第224話 秘密結社から来た男
ある日の事。
外国人旅行者一家が救急外来を訪れた。
一家のうちの奥さんがひどい頭痛に悩まされているからだという。
こういう時には3Cという診察手順がある。
Critical, Common, Curable と呼ばれる。
危ない疾患、よくある疾患、治すべき疾患、というものだ。
救急外来だから、まずは危ない疾患の有無を頭部CTで確認する。
具体的にはくも膜下出血と慢性硬膜下血種だ。
研修医に指示して段取りをしているときに院外から電話があった。
遠く千葉在住の見知らぬドクターだ。
救急外来の外で電話を受ける。
「今、スリランカ出身の方がそちらを受診していると思うのですが」
「ええ、救急外来の方で対応しています」
「実は私の知り合いでして、病状を教えていただくわけにはいけないでしょうか?」
当たり障りのない範囲で病状を説明する。
「どうもありがとうございました。実はある団体の非常に地位の高い方なので」
「そうだったんですか!」
「是非よろしくお願いします」
「分かりました」
電話を済ませて救急外来に戻った。
「千葉に住む日本のドクターから電話がありましたよ」
そう言うと御主人の顔がパッと明るくなった。
「ある団体に所属しているのだと仰っていましたが」
「えっ、ええ」
「その団体の名前をお聞きしてもいいですか?」
そういうと御主人はしばらく沈黙した。
そして意を決したように言う。
「フリーメイソンです」
あの神話と伝説に彩られた秘密結社、フリーメイソンの実物が今、目の前に!
「フリーメイソンといえば世界の裏側で陰謀を企てているみたいに言われていますが」
「とんでもない迷信ですよ」
「じゃあ親睦団体のようなものでしょうか」
「その通り、ブラザーフッドの精神に支えられています」
なるほど、なるほど。
奥さんの頭痛は危ない疾患ではなく、単なる片頭痛だと思われた。
鎮痛剤で軽快し、御主人の顔にも笑顔が戻る。
「ありがとうドクター、ありがとう! 異国で病気になるくらい心細い事はなかったです」
大袈裟すぎるくらい感謝された。
そして名刺が出てくる。
フリーメイソンの象徴とされる千里眼はついていなかった。
「何か困った事があったらいつでも言ってください。力になりますから」
うっかり頼んだりしたら高くつくんじゃないですか?
もちろん、そんなギャグをかます余裕はなかった。
それにしてもフリーメイソンって実在するんだ。




