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李斯転生 勝ち確?それとも絶対の無理ゲー?  作者: 杠煬
第2章 秦にて

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15 親と子

お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。


【呂不韋視点】



目の前に座るこの李斯という男。



招賢をして召し抱えたからには、一応謙(へりくだ)ってはみせたものの、どうにも捉えどころが無い。

だが長年の商売で磨かれた私の勘が、油断はするなと警鐘を鳴らしている。

この男は、少なくとも「奇貨」の意味を知っているのだから。



「相邦様におかれましては、ここのところ、ご退屈をお感じではありませんでしょうか?」

「......は?......いえいえいえ、先程も申し上げました通り政務多忙でございましてな。とても余暇などございませんぞ」



てっきり自らの才能を売り込みに来たと思っていたのだが、そういったことは微塵も見せること無く、逆に奇妙なことを聞いてきた。



いやしかし、この男は一体何を言っているのだ?

相邦という地位にいる以上、やらねばならぬ政務(しごと)はいくらでもある。

それとも身分の低い者には、私が酒色に溺れ、毎日遊び惚けている様に見えるのだろうか?



だがそんな疑問は、この李斯という男の次の言葉で氷解した。



「いえ、ご退屈と申し上げましたのは、相邦様の『御心(みこころ)』のことでございます。いかがでしょう?」

「.............まさか、私が『虚しさ』を感じているとでも?」



心の中を見透かされ、私は言葉を失った。



......

.....

...



そんなことは無い、そう言って否定したいが、李斯(このおとこ)の言うことは正しい。



家財を注ぎ込んで子楚を秦の王とし、その功績を以(もっ)て位人臣を極めるという計画は大成功を収めた。

勝算はあったが、失敗すれば全てを失う一世一代の大博打(おおばくち)でもあった。



ひりつく様な焦燥と、幾晩もの眠れぬ夜、そして震える程の興奮に夢中になり、生きているという実感に私は酔い痴れた。

まさに夢幻の一刻(ひととき)であった。



その夢が終わり相邦となった私に残されたのは、唸(うな)る程の財貨(かね)と国政を恣(ほしいまま)に出来るだけの権力、そしてすっかり燃え尽きた心(・・・・・・・・・・)だけだった。



「老師(せんせい).............何故.............そう思われるのです?」



ようやくしぼり出した私の問いに対して何(なん)ら答えようともせず、この男は別の問いを返してきた。



「子を見ること親に如かず、という言葉がございますな?」

「は?はぁ......」



子と親.......まさかこの男も、嬴政が私の息子だという噂を信じているのだろうか?

巷間にてまことしやかに囁かれているが、そんな事実は無い。

それは天地神明に誓って断言出来る。



なにせ子楚(荘襄王)の妻となった太后殿下(あのおんな)は、元々私の妾などでは無かったのだから。



.......

.....

...



殺されても構わないという程度の人質として趙へ送られ、冷遇されていた子楚。

秦が趙を攻める度に、その鬱憤を晴らすために虐げられていた子楚。



そんな当時の彼に女など抱ける筈も無く、私の用意した金(かね)の力でようやく一人の女を妻とした。



元は私の持つ財貨に目が眩(くら)んで妾になろうと近付いて来ていた女達の一人で、私がその財貨の殆(ほとん)どを子楚に注ぎ込んだことを知ると、あっさりとその攻略目標を変えた女達の一人だった。



勝ち馬の争奪戦に破れた他の女達が、やっかみ半分で流した噂。

子楚の息子が呂不韋(わたし)の種であるなど、それ故に、事実無根の流言飛語でしかないのだ。



だが人は、人というものは、真実よりも愉悦を求める。

私がいくら否定しようとも、それが却って噂の根拠となる悪循環に陥(おちい)ってしまっていた。



「いえいえいえ、老師(せんせい)も.....お信じなのですな?」



もはや諦め半分でそう言うと、李斯は「はて?」と首をかしげた。



「いえ、私の申し上げたいのは、子を見ること親に如かず、ですが『逆もまた真である』ということでございます」

「............」



何だ?

この男は何を言っている?

何を言おうとしている?



そう思ったが、李斯の次の言葉の意味(・・)に気付いた瞬間、私の背に冷たいものが疾(はし)った。



「親のことを一番理解しているのは、その子なのです。太后殿下のお心をお慰(なぐさ)めするのは、この度即位なされた新たな秦王様のお役目。相邦様がお慰め(・・・)申し上げる必要はございません」



.......

.....

...



実は先日、太后殿下から「近々顔を出すように」との要請は受けていた。



元々、男を食い物にしていた女である。

寡婦(やもめ)となった今、孤房に耐えられなくなったのだろうと、見当もついている。

太后殿下の権力を持ってしても、いやむしろその立場故に、軽々しく男娼など買えはしない。

ならばせめて、かつて一度は狙った男(えもの)と火遊びをしようとしているのだろう。



そしてその事が解(わか)っていながら、私はその甘い罠に自ら陥(おちい)ろうとも考えていたのだ。



「.......老師(せんせい)の仰(おっしゃ)る通りかもしれません。ですが今の私には『退屈』な余生しか残されてはいないのです」



若さだけで世を渡っていたあの女も、今や年増の太后殿下。

彼女に女としての魅力を求めている訳では無いのだ。

自暴自棄になった私は、心のどこかで破滅と隣り合わせの戦慄を求めていたのかも知れない。



俯(うつむ)く私に向かって、李斯はこう言い放つ。



「ですから私は『奇貨、未(いま)だ居くこと能(あたわ)ず』と申し上げたのです。相邦様、店仕舞いにはまだ早うございます。まだ終わりではございませんし、まだまだ稼ぐ種(ネタ)は転がってございますぞ」



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