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第227話 髪の毛デスマッチをする男

「部活動で何か苦労した事とかあったんじゃないの?」


 オレは見学に来ていた医学生の池松いけまつくんに尋ねた。

 5年生なので来年夏にはマッチング試験がある。

 だから面接試験の練習をしようってわけだ。


「いやあ、特になかったような」

「ホントか? たとえば強くなりたい奴と楽しみたい奴との間の摩擦とか」

「そういや、ありますね、確かに!」


 医学部の部活動というのは全学とは別にある。


 オレが所属していたのも医学部卓球部だった。

 もっとも、全学のいわゆる体育会卓球部にも同時に入部していたのだが。


 池松くんが入っていたのは確か医学部のテニス部だ。


「君自身はどっち側なわけ? 真剣派かエンジョイ派か?」

「自分は真剣にやっている方ですね。なにしろ小学生の時からテニスをやっていましたから」

「なら、お遊びでやっている連中を見て腹が立たなかったか?」

「イライラさせられなかったといえばウソになります」


 いいぞ、いいぞ。

 こういう自己開示が面接試験では重要だ。


「そうだろ。これは部活動の永遠のテーマだな」

「やっぱりそうなんですか!」

「全日本選手権をねらうチームなら真剣派一色だけど、なんせ医学部だからなあ」


 テニスにしても卓球にしても大学に入ってからの初心者が沢山いる。

 そういう人間が多いと、どうしてもサークル感覚になってしまう。


「エンジョイ派にも言い分があると思うよ」

「えっ……と、どんな言い分でしょうか?」

「オレがエンジョイ派になりきるからキャプテンとして答えてくれるか」

「分かりました」


 これは面白くなってきた。


「たとえばこうだな。『池松センパイって小学校からテニスやってたんですか?』」

「うん、そうだけど」


 なかなかノリがいい!


「いつもすごく真剣に練習しているけど、別にウインブルドンを目指しているわけじゃないですよね」

「当たり前じゃないか」

「じゃあ真剣にやってて何か意味あるんすか?」

「ど、どういう意味だよ」

「センパイは部内では無敵だけど、全学だったらレギュラーに入れるかどうかも怪しいでしょ」

「あいつらはまた別だろ」

「市内の全員を合わせたら先輩より強い人なんか100人以上いますよね」

「いるかもしれんな」

「100番以下が100番以内になるために、そんなに真剣に練習するなんて意味ないと思いますけど」

「意味は……あると思うよ」

「もっと楽しくやりましょうよ。テニスの好きな男の子と女の子の出会いの場として」

「何を言ってるんだ、神聖なテニスに対して!」


 池松くんはホントにおこり出した。


「おいおい、シミュレーションじゃないか。そんなに感情的になるなよ」

「はい、ちょっとわれを忘れてしまいました」

「大方、図星ずぼしだったんだろう」

「あまり認めたくはないけど、そうかもしれませんね」


 オレも中学、高校、大学と卓球をやってきた卓球バカだからよく分かる。

 100番以下が100番以内になるために死ぬほど練習することに何の意味があるのか?

 常にその疑問を抱きながらの部活動だった。


「こんなりそうな質問なんか、答えを準備しておけよ」

「すいません。自分は全然できていませんでした」

「じゃあ、今度は池松くんがエンジョイ派でオレがキャプテンをやろう」

「いいんですか?」

「どっからでもかかってきたまえ」


 そう言ってオレは待ち構えた。


「キャプテン、俺たち真剣に練習する意味あるんすか?」


 にくまれぐちが上手い!

 池松くんなりに色々とフラストレーションがあるんだろうな。


「練習なんか楽しく適当にやっておけばいいじゃないですか」


 来た来た来た、池松くんの心の声だ。


所詮しょせん、遊びでしょ? 医学部のテニス部なんか」


 出たな、ダーク池松!

 そろそろ反撃してやるか。


「ああ、遊びだよ」

「えっ……」


 オレの言葉に池松くんはきょをつかれたみたいだ。


「でもな、遊びってのは真剣にやるから面白いんだ」

「た、確かに」


 池松くんの心にさってしまった!


「いい加減にやって何が面白い? そんなのは子供らにやらせておけよ」

「……」

「大人ってのは真剣に遊ぶんだよ。必死にやるから泣いたり笑ったりできるんだ」

「で、でも」


 反撃しろよ、池松。


「いやいや、俺たち真剣になれないっす」


 来たな。


上手下手うまいへたは関係なしに、真剣にやればいいじゃん、池松」

「無理無理、キャプテンとは違いますから」


 たぶんそう来るだろうと思っていたぜ。


「じゃあ、真剣になれる状況を作ろうか」

「えっ、なんですか。お金でもけるんですか?」

「いや賭博とばく行為はダメだろ、神聖なテニスに」

「なら真剣になれないっしょ!」


 ナイーブだなあ、こいつ。


「オレと試合して負けた方が丸坊主まるぼうずってのはどうだ。かねじゃなくてかみけるわけよ」

「それ、無茶苦茶ですよ!」

「髪の毛ごときでは真剣になれないか?」

「いや、キャプテンと俺だったら実力が違いすぎます」

「じゃあ、女子じょしの誰かとやるか? 剛力ごうりきあたりだったら実力拮抗(きっこう)だろう」

「じゃあ俺が勝ったら剛力さんが丸坊主になるんすか?」

「彼女が丸坊主ってわけにもイカンから、代わりにオレが頭をまるめよう」

「マジすか?」

「もちろん。いつもの調子で楽しく試合してみたら?」

「えっ」

「剛力は冗談の通じない女だから、真剣勝負で来ると思うけど」

「……」

「まあ命を取られるわけじゃないし、髪の毛デスマッチも面白いじゃん」

「……」


 シミュレーションだと言っているのに、池松くんはホントに黙り込んでしまった。

 もう顔面蒼白だ。


「終了、終了。この辺にしておこうか」

「は、はい」

「池松くんもキャプテンだったら今くらいのやり取りは想定しておけよ」

「確かにそうですね」


 ちなみに髪の毛デスマッチはオレが高校時代、卓球部で本当にやっていた。


「これで面接試験対策はバッチリだろ」

「メチャクチャ勉強になりました」

「大人の遊びってのは真剣にやるから面白いんだ」

「よくおぼえておきます」


 真剣派かエンジョイ派か。

 この永遠のテーマもげてみると案外面白いもんだ。


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