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明智十兵衛、天下を統べる  作者: 岡崎 隆幸


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第十話 京入り 前編



 堺を出て、数日。

 俺たちは京都へ向かっていた。

 目的は二つ。

 一つは、今井宗久から紹介された医師を探すこと。

 そしてもう一つは――。

 京という場所を、この目で見ることだった。

 現代で知っている京都とは違う。

 この時代の京では、戦乱によって幾度も傷ついている。

 それでもなお。

 朝廷。

 公家。

 寺社。

 商人。

 武士。

 様々な人間が集まる、日本の中心だった。

「十兵衛様」

 同行する家臣が声をかける。

「もうすぐ京にございます」

「ああ」

 山道を抜ける。

 やがて遠くに町が見えてきた。

 俺は馬を止めた。

「……ここが京か」

 胸の奥に、不思議な感覚が広がる。

 現代なら、新幹線で簡単に訪れる場所。

 だが今は違う。

 「俺の知っている京都とはやっぱり違うな」と心の中で呟いた。

そうここは戦国の京都。

 そして――。

 この町を中心に、これから大きな歴史が動いていく。


 *


 京へ入る。

 町は思っていたよりも静かだった。

 人はいる。

 商人もいる。

 僧侶もいる。

 だが、所々に戦乱の傷跡が残っている。

 崩れた建物。

 焼けた跡。

 修復されていない寺社や公家たちの屋敷。

住民たちの家までが戦火に焼かれて廃墟と化していた。

 それでも人々は生活している。

 飯を炊き。

 物を売り。

 子供を育てる。

 戦乱の中でも、人は生きている。

「……強いな」

 思わず呟いた。


 *


 今井宗久から渡された書状を頼りに、医師を訪ねる。

「今井殿の紹介状を?」

 医師は書状を確認する。

「はい」

「美濃から、わざわざ?」

「診ていただきたい方がいます」

「病状は?」

「熱が続いている、としか聞いておりません」

 医師は難しい顔をした。

「それでは、何とも言えませぬな」

「それでも、診ていただきたい」

 俺は頭を下げた。

「どうかお願いします」

「……」

 医師はしばらく考えた。

「美濃まで行くとなれば、かなりの日数がかかります」

「必要な費用はこちらでご用意します」

「それだけではありません。道中の安全も必要です」

「それもこちらで手配します」

 医師は俺を見る。

「随分と熱心ですな」

「助けられる可能性があるなら、何もしない理由はありません」

 医師は少し驚いた顔をした。

 やがて。

「分かりました診てみましょう。」

「本当ですか?」

「診てみましょう」

「ありがとうございます」

 これで一人。

 だが、俺はまだ探すつもりだった。

 一人だけではなく。

 できる限り多くの医師の意見を聞きたい。

 現代の医療知識を持っているわけではない。

 だからこそ、この時代で得られる知識を集める必要がある。


 *


 医師との話を終えたところで、外から声が聞こえた。

「明智殿?」

 振り返る。

「……これは、三淵様。」

 そこにいたのは、堺で会った三淵藤英だった。

「やはり明智殿でしたか」

「京にいらしたのですか?」

「幕府の用向きで。」

 三淵は俺を見る。

「美濃へ戻られたのかと思っておりましたがこちらで何を?」

「この京にて医者と薬師を探しておりまして」

「医者と薬師を?」

「はい」

「誰か病人でも?」

「主君の奥方様です」

 三淵は少し驚いた。

「山城守殿の奥方が」

「はい」

 三淵は頷いた。

「それは大変ですな」

「できる限りのことをしたいと思っています」

 三淵は俺を見る。

「明智殿は、随分と人のために動かれる」

「そうでしょうか?」

「堺でも鉄砲を買い、今度はこの京で医者と薬師を探しておられる。」

 俺は苦笑した。

「必要だからです」

「それができる者は、そう多くおりません」

 三淵はそう言ってから、少し考えた。

「もしよければ、私からも人を紹介しましょう」

「薬師を?」

「いえ」

 三淵は首を横に振る。

「京で動くための伝手です」

「……伝手?」

「京は美濃とは違う」

 三淵の表情が真剣になる。

「誰に話を通したかで、同じことでも結果が変わる」

 その言葉に、俺は頷いた。

「ぜひ、お願いしたい」

「分かりました」

 三淵が微笑む。

「では、明日――」

 その時だった。

 遠くから、寺の鐘が鳴った。

 ゴーン……。

 京の町に、低い音が響く。

 俺は空を見上げた。

 この町には、まだ俺の知らない人間がいる。

 そして。

 この町から、いずれ足利義昭が動き出す。

 織田信長も。

 松永久秀も。

 三好家も。

 そして――明智光秀も。

 歴史の中心へ向かう人間たちが、この京都に集まっている。

 俺はまだ、その輪の外側にいる。

 だが。

 少しずつ、近づいている。

 そんな予感がした。

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