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李斯転生 勝ち確?それとも絶対の無理ゲー?  作者: 杠煬
第3章 乱の兆し

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25/34

25 長信侯

お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。


秦王政三年(紀元前ニ四四年)。



各国要人の攻略(篭絡?)は順調に進んでいる。

その功績が評価されたのか、俺は客卿(まあ外国人の高官ってところだ)となり、そこそこの屋敷も賜った。



だが、是非とも味方に付けておきたかった趙の李牧とは、未だに接触すら出来ないでいるらしい。

官職には就いているもののどうやら行方不明らしく、その足取りが杳(よう)として掴(つか)めていないとのことだ。



引き続き調査はお願いしたものの、どこかの時点で見切りを付ける必要はあるかもしれないな?



.......

.....

...



それと例のオタサー姫には、偶然市場で遭(あ)ったあの日から一度も遭えていない。



彼女が何処(どこ)の何方(どなた)のお嬢様なのか呂不韋(じょうし)に訊(き)いてはみたものの、「それを知ってどうするのだ?」とか、「やんごとない身分の人々とはあまり関わら無い方がそなたの身のためだぞ」などと返されれば、俺にはそれ以上食い下がることは出来なかった。



いやまあ、どうしても遭(あ)いたいとかではないんだが。

どのみち庶民の俺なんかとは、本来なら縁もゆかりもない殿上人なんだしな。

ただ、次にまた何処かで偶然遭った時に叱られ無いよう、アリバイというかエクスキューズを用意しておきたかった訳で。



それと一応言っておくと、舌長鐙(あぶみ)が騎馬隊に、望遠鏡が斥候部隊に正式採用となり、俺も発案者として秦王嬴政から直々(じきじき)にお褒めの言葉を頂いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「は?太后殿下が雍へ?」

「うむ、秦王様が仰(おっしゃ)っておられたのだがな。どうやら咸陽に居るのは不吉であるとの易が出たそうだ」



ついては太后殿下が雍へ遷(うつ)る為の準備をするようにと仰(おお)せつかった。

持っていく荷物等の用意は太后宮の女官や宦官達の仕事なので、俺は馬車や護衛隊の手配をすることになる。



........嫌な予感、というより確信がある。



史実では、これは嫪毐の子を身籠った太后殿下が、こっそりと出産するための遷居の筈。

せっかく呂不韋の破滅コースを回避したっていうのに、それでも嫪毐の乱(イベント)は起こってしまうんだろうか?



「それと太后殿下が、あまり下賎の者達ばかりを侍(はべ)らせたくは無いと仰(おっしゃ)られたそうでな。身の回りをお世話する筆頭宦官を侯の位に就(つ)けることとなった」

「侯、ですか?」

「うむ、その筆頭宦官は『長信侯』となる」



これはもう間違い無い。

その筆頭宦官とは嫪毐のことだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




そして出発の日が来た。



早朝から太后宮の前には轀輬車(窓付きの部屋に車輪が付いたもの)と護衛の軍が整列し、俺は責任者として太后殿下のお出ましを待っている。

係の者がもう間もなくだと伝えてきた。



「全員、平伏せよ!」



大声でそう指示を出すと、俺も皆と共に地面に這いつくばる。

待つこと暫(しば)し、ギギィと軋(きし)む音を立てて、ゆっくりと門が開いたのが分かった。



大勢の女官や宦官達のものであろう微(かす)かな沓(くつ)と衣擦(きぬず)れの音。

いくつものそれらが、頭上を通り過ぎていくのを感じる。

その内の一つが俺の前で止まった。

......おや?



「面(おもて)を上げよ」

「はっ!......」



平伏する俺に向かって、おそらく女官のものであろう声が掛(か)かる。

勿論直(す)ぐには上げはしない。

が、二度目のお言葉(コトバ)を待つまでも無く、今度はイライラした様な野太い声が響いた。



「おいっ!なぜすぐに顔を上げぬ?太后殿下に失礼であろう!」

「ははぁっ!(いや誰だコイツ?)」




初めて秦王嬴政に謁見した時には、その秦王本人から直接(・・)に「早く顔を見せろ」と言われたわけで、今の場合とは状況が異なる。

太后殿下の意向を無視することになる非常識な物言いだが、本当に良いのか?



そう思いながらもゆっくりと顔を上げると、幾人もの女官達に囲まれて、派手な衣装をまとった中年の女と、イケメンではあるがどことなく軽薄な(チャラい)顔をした宦官が俺を睨みつけるように見下ろしていた。



.......

.....

...



当然初めて見る顔だが、この二人が太后殿下と嫪毐なんだろうか?



まるで値踏みするかの様な強い視線が突き刺さるが、俺は自分でも不思議な程に平然としている。

そして、そのことに少し驚いてもいる。

秦王嬴政に謁見した時の様に、身がすくんで掌(てのひら)が汗ばむなんてことは全く起こってはいない。



恐らくこれが「格の違い」ってやつなんだろう。

なんてことを考えていたら、チャラい宦官が精一杯に威厳を取り繕(つくろ)った様な声で命じてくる。



「お前が李斯だな?畏れ多くも太后殿下の護衛という、大変に名誉ある役目を仰せつかったのだ。気を抜くことなく励むのだぞ?」

「ははっ!」

「ふん!返事だけは一人前だな」



何だコイツは?

というか、わざわざそんなことを言うためだけに声をかけたのか?

思わず嫪毐(多分間違いない)の目をじっと見つめる。

多少、心にカチンと来るものが無いでも無かったからな。



「何だその顔は?不満でもあるのか?」

「いえ、失礼いたしました。あまりにも凛々(りり)しい声とお顔立ちでしたもので」

「............ふん!じろじろ見るでない!!」

「はっ!」



言外に「お前実は男なんじゃねえの?」って訊(たず)ねたつもりなんだが.........

やはりな、強い言葉を発した割には、しっかりと目が泳いでやがる。



「もうよい、立ったままでは難儀じゃ。早う出立するぞ」



微妙な空気になったところで、太后殿下のお声が掛かる。

はいはい、とっとと行きましょうか。

気分を変えて仕事にかかろうとしたところへ、さらにもう一声。



「そなたが李斯か......い(・)つ(・)ぞ(・)や(・)は(・)世(・)話(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)の(・)う(・)?」




あれ?..........やっちまった、かな??



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