第182話 大声で怒鳴る男 1
オレが相談を受けたのは内科外来でのクレームだ。
非常勤医師の書いた診断書の内容が気に食わない患者がいるのだと。
「私が診たときは大した怪我に見えなかったものですから」
非常勤医師は言う。
そこでオレは尋ねた。
「診断書にはどう書いたわけ?」
「『2週間の通院加療を要する見込み』としておきました」
「実際に2週間以上かかったとか?」
「いえ、来院したのは最初の1回だけでしたから」
1回しか来なかったということは、おそらく2週間もかからなかったということだ。
彼女の作成した診断書のどこにも問題はない。
「なるほど。で、その患者さんはどこに?」
「内科外来に来ています。あ、念のために専門職にも声をかけました」
専門職というのは訴訟専門職の略で、ウチの病院には2~3人いる。
ま、それだけクレームやら訴訟やらがあるということだ。
で、実際に診察室で患者に向き合う。
ちょっといかついオッサンだった。
オッサンの言い分はこうだ。
隣人とトラブルになって殴る蹴るの暴行を受けた。
それで病院を受診するとともに警察に届けた。
警察に言われたので診断書を提出した。
そこには「全治2週間」とあった。
なるほど、まだ続きがありそうだ。
当然、隣人は傷害罪か何かで起訴となった。
で、先日検察から通知があり、罰金5万円という判決だったそうだ。
たったの5万円か、と怒ったオッサンは検察庁に怒鳴り込んだ。
どうして5万円程度の罰金で済むんだ、と。
「『この診断書だったら5万円くらいですよ』って検察は言いよるんや」
「要するに診断書が軽すぎたってことですか」
「そういうこっちゃ。一体、どないしてくれんねん!」
いかついオッサンはガラの悪いオッサンでもあった。
診察室に怒鳴り声が鳴り響く。
診断書を作成した本人はオレの後ろに、専門職に至っては隣の診察室に隠れている。
こういう時は硬軟どちらで行くかを決めなくてはならない。
話の流れから、オレは硬と軟を混ぜて対応することにした。
「ということは、怪我の方は治るのに2週間以上かかったということでしょうか?」
「そんなもん、当たり前やないか!」
再び怒鳴り声が響く。
(次回に続く)




