第977話 「白い巨塔」を読む男
不朽の名作「白い巨塔」。
山崎豊子が1963年からサンデー毎日に連載した小説だ。
何度も映画化やテレビドラマ化されている。
やはり有名なのは1978年のテレビドラマだろうか。
特に闘病中の主人公、財前五郎に扮した田宮二郎の鬼気迫る演技は印象に残っている。
まるで財前五郎が田宮二郎に憑依したかのようであった。
そして田宮二郎は「白い巨塔」の最終回を待たずして猟銃自殺を遂げてしまう。
さて、この「白い巨塔」と「続・白い巨塔」の原作をオレは中学生の時に読んだ。
医学部教授選のドロドロ、医療裁判の苛烈さなど、中学生にはショッキングな小説だった。
「間違っても医学部なんか行くもんじゃねえな」
当時のオレはそう思っていた。
読んでいない人のために簡単に「白い巨塔」「続・白い巨塔」の内容を紹介しておこう。
浪速大学第一外科の助教授、財前五郎は食道癌や胃噴門部癌手術の名手。
自他ともに認める次の教授候補であった。
が、彼の名声を妬む現教授、東貞蔵の妨害にあう。
自らの野心を隠さない財前の振る舞いにも東の不興を買う原因があったのかもしれない。
一方、財前と対照的なのが浪速大学第一内科の里見脩二助教授だ。
里見は財前にとっては医学部の同級生であり、数少ない友人でもあった。
ともすれば患者の治療よりも自分の業績を優先しようとする財前の振る舞いを里見が諫める事もあったものの、ついぞ財前が耳を傾けることはなかった。
そして教授選。
本命の財前にたいして東は母校の東都大学出身の菊川昇金沢大学教授をぶつける。
両雄激突の教授選の結果や如何に。
その一方で別の物語が密かに進行していた。
財前が手術した胃噴門部癌の佐々木庸平が術後に亡くなってしまうのだ。
この事で財前は佐々木の遺族に医療訴訟を起こされた。
財前、佐々木双方の代理人や鑑定人が入り乱れて裁判は泥沼化する。
里見は自らの信念に基づき、あえて原告の佐々木側証人として法廷に立った。
この裁判の判決がクライマックスであり「白い巨塔」の結末だ。
つづいて「続・白い巨塔」では控訴審に舞台がうつる。
控訴審に加えて学術会議会員選挙と多忙を極めた財前は次第に疲れを感じるようになる。
第一審で原告側証人を引き受けたとはいえ、親友である財前の体調を気遣う里見は休むように忠告するが財前は聞く耳を持たない。
そして「続・白い巨塔」は控訴審判決と財前の病気の両方に決着をつける形で終わりを迎える。
教授選と医療裁判。
令和になった今でも医療界の二大テーマだ。
先に述べたようにオレは原作で読み、テレビドラマでも見た。
そして今でも折に触れて友人たちと語り合う。
年を取り、医師としての経験を積むほどこの小説の内容が深く心に沁み込んでくる。
財前五郎の無念、里見脩二の信念を理解できるようになったのは、オレ自身、医療の世界に長く身を置いてきたからだろう。
この小説は事の善悪を論じるものではない。
作者の山崎豊子自身が述べているように、重厚な人間ドラマを描いたものだと思う。
そして「医学部なんか行くもんじゃねえ」と思ったオレの人生にも大きな影響を与えた小説だった。
その事は改めて語りたいと思う。




