表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異端審問官ルシルの検死記録 ~没落令嬢は真鍮のメジャーで死体の嘘を測る~』  作者: w.t.


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/57

第29話 「同じ型」

夜の記録室は、昼より静かだった。

ランプの油が、燃える音だけがしていた。


ルシルは、机の上に、羊皮紙を並べていた。

一枚。二枚。三枚。四枚。


すべて、書記長室特注の羊皮紙だった。これまで、一枚ずつ、集めてきたものだった。

十五年前の判決記録。十一年前の処分事案。書記係長の証言を消した記録。そして今日、マーガレットから受け取った、納品の記録。


四枚が、机の上で、ランプの光を受けていた。


(……同じ質感)


それは、もう、わかっている。色も、厚みも、同じ工房のものだ。何度も確かめた。

けれど、今夜、測りたいのは、そこではなかった。


(……紙が同じでも、書いた人間が同じとは、限りません)


ルシルは、メジャーを手に取った。

チャキ、と鳴らした。


最初の一枚を、引き寄せた。

改ざんされた箇所を、見た。

元の文字を削って、新しい文字を書き込んだ跡。羊皮紙は、削れる。ナイフで、表面を薄く剥ぐ。剥いだところに、新しいインクを乗せる。


ルシルは、削り跡を測った。

縦三ミリ。横、文字一つ分。削りの深さ、均一。


(……削り方が、丁寧)


次の一枚を、引き寄せた。

同じように、削り跡があった。

測った。

縦三ミリ。横、文字一つ分。削りの深さ、均一。


ルシルの指が、止まった。


(……同じ)


三枚目。四枚目。

すべて、同じだった。

削りの寸法。深さ。角度。

まるで、同じ手が、同じ道具で、同じ呼吸で、削ったように。


(……癖だ)


人は、削るとき、癖が出る。利き手の角度。力の入れ方。一度に動かす距離。それは、本人も気づかない。けれど、紙には残る。


ルシルは、四枚を、横に並べた。

削り跡を、一列に揃えて、見比べた。


(……四枚とも、右上から左下へ、削っている)

(……一回の削りで、三ミリ)

(……力が、最後だけ、わずかに抜ける)


四枚に、同じ「抜け」があった。

削り終わりの、ほんのわずかな浅さ。指が疲れて、力が緩む、その一瞬。四枚とも、同じ場所で、緩んでいた。


(……これで、一つ)


ルシルは、次を、測った。

削ったあとに、新しい文字を書く。その前に、書き手は、まっすぐ書くための線を、薄く引く。鉛の線だ。あとで消す前提の、下書きの線。


四枚とも、その線が、わずかに残っていた。消し残し。

ルシルは、線の角度を測った。


水平から、二度。右上がり。

次の一枚。二度。右上がり。

三枚目。四枚目。

すべて、二度だった。


(……人は、まっすぐ引いたつもりで、利き手の側に、わずかに上げる)

(……この人は、二度。いつも、二度)

(……これで、二つ)


最後に、枠を見た。

改ざんした数字を囲む、点線の枠。四枚すべてに、あった。

ルシルは、枠の余白を測った。文字と、枠線の間の、隙間。


上、一ミリ。下、一ミリ。左右、二ミリ。

次の一枚も、同じ。上下が詰まって、左右が広い。

四枚、すべて、同じ余白だった。


(……枠の取り方まで、同じ)

(……削りの癖。線の角度。余白の比率)

(……三つとも、一致しました)

(……同じ人間が、書いています)

(……十五年前も、十一年前も、今日見つけた記録も、全部)


ルシルは、手帳を開いた。

【改ざん四件。削り跡の寸法・角度・力の抜けが一致。同一人物の手による】


筆を、置いた。

扉が、軽く叩かれた。


「……まだ、いたか」


エリオットだった。こんな時間に、珍しかった。


「……ええ」

「……灯りが、漏れていた。地下の窓から」

「……見回りですか」

「……気になった、だけだ」


エリオットが、机の上の四枚を見た。


「……並べて、何をしている」

「……同じ手かどうか、測っていました」

「……それで」

「……同じ手でした」


ルシルは、四枚を、指で示した。


「……削り跡が、全部、同じ癖です。削る角度も、力の抜け方も。同じ人間が、同じ道具で、削っています」


エリオットが、四枚を、順に見た。


「……俺には、同じに見えるが、どこがどう同じかは、わからない」

「……わからなくて、いいんです。測れる人間が、一人いれば」


ルシルは、メジャーを、巻き直した。


「……問題は、その手が、誰のものか、です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ