第171話 救急外来で鉢合わせする女
~救急は人生の断面をさらけ出す hekisei~
ある日の事。
救急外来で、あってはならないことが起こってしまった。
妻と愛人の鉢合わせだ。
事の経緯を説明しよう。
担ぎ込まれたのは愛人との情事にふけっていた男性だ。
当然のことながら病院は妻を呼び出す。
「〇田✕男様の奥様でいらっしゃいますか? 御主人が倒れて当院に搬入されました。大変お手数ですが、こちらに来ていただけますでしょうか」
そんな感じの電話で始まる。
「電話では詳しい病状を説明することはできませんが、かなり重症です。手術を含めて、こちらで必要と判断した医学的処置は進めていきます。よろしいですね」
いくら親密といっても、手術同意書の署名を愛人から貰うわけにはいかない。
だから、妻の到着と入れ替わりに愛人はそっといなくなる……はずだった。
が、今回はそうならなかった。
「この機会に決着をつけてやる!」
そう愛人が思ったかどうか。
それは分からないが、愛人は帰ろうとしない。
一方、妻の方はひたすら驚いていた。
さて、開頭手術で一命をとりとめた男性とオレは、術後にしみじみと語り合った。
男同士、通じ合うものがある。
「馬鹿だなあ」とは思うものの、非難する気にはなれない。
「バレちゃったら仕方ないなあ。女房も前からよく知っている子だったんだよね」
オレは深くうなずいた。
「病気も大変だけど、そちらの方も大変な事になってしまいましたね」
いわゆる共感的対応ってやつだな。
さらに言葉を重ねる。
「泣き面に蜂、とはこのことですねえ」
この言葉がこれ以上あてはまる場面はないだろう。
命が助かったとはいえ、半身不随の後遺症が残ってしまった。
妻の協力なしにリハビリを含めた今後の人生を乗り切ることはできない。
そういった男女関係の部分についてはオレたちがどうこうすることはできない。
オレにできることといえば、人のふり見て我がふり直せ、ということくらいだろう。
とりあえず愛人がいないだけでも立派なもんだ、と自分で自分を褒めておく。
しかし、いつも思うのだけど……
なぜか妻と愛人ってのはタイプが似ていることが多い。
これ、愛人をつくる意味があるのかね?




