつろいでいたところをの」


 狐火さんだった。深刻な顔をしている。


「そうじゃ、謹慎お疲れ様じゃったの」


「ありがとうございます」


「いきなりですまなぬが、妾は隊を抜けようと思うのじゃ」


「え?」


 予想もしていなかった言葉に、私は返す言葉に詰まってしまった。


「お主にも分かろう。妾の力ではもはや足手まといじゃ」


 確かに、巨大霊障相手でも苦戦が続いているのは現実だ。


「弱いものが居ては邪魔になるくらい、過酷な状況になってしまったよの」


「でも、狐火さんだって上級の力があるじゃないですか」


「霊力だけの話ではないのじゃ――」


 そこから、先日の有村に首を切られた話になり、あの時、自力で脱出できなかった筋力の低さを嘆いた。


「死ぬのは構わぬが、人質にされたり、庇われるのは御免よの」


「……」


 何も言えないで、俯いていると、狐火さんは私の肩にそっと手を置く。


 見上げると笑顔を浮かべ、頷いた。そのまま、部屋から出ていく。


「もう、なんで上手くいかないの……」


 うんざりした私は、缶ビールを片手に、展望デッキに向かう。何となく、私にとってあそこは癒やしの空間だからだ。


「奇遇だな、沙庭。あんたも一杯やってるところだったか」


 その声に振り返ると、缶ビールを掲げて乾杯を要求している五十嵐さんの姿があった。


 この人って、いつも余裕があって格好いいな。そんなことを思いながら、乾杯する。


「反省室はどうだった? いい気分転換になったんじゃないか?」


「そうですね。いろいろ気持ちの整理がつきました」


「そうか。乾杯して楽しい気分を壊して悪いが、嫌な知らせがある」


 五十嵐さんは手すりに乗りかかり、遠くを見ながら、そう告げた。


「私の方も嫌な知らせがあります」


「なんだ? 先に言ってみろ」


「狐火さんが隊を抜けるそうです」


「……」


 ぐいとビールを煽る五十嵐さんは、少し寂しそうにいう。


「悪くない決断だろうな」


「五十嵐さんの方の嫌な知らせはなんですか?」


「さっき1番隊が帰還したんだが、1人が行方不明だそうだ」


「死亡、ですか」


「 生死はわからないが、有村との戦いの後だ。匂わないか?」


「……まさか」


「ああ。俺はそうだと確信してる。明日香の再来だ。超級霊障が来るぞ」

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