20 篭絡対象と推挙対象
お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
後宮という、男には干渉出来ないエリアに居る趙高のことは一先ず措いておくしか無いとして、一つだけ気になることがある。
歴史上の出来事発生が少し早いのだ。
呂不韋が嫪毐を身代わりとして太后殿下に送り込むのは、本来なら今から10年近く後の筈。
それがつい先日起こっていることから考えても、今後の歴史は巻きで進んで行く可能性がある。
無論理由は不明だが、俺の転生と本来の歴史への干渉が一因ではあるのかもしれない。
段々と前世の記憶が通用し難い状況にはなるであろうから、今後は知ってる名前を聞いたらすぐにリアクションした方が良いだろうな。
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天下統一のための離間計について、呂不韋と打ち合わせを行う。
「すると懐柔すべきは、各国の宰相達とは限らぬのだな?」
「左様でございます。むしろ狙うはその二番手。国の重鎮は忠誠心が高いことも多く、なまなかなことでは秦になびかぬ可能性がございます。ですので、そういった真面目な者を目の上のタンコブとして鬱陶しく思っている者、成り上がろうとしている者、所謂小者こそが、我々の役に立つ者であるかと」
「いやいやいや、そなたも悪よのう」
愉しげにニヤリと笑う呂不韋。
いいなその台詞、俺も一度は言ってみたいものだ(笑)
「暗殺に関しては、無闇に行うと却ってその国の結束を促す可能性があるため、十分な吟味の上、必要最小限で良いかと。それと懐柔すべき小者共を選ぶに当たり、同時に調査をお願いしたきことがごさいます」
「ふむ、何かな?」
「能力が有りながらも、世渡りが不得手であるが故に冷遇されている者、他にも地方などでくすぶっている者がいないかをお調べ頂きたいのです。能力は高いが忠誠心はそれ程でも無い、むしろ己を知る者の為に働きたい。そういった者達をこそ、今のうちから我が国に引き込んでおくのです。天下統一が成された暁には、人材は幾らあっても足りませぬが故に」
「その口振りでは、そなた、既に誰ぞ心当たりがあるのだな?」
「はい、一人だけ。韓の公子で韓非という者がおります」
「ほう?.....もしかして、そなたの知り合いか?」
「はい。荀子の下で机を並べた学友にございます。彼は韓の公子ではありますが、吃音であるとの誤解もあり、韓では冷遇されていると聞き及びます。僭越ではございますが私が鮑叔であるならば、韓非は管仲。彼こそは臥竜であり鳳雛、これからの国家運営に無くてはならぬ人材であると断言出来ます」
「いやいやいや。そこまで言うとは、そなた随分とその者を買っておるのう。まあ推挙はいずれ聞くとして、そなたも欲の無いことだな?」
「.......はぁ?」
「そうであろう?優秀な人材を囲い込む程に自分の出世が遅れ、場合によっては妨げられるかもしれぬのだぞ?」
「いえ、それは構わないのです。先日の謁見でも痛感いたしましたが、私は秦王様に近しくお仕えするには度胸も度量も、そして才能も足りませぬ」
というか出世し過ぎたりなんぞしたら、刑死は避けられたとしてもストレスで寿命が縮むわっ!
それよりも、呂不韋の言葉で引っかかったのは.....
「相邦様は先程『そなたも』と仰られましたか?」
「ふふふ、気付かれたか。いやいやいや、私もそなたと似たようなものでな。位人臣を極めてみて痛感したのだが、私は政治よりも金儲けの方が性に合っているようだ。戦の指揮や政敵との駆け引きなど他の者に任せて、この国の経済のみと向き合っていたいのだ」
「成程、左様でございましたか」
「相邦に相応しい者が居るならば、私は喜んで今の地位を譲り、国を富ますことだけに専念したいと思っておるのだよ」
まあ、気持ちは分かる。
呂不韋は敢えて明言を避けたようだが、国内にも厄介な政敵は存在するし、そいつらとの命のやり取りなんざ出来ればやりたく無いというのが本音だろう。
何せ一銭にもならんからな。
ちなみに、ここでいう政敵とは誰か?
それは貴族階級と、それに関する既得権益で甘い汁を吸っている連中のことだ。
.......
.....
...
確か今から七、八年後の出来事になる予定だったと思うが、嬴政の異母弟である成蟜が王位奪取のために反乱を起こす。
成蟜自身が嬴政のことをどう思っていたのかは知らないが、少なくとも嬴政に敵対する貴族階級に担がれたのは間違いの無いところだろう。
それと今現在、韓から技術指導者として招聘された鄭国という者が大規模な灌漑工事を行っているが、彼が韓の間者であったことが発覚するのもこの頃だ。
これにより外国人排斥のための「逐客令」が上奏されるが、李斯の尽力によって撤回となる。
これなんかも、既得権益を侵害されていた連中によるものだ。
面倒ではあるが、足元を掬われ無いよう対策はしておかねばならないな......
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この国へはそれ程の大荷物でやって来たわけでは無いが、大切に持ってきた物が二つだけある。
それが「孤憤」と「五蠹」の記された竹簡だ。
一日の仕事が終わり自分の部屋に戻ると、俺はその竹簡の綴じ紐をそっと開き、カタカタと広げる。
荷物にならぬようにと有沙少年が小さめの字で書いてくれた原本を見ながら、真新しい竹簡へと、今度は読みやすい大きな字で丁寧に写してゆく。
秦王に即位したばかりの嬴政にはまだ早いだろうが、一応、準備だけはしておいた方が良いからな。
献上するのは、出来ればあと数年は待ってからの方が良い。
もう少し成長し、人生経験を積んでからの方が、この二編の凄みは理解出来るはずだ。
子沙、もう少し待っていてくれよ。
君が大活躍できるように、露払いはしっかりとしておくからな。
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