シャドウ・ケルベロス
ギルド裏の薬草園を荒らしていたニードル・ラビット3匹を一瞬で消し炭にし、ついでに絡んできたSランク冒険者をも垣根に突き刺して気絶させた広金兼彦。
彼が「あれぇ? ウサギさんどこかなぁ?」と【脳内省エネモード(知力F-)】の完全なボケ状態でギルドの受付に戻ってきた時、フロアの空気は文字通り凍りついていた。
受付嬢「は、はい……確かに依頼達成ね、兼彦くん。……あの、ギルドの裏で頭から垣根に埋まって白目を剥いていた大男については、何か知っているかしら?」
兼彦「うーん、おじさん、かっこよく滑り台のマネして寝てたよぉ。おやすみかなぁ?」
受付嬢「(絶対にこの子がやったわ……! ステータスALL Dのくせに、一体どんなイカサマを使ったの!?)」
受付嬢がガタガタと震えながら報酬の金貨を手渡す裏で、ギルドの酒場にいた猛者たちの視線が一斉に兼彦へと突き刺さった。
「おい……聞いたか。ボルドの奴が、あのALL Dのガキに一瞬で返り討ちにされたらしいぞ」
「チッ、ただのゴミ虫だと思ってたが、とんでもねえ隠しスキルを持ってやがるな」
新大陸のギルド本部に、『サッカーボールを持った不気味なFランクの化物』という都市伝説が爆誕した瞬間だった。
ギルドを出て、しばらく歩いた兼彦は、もらった報酬を握りしめてフフンと鼻を鳴らした。
ここで脳のメモリを切り替え、【50%フォルム】(オールD)を再起動する。
兼彦(50%)「よし、頭が普通に働くようになった。まずはこの新大陸の通貨の価値を把握しつつ、お腹が空いたから何か食べに行こう。……ん?」
50%の知力Dになった兼彦は、自分の後ろからついてくる『3つの不穏な気配』にすぐに気がついた。
ギルドで兼彦の噂を聞きつけ、その正体を暴くか、あるいはアタッシュケース(※兼彦はまだ持っていませんが、ただの不審な新顔として)から身ぐるみを剥ごうと企む、SSランク一歩手前の「Sランク冒険者の暗殺者3人組」だ。
彼らは気配を完全に消し、夜の王都の裏路地のような、新大陸の薄暗い大路の死角から兼彦を尾行していた。
兼彦(50%)「(3人か。スピードは全員C〜Bランク。50%の僕のままじゃ、気配に気づくのが限界で、戦闘になったら確実に不意を突かれて首を跳ねられるな……)」
だが、兼彦は足を止めなかった。
なぜなら、彼のすぐ目の前(路地の角)から、尾行している3人など比較にならないほどの『規格外の圧倒的な暴力』が、凄まじい地響きと共に迫っていたからだ。
それは、最高神(謎のおじいさん)が天界から兼彦の無双っぷりを見ていて、
「ほほう、Fランクのウサギじゃ物足りんようじゃな。なら、ちょっと刺激的なやつをプレゼントしてやろうかのぅ」と、面白半分で街のすぐ近くに配置した【SSランク・絶滅種】『シャドウ・ケルベロス(冥界の三頭魔犬)』だった。
ドゴォォォォンッ!!!
路地の壁を派手に粉砕し、3つの巨大な犬の頭を持った、漆黒の炎を纏う魔獣が兼彦の目の前に立ち塞がった。
【神の悪ふざけ:シャドウ・ケルベロス】
• パワー:【S】 / 体力:SS】 / スピード:【S】 / 知力:【C】
新大陸でも数年に一度しか目撃されない、一国を滅ぼすレベルの災害級神獣。
シャドウ・ケルベロス「グルァァァァァッッッ!!!(咆哮)」
凄まじい咆哮の風圧だけで、後ろで兼彦を尾行していたSランクの暗殺者3人組が「ひっ……!? な、なんで街の近くにこんな化物がいるんだァァッ!?」と腰を抜かしてガタガタと震え出した。
魔獣の6つの赤い瞳が、目の前にいるALL Dの兼彦を完全にロックオンする。
時速300キロを超える神速の爪が、兼彦の脳天目がけて振り下ろされた。
兼彦(50%)「(……あ、これ、50%フォルムじゃコンマ1秒で消し炭になる。出力、100%(フルパワー)解放――!!)」
瞳の色が、ガラリと冷徹な深淵の輝きを帯びる。
【固有スキル:自動覚醒スイッチ・極限発動】
知力【SS】、スピード【SS】。
50%のメモリをすべて戦闘に回した瞬間、世界は完全に停止した。
振り下ろされる魔獣の爪が、1ミリずつミリ単位でゆっくりと落ちてくる。
兼彦*(……演算開始。敵のスピードS、体力SS。外皮の暗黒結界が物理攻撃を90%無効化している。普通に蹴っても弾かれるね。……勝機あり。結界の魔力対流を逆算し、その隙間を縫う『新魔球』を今ここで構築する)*
覚醒した兼彦は、じっくりと時間をかけて足元の重力、空気抵抗、そして魔獣の結界の「波形」を脳内でハッキングするように完全演算。スッと左足を振りかぶった。
【アクティブスキル:完璧なる魔力弾】
周囲の空気が一瞬で真空になるほどの勢いで魔力を吸い込み、兼彦の足元に、らせん状の溝を刻まれた超高密度の漆黒の魔力球が生成される。
兼彦*(狙うは中央の首の喉仏。そこに結界の排熱口がある。……魔球、無回転ブレ弾、起動)*
兼彦は、痛覚を完全に遮断した左足(体力S)に、音速を遥か一歩超える大爆発的脚力(パワーA)を込め、その漆黒の魔球をド芯でブチ抜いた!
キィィィィィィーーンッ!!!!!
空間が歪むほどの超高周波の破裂音。
放たれた魔球は、空中を飛ぶ中で一切の回転をせず、空気抵抗を不規則に受けることで「右、左、上、下」と、あり得ない軌道で激しくブレながら神速SSで突進した。
シャドウ・ケルベロス「が、ガウッ!?」
スピードSの魔獣ですら、どちらに曲がるか全く予測できない超ブレ球。
魔球は魔獣が爪で叩き落とそうとした瞬間、不自然にカクッと下へブレて爪をすり抜け、中央の首の喉仏(弱点)へとピンポイントで突き刺さった。
ズガァァァァァァァァンッ!!!!!
王都のギルドを破壊した福田のデコピンを越える、超局地的な大爆発。
物理カット90%の結界を内側から完全に破壊されたシャドウ・ケルベロスは、悲鳴を上げる暇すらなく、3つの首同時に一瞬で塵となって完全に消滅した。
背後で腰を抜かしていたSランクの暗殺者3人組は、その光景を見て、あまりの恐怖に呼吸を忘れていた。
暗殺者たち「あ……あ……デコピンどころじゃねえ……。一国を滅ぼす神獣が、ガキのキック一発で、消えた……?」
兼彦「ふぅ……。ブレの演算、1ミリの誤差もなかったね」
戦闘終了と同時に、脳のメモリが一気にシャットダウンする。
瞳の輝きが完全に消え去り、兼彦は再び【脳内省エネモード(知力F-)】のボケ状態へと一瞬で退化した。
兼彦「あれぇ? わんわん、どこ行っちゃったのかなぁ? お星様になっちゃったのかなぁ? お腹空いたから、お肉食べにいこっと」
兼彦はポフポフとサッカーボールを蹴りながら、何事もなかったかのように歩き出す。
後ろに取り残されたSランクの暗殺者たちは、「あいつに関わったら、一瞬で遺伝子レベルで消される……!!」と、涙目を流しながら一目散にギルドへと逃げ帰るのだった。
こうして、新大陸のギルドにさらなる凶悪な都市伝説『神獣をサッカーボールで消し飛ばすFランクの死神』の噂が刻まれるのだった――。




