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李斯転生 勝ち確?それとも絶対の無理ゲー?  作者: 杠煬
第4章 嫪毐の乱

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33 不得手な分野

お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。


「な、何だと!!」



ってな感じに呂不韋(じょうし)が驚いたのには、実は二つの理由があった。



一つは、各国の要人を寝返らせるために、優秀な間者(スパイ)の殆(ほとんど)どが出払っており人手が足りないということ。

もう一つは、真面目でお人好しなところのある秦の人間は、そもそも人を疑うということ自体を苦手としており、防諜に関しては他国の後塵(こうじん)を拝(はい)しているのが現状であるということ。



つまり、嫪毐に他国のスパイが接触していた場合、その証拠を押さえることも対策を講じることも難しいということだ。

これは困った。



「それはまた......いやしかし、そういうことでしたら、取り急ぎは太后宮における物資の購入について注視しておく必要がございますね」

「うん?どういうことだ?」

「食料は勿論のこと、護衛用と称して武器の類(たぐい)の購入量が増えるかもしれませんから」

「成程(なるほど)のう。太后宮の人員は男子禁制、故(ゆえ)にその周辺の事象から推察するしかないというわけか」



それにしても、嫪毐はどうやって手勢を集めるつもりなのだろうか?

侠などの裏の社会へ声を掛ける、とかな......うーむ......



「いやいやいや、流石にそれは無いと思うぞ」

「何故でございます?」



否定する呂不韋(じょうし)。

何か変な事言ったかな、俺??



「考えてもみよ。傭兵を雇えば咸陽(われわれ)に感知される、となれば裏の社会に金をばら撒いて味方に付けるのは確かに妙手の様に思えるだろう。だがそもそも、法の整備された秦では侠の様な組織はあまり根付いてはおらぬ。それに、いくら個々人の戦闘力が高かったとしても、軍としての連携も出来ぬ烏合の衆が、秦(わがくに)の正規軍に敵(かな)うと思うか?」

「......無理ですね(汗)」



それに真っ当な(?)侠の者であれば、その矜持(プライド)が、嫪毐の様な小者に使われることを是とはしないだろうしな。



「ふうむ、まあ軍事に関して素人の我々が、ここで頭を悩ませても埒(らち)が明かぬ。ここは専門家の意見を聞くとしよう」



.......

.....

...



しばらくすると、三人の男が現れた。



俺は呂不韋(じょうし)の傍(かたわ)らに空(・)気(・)の(・)様(・)に(・)控(ひか)えて聞き役に徹するつもりだが、それでも興奮で顔がニヤつくのが止められない。

何故かって?

その三人ってのが蒙武と王翦、それに樊於期なんだぜ!



三人とも甲冑こそ付けてはいないが、その静かな佇(たたず)まいには幾度も死線を越えてきた職業軍人(プロ)としての凄(すご)みがある。

男の子なら(いやオッサンだけどな)、こんな超の付く有名人を前にして冷静でいる事など出来るわけが無いだろう?



やべえ、やべえよ!!

いやあ、今日ほど歴史好き(マニア)で良かったと思ったことは無い。

後でサインを貰っておこう!!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




【呂不韋視点】



.......??



長信侯の今後の出方について下問するべく三人の武将を呼んだのだが、皆がちらちらと私の左奥へと視線をやる。

どうやら、傍らに控える李斯のことが気になるようだ。



李斯(このおとこ)は秦王様へ拝謁する時にも緊張で挙動不審になることがあるので、きっと武将達の気に当てられて青い顔をしているのだろう。

普段の朝議の場でもそうなのだが、李斯はいつも他人の目を伺ってばかりで自己主張は滅多にしない。

恐らくは議論を制するだけの「胆力」が足りていないのだ。



それでいて時々、皆が驚く程に先鋭的な意見を述べる。

まるで秦(このくに)の、いや、天下の行く末を見通しているかのような壮大で深遠なものを。

そういう時、李斯は普段のおどおどした様子は微塵も見せず、自信に満ち溢(あふ)れた一人前の文官の顔をしており、本当に同一の人間なのかを疑う程。



それ故にこの男は、多少(というか多分に)不審がられながらも、秦王様を始めとして群臣一同から一目置かれているのだ。



さて今日はどちらであろうか?



「ああ、この者のことは気にせぬように。この場での会話は、公式な記録に残るものでは無い故(ゆえ)にな。李斯よ、そなたも他言無用ぞ?」



そう念を押しつつ振り返ると、当の李斯は目を爛々と輝かせながら三人を交互に見つめている。

ふむ、挙動不審と自信過多、そのどちらでも無かったか。

まるで少年の様に全身に「尊敬の念」を表現するその様は、今まで見たことの無いものだ。



どうやら三人の武将達も、李斯の視線に不審と照れくささを感じているらしい。



.......

.....

...



「そういうわけで、長信侯が何を考え、今後どのような手を打ってくるのかを軍事的な観点から推察してみて欲しいのだ」



経緯(いきさつ)を説明しながら、背後に控えている李斯のことを考える。



思えば食客の一人でしかなかったこの男は、その非凡な才と功を認められ、稀に見る勢いで客卿にまでなった。

胆力についてはまだまだ鍛えねばならないとは思うものの、いずれはこの私をも追い越してゆく可能性すらある。



そのことに不満は無い。

私自身、相邦などという分不相応な肩書は他の誰かに譲り、秦(くに)を富ますことに専念したいのだから。

だが李斯が私に代わり相邦を勤めるには、先程も言った「胆力」が不足していることはどうしても否めない。



ふむ、ならば丁度(ちょうど)良い。



李斯がこの三人に憧憬を抱いているうちに、何処かの戦場へ監軍として派遣してやるとしよう。

その手に矛を持つ必要は無いが、血生臭い戦場の風を受ければ、こやつの胆力も多少は鍛えられることであろうよ(笑)



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