27 引っ越しました
お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
「そろそろ休憩の頃合いだな。確か近くに村があった筈だが?」
そう部下に尋ねると、前もって先触れをしておいた村が近く、湯や軽食も用意してあるとのこと。
喉も渇いたことだし、有難いことだ。
丁度お昼になるぐらいのタイミングで、俺達はその村に到着した。
.......
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「お待ちしておりました、通古様」
「大義であ........え?」
代表して俺に挨拶をしてきたのは、あの墨家の村の村長じゃあないか!
しかも村長の背後で跪きつつニヤニヤ笑ってる連中も、皆あの村のメンツだし!!
え?
ナンデ?ナンデ??
「驚かれましたか?ですが、ご説明は後にしましょう。まずは皆様にお寛ぎ頂きませんと」
「.......あ、ああ、そうだな!!」
俺は慌てて、太后殿下と女官達を村へ案内するよう、部下達に指示を出した。
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太后殿下達がそれぞれの場所で喉を潤し、小腹を満たしておられる頃、俺は村長からこれまでの経緯を聞くことにした。
「いやしかし驚いたな。皆が咸陽からこんなに近くに引っ越していたなんて」
「ええ、通古様にお教え頂いた望遠鏡と舌長鐙のおかげでございますよ」
.........はて?
どうやら秦王嬴政に献上した望遠鏡と舌長鐙の褒美として望む物はないかと尋ねられ、それで咸陽に近い場所に村ごとの移住を希望したらしい。
「咸陽のすぐ傍には流石に土地がございませんでしたが、それでもここなら、馬を飛ばせばなんとか一日で辿り着ける距離ですので」
つまり全ては彼らのアイドル、オタサー姫のためなんだとか。
ゆっくり来たので俺達は昨夜は泊まりになったが、普通に馬で駆ければ一日で充分の近さだ。
「姫様に何日もかけておいで頂くのはやはり心配でしたのでね」
「なるほど。じゃあ姫様はちょくちょく?」
「はい、以前にも増して、しかも予告無しにお越しになられますよ」
「予告無しに?」
「ええ、いつの間にか村の中におられて、肝を冷やしたことが幾度もございます」
村長は楽しげに言うが、うーむ........
姫の御両親からしてみれば、それで却って大切な娘の外出が増えたってのは痛し痒しなんじゃあないかな??
「ですから通古様もお忙しいでしょうが、是非これからも機会を作ってお越し下さい。姫様も寂しがっておられることですし」
ん?......ナンデ??
そう聞き返すと、村長は呆れたようにため息をついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
出発までまだ少し時間がある。
俺は嫪毐にセクハラ(もし俺の予想通りなら、そんな生易しいもんじゃないが)を受けていた例の女官を探していた。
嫪毐にこれ以上好き勝手させるわけにはいかないし、ヤツが男であるという証人になってくれるかもしれないからだ。
無論、プライバシーには最大限の配慮をするつもりだ。
「いないな......」
女官達が集まってひそひそと話をしている場に、彼女はいなかった。
その中に嫪毐も混じっていたから、一緒にはいたく無かったのかもしれない。
.......
.....
...
やはり一人になりたかったのだろう。
村の外れを流れる灌漑のための小川のほとりに彼女はいた。
「済まないが、少し話を聞かせてくれないか?」
背後からそう声を掛けるとビクリと身を震わせて驚き、それから慌てて跪こうとした。
「そのままで良い。服が汚れると、この後の君の仕事に差し支えがあるだろう?」
「でも.......」
「良いから立ったままで。それよりも二つ三つ教えて欲しい」
「は、はい......」
この女官は太后殿下の身の回りの世話、特に衣、食は勿論のこと、住も担当しているそうだ。
オドオドとこちらを上目遣いで見る彼女を宥め賺しながら、さらに幾つかのことを聞き出す。
嫪毐が来てから太后殿下の様子はどうか?
奴は普段、どのように振舞っているのか?
そして……本当に宦官なのか?
「筆頭が趙高様から嫪毐様に替わられて暫くの間、太后殿下はすこぶる御機嫌が良うございました。私達女官にも、とてもお優しくして頂きましたし……」
「と言うと、今は違うのかい?」
「はい。筆頭と夜をお過ごしになった翌朝は、お食事もほとんど召し上がらず、泣いておられることが多くなりました」
情事の後だというのに泣いているとは、太后殿下、すっかり「質の悪いホストに依存してる女」になっちまってるな。
「成程、『夜を』一緒にね.......」
「あ、いえ.......それは.......」
「隠さなくても良い........君は、気付いているのだろう?」
そう聞くと彼女は、まるで自分が悪いかのように許しを乞う。
「申し訳ございません。相談しようにも、こんなこと.......誰にも言えませず」
「だろうな。ヤツ......ああ、筆頭宦官は、君に気付かれたことを知っているのか?」
「はい.......だ、だって......わ、私.......ひ、筆頭......に......」
話しているうちに恐怖がよみがえったらしく、彼女は泣き出してしまう。
それでも必死で嗚咽をこらえようとするのが痛々しい。
「済まない、浅慮だった。それ以上は言わなくていい」
「うぅぅ......」
嫌なパターンの予想が当たってしまい、俺は彼女に詫びる。
クソっ!自己嫌悪が胸を抉りやがる。
そこらの石で自分の頭を砕きたい気分だ......
しかし、ここまでの話を聞いた以上は、もう彼女を嫪毐と同じ安車へ乗せるわけにはいかなくなった。
もう嫪毐の近くで冷静さを保つことは出来ないだろうし、何より口を封じられる恐れもある。
さて、どうしたものか??
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