LAST Scene 有村の見下ろす世界
「有村もいよいよ本気、ということだろう」
「どうすれば……」
「全力で当たってくれたまえとしか私からは言えない。有村の次の手を警戒するためにも、今3、4番隊を基地から出すわけにもいかない」
「……そうですよね」
司令官室から戻った私は考えた。1体は自分でどうにかできる。残り2体をどうすれば。
「やるしかないさ、隊長さんよ」
「せや」
「あれ? 狐火さんは?」
司霊官からの言葉を、合流した隊員たちに伝えた私は、そのことに気付く。
「前回の出撃が最後の約束だったそうだ。あんたに礼を伝えるよう言われていた。感謝してるってよ」
「……そうですか。ますます厳しい戦いになりますね」
「はん! 何言ってんの? 超級のあたしがいるんだから、大丈夫だし!」
玉藻ちゃんなりの励ましなのかな。でも、絶望的な状況なのは間違いない。
「6人小隊すらまともに組めない状況ですが、出撃します!」
◇◇◇
「居やがったぞ。新太郎、玉藻、沙庭を守れ。沙庭、まず1体、確実に仕留めるぞ」
「分かったで」「仕方ないわね」「はい!」
眼前には目を覆い、諦めてしまいたくなるほど、特大の霊障の本体が3体並ぶ。
こんな霊障、干渉エリアに入っただけで、低霊力者は気がおかしくなるだろう。
それほど異次元な現象が有村という1人の男の手で作られている。
私は、ダーツに霊力の全てを集中する。前回できたんだ。今回もできる。そう思ったものの、なかなかあの時のような感覚に辿り着かない。
私への攻撃を防ぐ仲間の背に焦りを感じる。集中、集中――
来た!
「行きます! 下がってください!」
その1投は、1体の霊障の本体を貫き、霧散させた。それにより、一段と激化する攻撃。
私は霊力が尽きているため、防御もできない。五十嵐さんがカバーしている。あと2体――
「霊門解放!」
玉藻ちゃんがそう叫んだ。次の瞬間、彼女の放つ弓の威力が何倍にもなり、1体を押し返している。
「何やねん、わいが先や言ったやろ! 霊門解放や!」
続けて、新太郎くんも叫ぶ。そして、もう1体へパチンコを放つ。明らかに効いているようで、攻撃の手も緩まった。
「旦那! 姉ちゃん連れて逃げえや! このままやと勝ち目があらへん!」
「馬鹿野郎……ガキが格好付けやがって。沙庭、撤退するぞ」
「え? でも」
「あんたは、あいつらの死を無駄にする気か!」
その言葉の意味は分かってなかった。だけど、無駄にしちゃいけない。それだけは分かった。だから、五十嵐さんに黙って付いていった。
地下鉄の入口をくぐった頃に、走り続けて息も上がってカラカラの喉で、前を歩く五十嵐さんに聞いた。
「あの、霊門……解放、って?」
「霊門を無理やり開けることで、霊体が露出し、一時的に霊力を爆発的に高める技だ」
「そん、な便利な、技がある、なら、何故今、まで、誰も、使わなかった、んですか?」
「まず、全員が使えるわけじゃない。そして……霊門を無理やり開けるということは、霊体が流出して死に至るのは、知ってるよな」
「え……それじゃ」
「ああ、あの2人は俺とあんたを逃がすために命を捨てた。俺が霊門解放できれば、先にしたんだがな」
悲しみを飲み込もうとした私に、運命は無情なもので――
ズン――
「え……霊障?」
「不味いな、基地の中からか」
再び走り出した私は、嫌な予感が止まらなかった。
前を走る五十嵐さんが、基地の入口で止まる。その背中にぶつかった私は、「すみません」と謝罪しながら、中の様子を見る。
「嘘……何で? 何でここに超級霊障がいるの!」
その霊障はすでに3番隊、4番隊を壊滅させていた。いつもは賑やかな市場に、無数の死体の山ができている。
「くそ! 何で俺は霊門解放ができないんだ!」
私もできるなら、今ここでしただろう。このまま、何もできずに殺されるの? 今までの頑張りは何だったの?
霊障が私たちに気付く。
「五十嵐さんだけでも逃げてください!」
「馬鹿言うな! 沙庭が逃げろ! 時間は稼ぐ!」
カァァァンッ! 突如、空に光の玉が浮遊し、霊障に当たっては離れ、当たっては離れと繰り返している。あの霊力――
「司霊官?」
それに続く光の玉が無数に現れ、同じように霊障へぶつかっていく。
「あれは星澤さん?それに、西崎さん……」
感じる霊力の痕跡に知り合いがいる。これは諜報部隊の人たち?
「え……」
「ち……狐火まで」
それは、西崎さんの時と同じで、ヤマトに殺されたことを意味していた。
「何で……」
狐火さんの光の玉だけが、私の周りをくるくると回る。それはまるで挨拶でもしているようだった。それから、狐火さんは霊障にぶつかって弾けた。
「くそ、くそ、くそ……」
私は自分の無力さに激怒していた。
目の前で西崎さんが弾ける。星澤さんが弾ける。たくさんの光の玉が弾けていった。
だけど、その甲斐もあって、確実に霊障は弱まっている。最後に司霊官がぶつかると、霊障は霧散した。
そして、光の玉は私たちの前で司霊官へと姿を変える。
「撃退、できた、ようだな」
ボロボロで喋るのもやっとな様子の司霊官が口を開いた。そして、辺りを見渡す。
「ふふ……これは、再起動、させるには、骨が、折れる、な」
「再起動? できませんよ、残念ながらね」
その声に、私は振り向く。同時に五十嵐さんは刀を構えて走り出していた。
「有村ぁぁぁっ!」
五十嵐さんの切っ先が有村に迫る。だけど、次の瞬間――
「司霊官……」
司霊官が五十嵐さんの体に張り付き、動きを酷く鈍らせていた。ひょいと避けたあと、彼は私を見る。
「もう答えが出たのではないだろうか? 君が成すべきことは何か」
このはさんを殺したナイフを手に、そう問いながら、私に近付いて来る。
「さ、にわ! 逃げ、ろ!」
司霊官の霊圧で苦しむ五十嵐さんが、必死に叫んでいる。
私は残ったダーツを握る。やっぱり、少しは霊力が戻ってる。それをダーツに込め――
『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』
司霊官に向けて投げ付けた。すでに瀕死だったこともあり、そのまま霧散する。
キィンッ! 金属音がする。五十嵐さんの刀と、有村のナイフがぶつかっている。
「有村、貴様には多くの仲間を殺された。そして、明日香の仇だ」
風を切る刀の音。有村は、辛うじて避ける。次の攻撃、ナイフで受ける。だけど、本物の剣士である五十嵐さんの速度には敵わず――
「ぐぁぁぁぁぁぁっ! こ、この程度で、ぼ、僕が止まる、と思わない、で、欲しい、ね……」
右上腕を失い、ナイフを握れなくなった有村は、逃走を始める。
「沙庭、追うぞ。決着を付ける」
「はい!」
私たちは有村の背中を追う。出血酷く、痛みも相当なはずなのに、彼は走ることをやめない。
通路にある棚を倒し、ゴミ箱を倒し、あらゆるものを使って、私たちの足止めを試みていた。
地上に出たのは、それから十数分後。
「沙庭!」
私は五十嵐さんに抱かれて横に倒れる。そんな場合じゃないのに、ドキドキしてしまう。
「ち……奴め、霊障を置いて行きやがった」
その視線の先には、巨大霊障が立っていた。
私はもう、ダーツはもちろん、防御に回す霊力すら残っていない。
「俺がこいつを足止めする。沙庭は奴を追え」
「で、でも――」
巨大霊障は五十嵐さんでは倒せない。それはこれまでの戦いでしっかりと証明されている。
「行け!死んだ奴らの思いを無駄にするな!」
「……はい」
私は1人、有村を追う。血の跡が残っているので、追跡は簡単だった。袋小路に出た。壁を登って逃げたのだろう痕があった。
私も壁を登ろうとした時――
「君とは分かり合えると思っていたのに、残念だよ」
壁の上から、有村が見下ろしていた。雑ながらもしっかりとした止血を施している辺りは、さすがといったところだ。
無視して壁を登る。上に手が届いた時、蹴り落とされ――
「もう終わりにしよう……」
地面に尻もち付いた私を、悲しげな表情で見下す有村。立ち上がろうとする私に――
ビー、ビー!ビー、ビー!
『重犯罪者発見!直ちに射殺する』
運命は容赦なかった。私は警備AIドローンに取り囲まれていた。
いつだって私はあと一歩、間に合わないんだ。悔しくて有村に向かって叫んだ――
「貴方だって、いずれ全てを失うんだから――」
警備AIドローンの放ったマシンガンの銃声が、袋小路に無情に響き渡るのだった。
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