リフティング
最高級の天然秘湯で旅の疲れを100%癒やし、エメラルドグリーンのお湯から上がって服を着直した広金兼彦。
彼の脳内は相変わらず【脳内省エネモード(知力F-)】の完全なボケ状態のまま、再びサッカーボールを足元でポフポフと転がしながら、西の広大な未開ルートをお散歩し始めていた。
兼彦「あー、いいお湯だったなぁ。体がかるいなぁ。ポフ、ポフ、次はあっちのトゲトゲした草がいっぱい生えてるほうへ行ってみよっと」
兼彦がトボトボと歩くその後ろ、木々の隙間や地面の影から、恐ろしいほどの殺気を放つ『3つの影』がじりじりと距離を詰めていた。
それは、新世界ギルドのSSランクギルド長が、街の近くで神獣が消滅した事件を調査するために極秘裏に派遣した、ギルド最高峰の暗殺部隊『シャドウ・アイズ(Sランク隠密暗殺者3人組)』だった。
暗殺リーダー「(おい、ターゲットの動きを見ろ。完全に隙だらけだ。ステータスを魔眼で覗いたが……やはりALL Dすら下回る、体力E、知力F-、腕力F、スピードEの完全な一般人未満のゴミ虫だぞ)」
暗殺子分A「(しかしリーダー、ボルドたちSランクが返り討ちに遭い、あの神獣が消し飛んだ現場の目撃証言はこのガキを指しています。油断は禁物です)」
暗殺リーダー「(フン、どんなイカサマだろうと、我らの【隠密スキル:気配遮断S】の前には無意味。あいつが次の巨木の影に入った瞬間、3人同時に首を跳ねる。……いくぞ!)」
暗殺者3人組は、一切の足音も、呼吸の音すらも世界から完全に消し去り、スピードAの神速で兼彦の死角(真後ろ)へと一瞬で肉薄した。
彼らが手にした黒い毒短剣が、兼彦の首筋へ向かって同時に突き出される。
衝突まで、あと0.1秒。
通常なら、100%覚醒のスイッチが入るべき絶対的な命の危機――。
しかし、兼彦の脳(知力F-)は、この暗殺者たちを「命の危機」として1ミリも認識しなかった。なぜなら、彼らが【気配遮断:S】で自分の気配や殺気を完璧に消しすぎていたがゆえに、兼彦の脳の危険センサーにすら「そこに誰もいない(何も起きていない)」と判定されてしまったのだ。
兼彦「あ、そうだ。あっちの木に、おもしろい形をした実がなってるぅ。オーバーヘッドキックの練習しよっと!」
首をハネられる直前のその瞬間、兼彦はただの気まぐれで、その場からバッと真上へと大ジャンプした。
暗殺リーダー「(なっ……!? 突如として跳んだだと!?)」
完全に虚を突かれた暗殺者たちの短剣は、誰もいない空間をスカッと空振りする。
それだけではない。真上に跳ね上がった兼彦は、最高値まで跳ね上がったボールを落とさないよう、空中で体を反転させ、無邪気に渾身のボレーシュート(ただのクリアキック)を放った。
パワーF。しかし、長年のサッカーで鍛え上げられた足の甲のジャストミートは、凄まじい衝撃となってサッカーボールへと伝わる。
兼彦「えいっ!」
ドカッ!!!
放たれたサッカーボールは、兼彦の真下にいた暗殺リーダーの額へと、完璧なタイミングで直撃した。
暗殺リーダー「ぶふぉっッ!?!?(鼻の骨が折れる凄まじい音)」
気配を消すことに全神経を集中させていたリーダーは、上空から降ってきた「ただの硬い球体」を全く防御できず、顔面をへし折られてそのまま地面に激突。白目を剥いて一発で失神した。
暗殺子分A・B「(リ、リーダーーーッ!?!?)」
さらに、リーダーの顔面で激しく跳ね返ったボールは、物理的なイレギュラーバウンドを起こし、すぐ横で硬直していた子分Aの股間へと、恐ろしい速度でライナーとなって突き刺さった。
ガキィィィィンッ!!!(※新世界の静かな森に響き渡る切ない音)
暗殺子分A「う、ぐ……あ……あわわ……(声にならない悲鳴)」
子分Aは、この世の終わりのような顔をして股間を押さえ、ゆっくりと膝から崩れ落ちて泡を吹いた。
残された子分Bは、何が起きたのか理解できず、冷や汗を流してガタガタと震え出した。
魔法もスキルも使わず、ただ「リフティングの練習」をしようとしただけのALL Fのガキが、ギルド最強のSランク暗殺部隊をコンマ1秒で壊滅させたのだ。
兼彦「あれぇ? ボールさん、どっか行っちゃったなぁ。あ、おじさんたちがボールさんを顔でお手玉してくれたのかなぁ? ありがとぉ!」
着地した兼彦は、泡を吹いている暗殺者たちの横から転がったボールをポフッと回収すると、何事もなかったかのように再びリフティングをしながら奥の森へ歩き去っていった。
子分B「あ……あいつは……本物の悪魔だ……! 気配を完全に消していた我々の位置を、最初からすべて見抜いて、リフティングに偽装してリーダーたちを屠りやがった……!!(恐怖の涙)」
最強の暗殺者たちすらも、その底知れない「無自覚のディフェンス(ボケ)」の前に完全敗北。
新大陸のギルド本部に、またしても『気配を消した暗殺者を、ただのリフティングで一瞬でミンチにするFランクの死神』という、さらに尾ひれのついた最悪の都市伝説が刻まれるのだった――。




