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明智十兵衛、天下を統べる  作者: 岡崎 隆幸


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第二十話 鉄砲鍛冶との約束


 


 俺は佐吉に案内され、京の寺へ向かっていた。

 寺の一室に通されると、佐吉は預けていた道具箱を取り出した。

「これです。」

 蓋を開ける。

 中には、見慣れない小さな工具がいくつも収められている。

「これで鉄砲を?」

「はい。分解だけでなく。調整や修理にも使ます」

 佐吉は俺から鉄砲を受け取った。

「じゃあ、始めますね」

 手際よく部品を外していく。

 俺は横から、その一つ一つを見つめた。

「ここが火皿か?」

「ああ。そして、ここが火縄を挟む部分です」

「この部品は?」

「火縄を動かすためのもので。ここに無理な力が掛かると具合が悪くなります」

「なるほど……」

 俺は持参した紙に、構造を書き留めていく。

「十兵衛、随分と熱心ですね」

「美濃で鉄砲を運用したい」

「何丁くらいです?」

「今は十丁ほどだ」

「十丁?」

 佐吉が笑う。

「なら、修理できる者を育てないといけないですね」

「それが目的だ」

「だったら、儂が美濃へ戻りましょうか?」

 俺は顔を上げた。

「美濃へ?」

「ええ」

 佐吉は分解した鉄砲を眺めながら言った。

「この仕事を続けているうちに、もっと多くの鉄砲を扱ってみたいと思っていたのです」

「しかし、京での仕事は?」

「それは何とかします」

 佐吉は笑った。

「お前が本気で鉄砲を増やすつもりなら、俺も力を貸したい」

「……本当に来てくれるのか?」

「ああ」

 昔から変わらない笑顔だった。

「同郷のよしみですから」

「佐吉……」

「それに」

 佐吉は工具を片付けながら続ける。

「昔、散々十兵衛様を巻き込んで悪戯してましたからな。その借りを返したいと思います。」

「そんなもの、借りに数えるな」

「儂は数えてるんですよ」

 二人で笑った。


 *


「ただし、一つ条件があります」

 佐吉が真顔になる。

「何だ?」

「美濃へ行ったら、鉄砲を触らせてください」

「好きなだけ触ればいい」

「それだけではありません」

「?」

「作らせてくれませんか」

 俺は頷いた。

「そのために来てもらうんだ」

「よし」

 佐吉は手を差し出した。

「じゃあ、決まりですな」

「ああ」

 俺はその手を握った。

「美濃へ一緒に戻ろう」


 *


 寺を出る。

 懐には、佐吉がまとめた鉄砲の構造を書き記した紙がある。

 そして――。

 新たな仲間も一人。

 鉄砲を分解し、修理し、その仕組みを理解している職人。

 しかも、俺と同じ美濃の出身。

「……これで一歩進んだな」

 俺は呟いた。

 十丁の鉄砲。

 それだけでは、戦を変えることはできない。

 だが。

 鉄砲を知る職人が一人いれば、その一人から技術を伝えることができる。

 一人が二人に。

 二人が十人に。

 そして――。

 十人が百人に。

 その先にあるものを思い浮かべながら、俺は京の空を見上げた。

 美濃へ帰ろう。

 今度は鉄砲だけではない。

 技術そのものを持ち帰る。

 そう決意して、俺は帰国の準備を始めた。

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