13 技術者集団
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「こんな感じですかね?」
「そうだな。あとは実際に遠くを見て、透鏡の厚みや曲面の具合を調整してくれ」
墨家集団の腕は確かなもので、竹で筒を作り、レンズを磨き、あっと言う間に試作品を作り上げてしまった。
それも、日課となっている農作業の合間に、だ。
「うひゃあ!す、すげえっ!!」
「おい、まだか?」
「よし、もう一つ出来たぞ」
「見せてくれ」
「まあ待て!順番だ、順番!」
いくつか完成したそれを代わる代わる覗いた者達が、順に素っ頓狂な叫び声を上げる。
そしてその後、俺を見る目付きが尊敬の眼差しに変わった。
いや、俺が発明したわけじゃ無いんだが.......(汗)
「これは凄い。これを使えば、遠くから近付く獣にいち早く気付ける。見張りに役立つな」
「それより軍事だ。斥候などかなり容易になるぞ」
「うむ、危険を冒して敵陣に近付かずとも、遠くから陣容が把握出来るのだからな」
全員が、新しい玩具を与えられた子供の様にはしゃいでいる。
「よし、姫のために特上の物を作っておこう!」
「おおーっ!!」
「先ずは、一番真っ直ぐな竹を見繕うぞ」
「透鏡も一番透明なものを選って、良く磨いておくんだ」
「任せろ!心を込めて磨くぜ」
「待て待て!俺にも磨かせろ!」
そんな楽しそうな連中を眺めながら、俺は村長に話しかける。
少しだけ気になっていたのだ。
「ところで長、貴方が『鉅子』ということでいいのかな?.....それとも姫がそうなのか?」
「......只者で無いとは思っておりましたが.....その洞察力、流石ですな」
あ、いえ、只の前世の記憶です.....(汗)
.......
.....
...
鉅子、それは墨家集団を率いる者の尊称。
つまり指導者のことだ。
確かこの時代、墨家は相里氏、相夫氏、鄧陵氏の三つの派閥に分裂していた筈。
この村は、その内のどれなのだろう?
「この村の者達は、そのどれでもございません。ですから鉅子も居りません。強いて言うならこの村は、三つの派閥の中で居場所の無かった者達の集まりでございます」
「居場所が無かった?それはまた何故です?」
村長は寂し気に笑う。
「そもそも、三つもの派閥に分かれたのがその証しです。今の墨家という集団は、その小さな世界の中だけで、権力を求めて互いに争う低俗な存在へと成り果てました」
「......ほう?」
「そんな中でも、平和な世のためにと新しい技術だけを追い求めていた我らは、気付けばいつの間にか異端となっていたのです」
「あぁ......そういうことか」
「権力に迎合しない者など、上層部から見れば不穏分子でしかございません。私もそうやって元いた場所を追われた一人なのでございます」
失意の中、流れついた先で農地を開墾し、日々の糧を得るために土を耕していたが、彼の工夫した灌漑の出来が良く、同じように組織を追われた者達が噂を聞きつけて訪ねてくるようになった。
そうやって半ば自然発生的にこの村が生まれたのだという。
「ですから鉅子がいないと申しましたのはそういうことでございます。成り行き上、私が村長をやってはおりますが」
「なるほど、良く分かった」
俺が偶然立ち寄ったこの村は、出世競争に興味が無く、それ故に居場所を追い出された技術オタク達が作り上げた、いわば一種の理想郷だということだな。
うん、それは分かったのだが。
となると、あのオタサー姫はこの集団とどうかかわってくるのだろう???
「それは全くの偶然でございますよ」
.......
.....
...
数年前のある暑い日のこと、この村の近くで車軸が折れて立ち往生した馬車があり、従者の一人が助けを求めてこの村へやって来たのだそうだ。
元々、一人一人が優れた技術者達であったこの村の者にかかれば修理は容易い。
さらに基本的に人の好い彼等は、なまじ技術力があるので大量に採れていた肉や菜の保存食、それに酒までも献上したとのこと。
で、秦の都「咸陽」から斉の国へ行こうとしていたらしいその一団の中には、恐らく一番偉いであろう年配の人のことを「お父様」と呼んでいた小姐がおり、この村のことを色々と尋ね、皆に気さくに話しかけてきたのだという。
「なるほど、その小姐が姫だと?」
「左様で御座います。昨年、その姫が共もお付けにならずに単騎でこの村へいらっしゃった時には肝をつぶしました」
「だろうな」
「私共の必死のお願いで、今はようやく一人だけ護衛をお連れになるようになられましたが」
「それはまた、随分とお転婆な姫のようだな(汗)」
その時以来、昨日の様に時々、お忍びで遊びに来るようになったとのこと。
いろいろと珍しい竹簡や異国の物なども差し入れてくれるそうで、成程、やはり彼女もこの技術者集団とはウマが合うのかもしれない。
彼女がこの秦国において、それなりの身分の「お貴族様」であるのは間違いないのだが、実際のところ、何処の何方なのかは不明なのだそうだ。
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望遠鏡にすっかり夢中になった村の連中は、俺が他にも新しい技術を知っていると期待したようだ。
それについては正直、少し悩んだ。
だが、既に自身の未来を変えるために色々と画策しているわけでもあるし、何よりあまりにも無邪気に喜ぶ村人達の様子が微笑ましくもあった。
なので、俺は世話になった感謝の意も込めて、おぼろげな前世の記憶を掘り起こしつつ、その村に三日ほど滞在することになった。
そして四日目の朝。
「通古様、ぜひまたいらして下さい。いつでも歓迎いたしますよ」
「有難う、皆も達者でな」
すっかり仲良くなった仲間達に必ず再訪すると約束し、そして俺は咸陽へ向けて出発した。
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