第985話 渡米する女 2
当時の「面接の達人」シリーズは、現代でも通用する名作だと思う。
ベストセラーになったのも当然だろう。
本の中で繰り返し述べられていたのは「自分を知れ」という事だ。
人は誰でも長所もあり短所もある。
自分の持つ長所をいかにアピールするかが大切なのだそうだ。
それが上手くできない人が多すぎる。
じゃあ短所はどうしたらいいんだ?
上手く隠すのか。
この本ではそうしろとは言っていない。
いかに自分の短所を把握しているか。
そして、どうやって短所を克服する努力をしているのか。
それを述べよ、という事が書かれてあった。
なるほど。
そうすれば、自分を客観的に見つめる能力、その短所を認める潔さ、努力を惜しまない姿勢などを自然にアピールすることが出来る。
よくある「自分の短所は完璧主義すぎるという事です」みたいな小賢しいアピールよりも余程いい。
こうして何度も練習して妻は本番に臨んだ。
が、実際の面接は専門的なやり取りに終始したとのこと。
それでも準備した自信らしきものを持って試験を受けたのだから練習も無駄ではなかったのだろう。
しばらくして合格の通知が来た。
ただし、合格といっても色々ある。
1番上は大学院の授業料だけでなく生活費まで支給されるもの。
2番目は大学院の授業料だけ支給されるもの。
3番目以下はよく知らない。
妻の奨学金は2番目の、授業料だけ支給されるもの、だった。
基本的にアメリカの大学院は私立なので、年間授業料は何百万円にもなる。
だから授業料の支給だけでも有難かった。
余談だけど、何十年か後に妻は審査員の方を頼まれて奨学金の応募者の面接試験を行う立場になった。
自分が奨学金をもらったのだから、何らかの形で恩返しするのは当然と引き受けたのだが……
何人かの応募者の英文で書かれた学歴、職歴、研究歴、留学後にやりたい事、などを読んで事前に採点するだけでも丸三日間かかった。
本番の試験では米国人教授とともに1日かかって何人もの応募者を順に面接する。
すべて英語でのやり取りだ。
自分が受けたときに比べて応募者たちのレベルは遥かに上がっており、時代を感じさせられたのだとか。
「審査員なんか1回やったら十分よね。来年は遠慮しておくわ」
そう言いながら疲労困憊して帰宅した妻は布団に入り、12時間起きてこなかった。
話をウン十年前に戻す。
奨学金を得たことで金銭面でのあてはできたが、他にすることは大量にあった。
(続く)




