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李斯転生 勝ち確?それとも絶対の無理ゲー?  作者: 杠煬
第2章 秦にて

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16/34

16 奇貨

お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。


ちょいと礼を失した感想かもしれないが、俺の指摘に、呂不韋がその表情をころころと変える様(さま)は、見ていて少し面白かった。



まあ俺の睨(にら)んだ通り、呂不韋(コイツ)は一種の「燃え尽き症候群」に罹(かか)っていたらしく、かつての妾である太后殿下との火遊びに心の安寧(というかむしろスリルだな)を求めようとしていたらしい。



一旦コンプラを無視させてもらうと(土下座っ!)、相国という立場にいれば、妾なんぞ好き放題いくらでも若い女を囲える筈なんだが、わざわざ年増のヒス(偏見)をつまみ食いしようとするあたり、男の本能ってのはなかなか御(ぎょ)し難(がた)いものがあるな(再びの土下座っ!!)。



ま、はっきり言って、このイベントは回避させた方が本人の為でもあるし、余計な血が流れずに済む。



一か八かの勝負ならまだしも負け確のクソゲーなんぞ、この国に余計な混乱を招くだけ。

嫪毐(ろうあい)の登場はご遠慮願いつつ、とっとと嬴政に天下を統一してもらって平穏な生活を送りたいものだ。



話を続けよう。



「さて相邦様、商君(商鞅)の頃よりこの秦国では、商いをする者を蔑視する傾向にございますな?」

「はははは、仰(おっしゃ)る通りです。なにしろ、今でも私のことを商人上がりだと陰口を叩く者もおりますのでね。ですが老師(せんせい)、確かに私は自分が相邦である前に、一人の商人なのです。そして自分が商人であることに、今でも矜持を持っておりますぞ?」



苦笑しつつも俺の目を真っ直ぐに見据える呂不韋。

少しずつだが立ち直ってきたようだ。



......

.....

...



商鞅の改革(変法)においては、重農と強兵が優先され、商いは「他人の成果を掠(かす)め獲(と)る賤(いや)しいこと」だとされていた。

まあ俗に言う「転売ヤー」なんてのは、まんまこれだと思うがな。



「確かに商君の時代ではそれが必要であったのかもしれません。土を耕して食料を得、戦をして土地を得る。物を生み出すのは確かに重要なことでございます。ですが、今や秦国は他の六国に比べ豊かな国となりました。『流通』を疎(おろそ)かにしたままで良い筈はございません」

「いやいやいや、老師(せんせい)にそう仰(おっしゃ)って頂くと救われますな」



製造 → 卸売 → 小売 → 消費者 の流れをうまく司(つかさど)ればそこに利益が生まれるし、せっかくの生産物が現地で無駄になることも防げる。

戦によって領地が増えれば、それに従って市場も大きくなるので、今後も流通の重要度は増していく筈だ。



質(たち)が悪いのは、この流れの中に無理やり割り込んで、スムーズな経済活動を妨げる連中もいるってことだ。

つまり、製造 → 卸売 → 小売 → 「転売ヤー買占&小売」 → 消費者 って余計な部分が増えるわけで、成程、やっぱりコイツ等は要らんな。



ま、この辺りはしっかりと法を整備しておく必要がある。



「それと相邦様には言わずもがなでございましょうが、秦は今や、天下統一に向かって進みつつあります。その一方で他の国々には厭戦気分が広まっております」


「それは確かに私も感じておりました。しかし何故なのでしょうか?」


「結局のところ、戦乱の世が長く続き過ぎたのです。秦以外の国々では民は戦に疲れ、それを知ってか知らずか官も搾取することしか考えておりません。戦に駆り出された民がいくら戦おうが、生活は苦しくなるだけなのです」


「ふむ、それで?」


「一方でこの秦においては、戦で敵の首を獲れば、それがきちんと褒美として返ってくる。そして商君の定めた法により、民が身を立てるためには戦で手柄を上げるしかその方法はございません。ですので戦をすれば秦は強く、将が戦場での駆け引きさえ間違えなければ、遠からずして天下を統べることになりましょう。そうすれば、秦一国とは比べ物にならぬ巨大な市場が拓(ひら)けることになります」


「うぅ.......む?.......し、しかし老師(せんせい)、今のままでも、商人たちは国境を越えて商売をしておりますぞ。むしろ程好く戦が行われている今の方が、食料や武器などの値段は吊り上がるのでは?」


「そうかもしれません。ですが弊害もございます」


「弊害?」


「ええ、まずは通貨が国によってばらばらであること。それから.......」



と、話を続けていく。



まあ、沢山あるんだよな。

そもそも度量衡が統一されていないのだから、国を跨(また)ぐ度に余計なコストがかかっている筈。



例えば、この時代は舗装道路なんてもんはないから、荷車が通れば轍(わだち)が出来る。いわばレールが敷かれているようなものだから、車幅の異なる荷車はスムーズに走ることが出来ないだろ?

だから車輪の規格がばらばらだと、その都度荷を積み替える必要が出てくる訳だ。



他にも、重さや嵩の基準が異なれば、貪官汚吏による「中抜き」の機会も増える。100tの穀物が現地に着いたら70tになってました、なんてことが当たり前になっているんだ。



天下統一が為されれば、すぐには無理でもこういった弊害は改善していける。



無論、そのために必要最小限の戦をするのはやむを得ないとしてだ、そもそも戦ってのは、国にとって一番貴重な「人材」が無駄に消耗されてしまうもの。

各国が戦略のあやふやな戦争を繰り返すこんな時代は、早く終わらせるべきだと思う。



兵とは国の大事なり、政治家共のくだらん見栄や意地なんかで、ゲームの様に楽しんでいいもんじゃ無いんだよ。



「いやいやいや、これは確かに無駄なことが多うございますな。すると、天下統一からの巨大な市場開拓、これこそが老師(せんせい)の仰(おっしゃ)られた『奇貨』なのでございますね?」



したり顔で同意を求める呂不韋。

その顔には「まだまだ稼ぐぞ、稼げるぞ」というヤル気が満ちつつある。

とりあえず、呂不韋(コイツ)の心に巣喰っていた虚無は霧散したようだな。



だがハズレ、俺の言う「奇貨」とはそんなことじゃあ無いんだ。



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