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第174話 厳しく従弟に暗記させる女

 何かの拍子に中学校時代の日々を思い出した。


 オレはあんまり英語が得意ではなかった。


 そこで母方の従姉いとこに教えてもらうことになった。

 彼女は名前をミキちゃんといい、外国語大学がいだいを出ている。

 子供の頃からよく遊んでもらっていた。


 だからいになるんじゃないかとオレは中学生なりに心配した。

 でも、それは杞憂きゆうだった。


 当時の中学校では間接話法や仮定法は習っていなかったように思う。

 でも、そんな理屈、ミキちゃんには通じなかった。

 片っ端から教わり、代表的な例文を暗記するように言われた。


 授業の冒頭は前回の暗記のチェックが入る。

 できなければ、できるまでその場で練習だ。


 週2回、それぞれたった2時間の授業だけど、無茶苦茶厳しい。

 お蔭でどんどん英語の成績が上がった。


 が、上には上がいるもんだ。

 オレの受験した私立の超進学校はミキちゃんとの努力の日々を超えていた。


 入学試験の英文和訳はこうだ、今でも覚えている。


 For, on a daughter's refusing to marry the man her father had chosen to be her husband, the father was empowered by this law to cause her to be put to death.

(和訳:というのは、父親が夫に選んだ男との結婚を娘が拒否した場合、父親はこの法律によって娘を死刑に処する権限を与えられていたからだ)


 今調べてみたらシェイクスピアの「真夏の夜の夢」じゃないか。

 ニキビだらけの中学3年生に出す問題かよ!


 ということで、私立の超進学校は不合格。

 泣く泣く地元の公立高校に行くことになった。


 後に医学部で同級生になった何人かは、その私立の超進学校出身者だ。

 思わず「なんだ、結局は同じじゃねえか」と言いそうになった。

 念のために聞いてみると、オレの同級生たちは高校では凡庸な成績だったそうだ。

 聞かなきゃ良かった。


 それはさておき。


 中学生の時に叩き込まれた英語の例文は何十年も経った今でも覚えている。


 I am glad to see you.(お会いできて嬉しいです)

 We are sorry to hear it.(それを聞いて残念だ)

 This is the river which flows through the city.(これが町を貫く川だ)

 Time flies like an arrow.(光陰矢の如し)

 Time and tide wait for no man.(歳月人さいげつひとを待たず)

 There is no use crying over spilt milk.(覆水盆ふくすいぼんに返らず)

 All that glitters is not gold.(光るものすべてが金ではない)


 笑っちまうのは Money talks.(地獄の沙汰さたも金次第)ということわざだ。

 米国在住中に1番良く使ったフレーズだといっても過言ではない。


 今になって思うのは、何事も自分一人で頑張るのは難しい、ということ。

 ミキちゃんも「英語は暗記だ」と分かっていたから、従弟いとこのオレに厳しく覚えさせたのだろう。


 彼女には、いくら感謝しても感謝しきれない。



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