兼彦のクラスメイト
最北の「神獣の谷」に立ち上る、凄まじい漆黒の魔力のチリ。
一国を滅ぼすはずのSSランク神獣、シャドウ・ケルベロスを魔球・無回転ブレ弾の一撃で消し飛ばした広金兼彦の脳内には、まだ【100%覚醒モード】の超天才知能(知力SS)が残光のように駆動していた。
兼彦*(……シャドウ・ケルベロスの分子崩壊完了。同時に、僕の魔球が引き起こした空間湾曲の衝撃波が、この新世界の地磁気と魔力対流を一時的に3.14%歪めたね。……待って。この歪んだ魔力の波形に、奇妙な『ノイズ』が引っかかっている)
世界を完全演算する兼彦の超天才脳が、新大陸の全土、そして遥か彼方の海をハッキングするようにサーチしていく。
本来なら知力SSでも届かないはずの遥か遠くの領域。しかし、今回の超爆発による「魔力の地殻変動」が、一時的に彼のレーダーを世界の果てまで拡張していた。
兼彦*(……ノイズの逆算を開始。この島から真南へおよそ45キロ。激しい海流を突き破り、こちらへ向かって直進してくる木製の魔導舟が1隻。……乗員は3人。生体エネルギーの波形を照合。……これは、クラスメイトの瑛人、青野、山田だね)
兼彦の冷徹な瞳の奥に、かつての教室の風景が一瞬だけフラッシュバックする。
さらに知力SSの演算は、彼らが抱えている「特殊なアタッシュケース」の中に、この世界の最高級通貨である白金貨が5000枚も詰まっていること、そして彼らが王都の凄まじい戦争から命からがら逃げ延び、必死の形相でこの島を目指していることまでを完全に導き出した。
兼彦*(到着予定時刻は、現在の風向きと潮の流れから計算して、およそ10日後の夕方。……場所は、最南部の『始まりの砂浜』だ。……ふむ。彼らは何者かに追われている。そして、この島の生態系(平均S〜SSランク)を全く理解していない。このままだと、彼らは島に上陸した最初の10秒で、野生の大蛇に噛み砕かれて全滅する確率が99.8%だね)*
そこまで計算を終えた瞬間、脳の許容量が限界を迎えた。
ピコン、とシステム音が鳴り響き、兼彦の瞳から冷徹な輝きが完全に消え去る。
100%の超天才知能は一瞬でシャットダウンし、彼は再び【脳内省エネモード(知力F-)
】の完全なボケ状態へと退化した。
兼彦「あれぇ……? なんだか、遠くの方からポテチの匂いがするなぁ。瑛人たちの匂いかなぁ? お腹空いたから、あっちの砂浜のほうへのんびりお散歩しよっと」
兼彦は、自分の脳が今しがた「クラスメイト3人の絶滅の未来」を予知したことすら忘れ、ただポフポフとサッカーボールを蹴りながら、トボトボとした足取りで南のエリアへと歩き始めるのだった。
彼らがこの広い『新世界巨島』の最南部で運命の合流を果たすまで、あと10日――。
本編の足音が、すぐそこまで迫っていた。




