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Scene.10 ヤマトベイビー

「ああ、勘違いしないでくれたまえ。もちろん、本人の同意は取っている。あのまま、障害を抱えて生きるよりは楽だろう」


「どういうことですか?」


 力のある霊体が、肉体に定着している霊体を、霊門から無理やり引きずり出すことが出来るという。


 瀕死だったり、重症の場合はさらに引きずり出しやすいそうだ。


 ただ、無理やりなのでリスクもあるそうで、本来の霊体流出よりもとても早く流出するため、寿命は半分になると司霊官は話した。


「話が逸れてしまったが、有村の件が片付くまでは、君たちの想定を踏まえ、基地の防御を優先するとしよう。3、4番隊にそれを任せる」


「私たちは?」


「2番隊はそのまま、有村を追ってもらう」


「分かりました」


 司霊官室を後にした私は、1つの疑問が浮かんでいた。


 ヤマトは正しいのだろうか。


 同意はあるとはいえ、人殺しを当たり前としている組織だ。AI社会より悲惨なのではないだろうか。


 部屋に戻った私は、シャワーを済ませると缶ビールを1本開け、飲みながら考えた。


 成り行きで参加したとはいえ、たった数日でも激動だった。


 司霊官に言われるがままに任務に当たっていたけど、本当に正しかったの? 疑問ばかりが頭を巡る。


「今は考えても仕方ないか……」


 ビールが空になる頃、私は思考を諦めることにする。


「でも、有村はこの答えを知っているのかもしれない」


 最後に口をついた言葉が、やけに耳に残る中、ベッドでゆっくり眠りについた。


◇◇◇


 初めて基地内をゆっくり歩くことができた日だった。


 狐火さんの容体を医療棟に確認に行き、それからふらりと市場へ向かう。


 市場はとても賑わっていて、露天商や屋台が立ち並ぶ。たこ焼き屋の前を通り過ぎようとした時、知っている顔を見つける。


「こんにちは、このはさん」


「た、隊長!こんにちは」


「たこ焼きですか?」


「は、はい。あたし、これ大好きで」


「そうなんですか、私も食べてみよっと」


「おいしいですよ」


 かなり並んでいる列の最後尾につける。ここにいる皆、諜報部隊や医務班、メンテナンスチームなど、ここで活動している人なんだよね。


 この人たちは、ヤマトに疑問はないのかな。あっても五十嵐さんの言うように、選べないのかもしれない。


 やっと購入できると、このはさんが食べずに待っていてくれた。


「よ、良かったら、一緒に食べませんか?」


「ぜひ」


 私たちは、ベンチに腰掛ける。そして、「いただきます」と割り箸を割り、たこ焼きを食べる。熱くて口をほふほふとしながら、少しずつ食べる。


「うわ〜美味しい〜知らなかった、こんな美味しいものがここにあるなんて」


「で、ですよね。あたしも知った時、本当に驚きました」


「このはさん、聞きたいんですけど」


「な、何でしょう?」


「ずっとこんなに忙しいんですか?」


 たこ焼きを口に運びながら、何気なく聞いた。このはさんの箸が止まる。


 私は聞いてはいけないことを聞いてしまったかとドキッとする。


 このはさんは少し黙り込んでから、考えがまとまったのか、口を開く。


「こ、ここまで忙しいことはなかったです。あたしも何だかおかしいなと思っていたところでして」


「そうなんですか」


「た、隊の壊滅なんてありませんでした。あ、一度だけ、3番隊が壊滅しましたが、それは海原さんの……」


「五十嵐さんから聞きました。先任リーダー、超級の霊障化のせいですか」


「は、はい。あの時はあたしも生きるのを諦めたくらい酷いものでした」


「有村が関係している?」


「か、かもしれないです。巨大霊障発生のペースがこれまでと比べものにならないですし」


 このはさんの声が少し沈んでいた。私も何も言えなくなって、残りのたこ焼きを黙って食べた。


 食べ終えた私は、このはさんと別れ、何となく展望デッキに向かった。決して綺麗な景色ではない。


 だけど、開けていて気持ちが良かった。ただそれだけだった。


 手すりに捕まり、伸びをする。風でも吹いてくれたら最高だけど、地下都市なので、無理な話だ。


「こ〜んなと〜ころで、沙庭く〜んじゃ、な〜いの?」


 この独特の話し方。振り返ると、星澤さんがいた。


「星澤さん、お疲れ様です。偵察帰りですか?」


「そ〜んなとこ、だ〜ね」


 どうしよう。ここにいてゆっくりしたいのに、星澤さんはずっと私を見てる。


「な、何でしょうか?」


「い〜や、お母〜さんに、よ〜く似てる〜なと、思〜ってね」


「え?!お母さんを知ってるんですか?!」


 それから星澤さんは信じられない話を始めた。私の両親は、ヤマトの研究責任者をしていたこと。


 その研究は、自然発生する霊力者の上限である上級を超える霊力者を生み出すこと。


 それを作り出すために違法に遺伝子組み換えを行っていたこと。


 そして、有村がその研究によって誕生したことに恨みを抱いていたこと……


「……あの死は、関係しているんですね」


 変死した両親を殺した霊障を生み出したのは――


「……有村聖」


「そ〜いうこ〜とにな〜るね。だ〜から、君〜は仇〜を見つけた〜わけ〜だ」


 その言葉で思い出した。1番隊や狐火さんの事ですっかり頭がいっぱいだったけど、私がここに来た理由は、両親の仇を討つことでもあったんだ。


「何故、今まで教えてくれなかったんですか?」


「君〜も忙し〜くしてた〜ろ?伝え〜るタイミ〜ングがなか〜ったんだ〜ね」


 確かにそうだけど。少し違和感が残る。


「あれ?姉ちゃんやないか。何しとるんや?」


 新太郎くんの声に一瞬振り向き、視線を戻すと星澤さんはいなかった。


◇◇◇


「皆の衆、心配をかけたの」


 それから数日後、狐火さんが無事退院した。お祝い気分だけど、それは同時に任務への復帰を意味した。司令官室に呼ばれる。


「我々を馬鹿にしていると思わないかね、沙庭くん」


「……明らかな挑発行為ですね」


「そうだろう。この基地の真上で姿を現すのだからな」


「すぐに対応します」


「くれぐれも用心したまえ。無策だとは思えない」


「分かっています」


 司霊官は明らかに不機嫌だった。それにしても、復帰早々、有村のおかげで厄介な任務に当たることになった。

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