31 水面下
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咸陽に戻ってから数日後、呂不韋に呼ばれた俺は、今回の任務について改めて下問を受けた。
秦王には既に復命を済ませてあるので、何を今更と思わないでも無かったのだが、きっと呂不韋が個人的に、太后殿下のことを気にしていたんだろうな。
うーむ、いけませんぜ旦那、いつまでも昔の妾に執着するのは。
他のもっとイイ女にモテなくなりますぜ。
なんて思ったんだが、事はそう単純なものでも無かった(苦笑)
「長信侯の為人でございますか?」
「うむ、近くで見たり話をすることもあったのだろう?何か気付いたことはないか?」
「そうですね.....不敬な言い方をお許し頂けるなら、『未熟なホスト』でごさいますね」
「あまちゅあなほすと?」
「あ、いえ、暴力的な言動や、時には文字通りの暴力で相手を無理やり支配下に置こうとする男のことでございます」
呂不韋の目が光る。
うん、これはアレだ、獲物を射程距離に捉えた時のハンターの目だ。
俺から何かしらの言質を取ろうとしているな?
「いやいやいや!そうかそうかそうか!それで.....長信侯は宦官の筈だが、それ程までに『男』の様であったか?」
あヤベ、俺さっき「男」って言ったか?
だがこれで、呂不韋が何を聞きたいのかがなんとなく分かった気がする。
子沙(韓非)の書にもあったが、優秀な部下ってのは、上司の言いたい事を察するもんだ。
「ええ、まるで『男』の様に振る舞っておられましたね」
「ふむ。もし、仮にだが、長信侯が『男』であったのならば、これはもう明確な叛意が有るということになるな?」
「まあ、そうなりますよね」
何せ男子禁制だからな。
うん、終わったな嫪毐(笑)
で、呂不韋がさらに言葉を続ける。
あれ?
どうやら、さっきの俺の言葉では不十分だったのかな??
「うむ。......それと実はな、太后殿下に雍へお遷りになるよう卜占を出した占者が、実は長信侯に買収されて虚偽の報告を上げていたことが判明したのだ」
「(わざとらしく)何ですと!いやしかしそれはまた、どのような経緯で分かったのでしょう?」
「それに関しては詮索無用だ。そなたの気にすることではない」
「はっ!」
いや知ってますけどね(苦笑)
てか、姫も吼さんも仕事が早くないか??
「それで、だ。これがどういうことか分かるか?」
「.....今回の遷居に関しては、全て長信侯の企みである、と?」
「そうだ、その通りだ」
成程、呂不韋が俺に何を言わせたいのか、今度こそ本当に分かったぞ。
「長信侯の為人を鑑みますと、太后殿下は今、長信侯に唆されて冷静な判断が難しくなっておられるのかと存じます」
「ふむ、それで?」
「太后殿下が今、仮にどんな奇妙なお言葉を発せられたとしても、全ては長信侯にその責があるということかと」
「うむうむうむ、その通りだ!!」
今度こそ呂不韋は満足そうに頷いた。
.......もう一度言うが、終わったな嫪毐!!
.......
.....
...
「それでだな、その長信侯より申請が来たのだが、慣れぬ雍の地で太后殿下がご不安をお感じとのことで、城塞の警備強化の為に常駐兵の指揮権を委ねて欲しいとのことなのだが」
「はぁ??」
思慮の足りないヤツだとは思ったが、ここまで酷いとは思わなかった。
態々反乱の意思表示をしてくるとはな。
「それで秦王様は?」
「無論、却下された。その目的がたとえ本当に警備強化の為だったとしても、兵の指揮権などそう簡単に委ねられるものか」
「ですよねえ.....(汗)」
「やはり、長信侯は反乱を起こすつもりであろうか?」
「それは間違い無いかと。でなければ、指揮権など求めてはきませんよ」
「そうだのう(苦笑)」
そうそう、もう一つだけ前世の記憶からの情報を。
「相邦様、もう一つ有り得ることなのですが、長信侯が秦王様の印璽を偽造したり、太后殿下の印璽を勝手に用いたりして、無理やり常駐兵を動かそうとする可能性もございます」
「おお成程!そういう手もあるか!」
「前以て常駐兵の責任者に、たとえ秦王様の印璽が押されていたとしても、長信侯の命令には絶対に従わぬように、との密命の書を届けておいた方がよろしいかと」
長信侯からの命令に従わなければ罰せられるし、従ったとしても、反乱が鎮圧されれば罰せられる。
何の罪も無い常駐兵達を、そんな理不尽な目には遭わせたく無いからな。
「そなた、優しい男だのう。成程、あの方が惚れるのも無理はない.....」
「え?何か仰られましたか?」
「いやいやいや、何でもないぞ!」
.......???
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【嫪毐視点】
「くそっ!」
常駐兵の指揮権については、怪しまれないよう「仮の」と断りをいれたというのに、何故か許可が下りなかった。
それならばと、この地の有力者達に協力を呼び掛けたのだが、奴等は面会には来るくせに、どいつもこいつも私兵としての人や武器食料の供与は断りやがる。
長信侯であるこの俺が直々に、しかも下げたくもない頭を下げて頼んでいるというのにだ!!
覚えておけよ。
計画が成就した暁には、奴等一人残らず処刑し、財産を根こそぎ没収してやるからな。
「こうなればやはり、李牧の手を借りるしかないか」
あの趙から来た李牧とかいうヤツが、乱を起こすのに十分な額の金銭的援助をすると言っていた。
俺だけでも乱を起こせる事を示したかったのだが、背に腹はかえられん。
借りを作るのは癪だが、趙の支援で傭兵を雇い、武器を買い入れることにしよう。
事を起こす時期については李牧の指示に従えとのことだった。
だが俺は思慮深い男、そんなことは態々言われんでも分かっている。
たとえ数千の兵が準備出来たところで、そのまま咸陽へ攻め入ることはしない。
それにどのみち、太后殿下が子供を産むまでは大義名分が無いのだから。
今は耐えて力を蓄えるのだ。
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