表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/114

第233話 思わぬ結末を迎えた男

 オレは損保会社に頼まれて事案についての意見を述べる事がある。

 事案の種類は大きく2つ、交通事故と医療過誤だ。


 交通事故で問題になるのは、後遺障害や受傷機転に関するもの。

 受傷機転については疾病先行しっぺいせんこうか否かがよく問題になる。


 たとえばある患者が交通事故で病院に搬入されたとする。

 頭部CTで頭蓋内出血がみつかれば、それは交通事故で頭部打撲したからだ、と普通は思う。

 が、時として運転中に脳内出血を起こし、そのまま自損事故をすることもある。


 後者を疾病先行しっぺいせんこうと呼ぶが、決してレアケースではない。


 その判断は頭蓋内出血の部位による。


 疾病による脳内出血で起こりやすい出血部位は被殻ひかく視床ししょうなどだ。

 一方、外傷で起こりやすい出血部位は硬膜外こうまくがい硬膜下こうまくかなどだ。

 くも膜下出血まくかしゅっけつは疾病でも外傷でも起こるが、前者は脳底槽のうていそう、後者は円蓋部えんがいぶに出血が拡がっているのでCTを見れば分かる。


 以前に損保会社に相談された事案はこうだ。


 ある人が車を運転していて他の車に追突した。

 で、車から降りて相手方運転手と話をしている時に突然頭痛を訴えるとともに意識を失った。


 搬入された病院で撮影された頭部CTには脳底槽のうていそうに拡がるくも膜下出血まくかしゅっけつが認められた。

 さらにこの病院では造影剤を使って3次元CT血管造影を行い、前交通動脈瘤ぜんこうつうどうみゃくりゅうが認められた。

 それだけでなく前交通動脈瘤ぜんこうつうどうみゃくりゅうに隣接する直回ちょっかいに血腫がある。

 ということは前交通動脈瘤が破裂してくも膜下出血を起こすとともに直回ちょっかいに血腫を作ったという事だ。


 おそらく運転中に前交通動脈瘤が破裂し、数秒間意識を失っている間に追突したものと思われる。

 そして車外で話をしているときに2回目の出血が起こって意識を失った。

 そう考えれば、一連の経過、画像が矛盾なく説明できる。


 残念ながらこの患者は亡くなった。


 しかし、司法解剖でこの患者の死因は外傷性くも膜下出血とされた。

 そんな馬鹿な、断じて外傷によるくも膜下出血ではない!

 前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血である事はオレたち脳外科医には明らかだ。


 で、解剖を担当した某大学法医学教室の魔島まじま教授に損保会社が問い合わせた。


「当社が意見を求めた脳外科医は前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血だとの見解ですが」


 すると魔島まじま教授から怒りのファックスが届いた。


「これは外傷性のくも膜下出血だ、失礼にもほどがある!!」


 そういう趣旨のものだった。


 たとえ法医学の教授が解剖しても分からないことがあるのは仕方ない。

 だが、自分と異なる意見には謙虚に耳を傾けるべきだろう。

 逆ギレはいただけない。


 裁判してでも争った方がいいのでは、とオレは損保会社の担当者に言った。

 彼女も魔島まじま教授の検案書に違和感を持ったからオレに相談してきたんだ。

 しかし、結局は魔島まじま教授の剣幕の前に損保会社が折れてしまった。


 当該法医学教室のホームぺージを見ると、テレビドラマの宣伝みたいなつくりになっていて「究明できない死因なし!」とうたっている。

 力の入れどころが間違っているんじゃないか?


 以来、数年間、この事案の事は忘れていた。


 突如、魔島まじま教授の名前がニュースの見出しに踊るようになった。

 会計監査で法医学教室の会計に不明朗なところがみつかったのだ。


 調査が進むにつれ、出るわ出るわ。

 経費不正使用、司法解剖検査料詐取。

 当然のことながら、懲戒免職された上に警察に逮捕されてしまった。


 逆ギレだけでなく、他にも問題があったというわけだ。


 まさかこんな結末を迎えるとはオレも思っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ