F級冒険者の勇者
タローは冒険者ギルドに行き、ついに冒険者ギルドカードなるものを発行してもらった。
ランクは最下級のFである。
もちろん、F級ではまともな金になる仕事はほとんどない。
だが、F級の仕事は簡単なものばかりなのが実に良い。
難易度が高いものは当面後回しだ。
実入りこそ少ないが、まずは単純な労働から初めてレベルを上げることが重要だろう。
そう、タローはウィンドウなるものを初めてこのとき知った。
ウィンドウは勇者や魔族などのごく一部の者でしか見られないものであり、ヤマダに言われるまで気づかなかったのだ。
そこでウィンドウを開いて気づいた点が2つ。
・アイテムを一定の制限まで隠し持つことができるアイテムボックスという機能があること。
・レベル1の今はまともな冒険者活動などできる訳がないこと。
アイテムボックスはRPGなどでおなじみのアイテムを保存する場所のことだ。
他にもストレージなどという呼び方もある。
このアイテムを保存するという能力はすさまじい。
ある程度の期間であれば手ぶらの状態で生き続けることもできるわけだ。
しかもアイテムボックスの中は異空間らしくアイテムが劣化したり腐ったりすることはないらしい。
タローは、アイテムボックスに気づいた瞬間、すぐに黄金の勇者の剣をそこに仕舞った。
レベルはRPG的に考えれば強さのことだ。
ヤマダの師匠はレベルが110とかもあるらしい。
なんでも口癖は「レベルを上げて物理で叩く」とのこと。
確かに心理だがこの世界にも筋脳全盛なのであろうか。
ここは魔法とかでスタイリッシュに戦いところだ。
闇の炎とかあれば完璧である。
そういった対象を持つ敵とはなんだろうか。
タローはそのような敵を慎重に選ぶ必要性を感じた。
むろんそれは、≪九死一生≫スキルでスキルをゲットするためである。
邪教の教団とかあればぶち殺せるのに。
どちらにせよレベルは早急に上げなければならない。
卒業後は公爵家に養子に行くことになっているが、そこで求められるのは勇者としての武威であろう。
そうでなければなぜ養子になるのか分からない。
――国としては、実際は勇者という肩書だけが欲しくてここに居着いてくれれば良いだけなのかもしれないが、それはあまりにも厚かましいだろう、という考えがタローにはあった。
めざすはレベルをあげて、スキルを取って、貴族になってもってもてである。
――そんなことを考えながら、冒険者ギルドに張られた張り紙をじっと見つめる。
首都バハームの街の冒険者ギルドが特徴てきなのは学園の学生用に張られたブースと、一般用のブースがあることだろう。
一般向けの方が難易度が高いクエストで、かつ割安になっている。
だが冒険者からの不満はあまり出ない。
その冒険者もまた、元学園の学生であったからだ。
彼らは学生をかつての青春を思い出しながら暖かい目で見守っている。
「しかし、まともなのがねぇな……」
つまり、学生用のものは一般とは違い難易度が低いわけだ。
例えば町中の掃除、屋敷内の清掃、山での芝刈りなどである。
いっそ、川での洗濯などもあれば面白いのだが、さすがにそれは無いようだ。
激流で大きな桃が流れてくることは無さそうである。
大きな桃が川から流れるような突然変はないらしい。
だいたい、掃除とかでウィンドウに記載されているレベルがあがるのか不安だ。
しかし、まともなのが無いのはタローがその冒険者ギルドに来た時期によるためだ。
学校は午前中は座学の授業だが、午後からは各種ギルドでの教育実習である。
もちろん教室を有効利用する目的からいって、午前が教育実習で、午後が座学いう学年もある。
そう、大抵の場合、午前に教育実習がある学年に良いクエストは取られてしまうのだ。
ちなみに午前午後の違いは、中等部の2年から変わりそれ以前が午前実習、それ以後が午後実習である。
むろんそれは低レベルの子供達に配慮した構成であって、それに不満を言っても変えられるようなものではない。
「ならば――、一般用だな」
一般用を眺めると今度は討伐系が多い。
オークの退治、オーガーの討伐、ライオンの捕縛、他国へ行っての物価聴取など様々なものがある。
だがそんな中、一つ面白そうなものを見つけた。
しかもかなり報酬はお高い。
「にぃさんにぃさん。あんた学生さんかい。それはやめておいた方がよいぜ?」
「――なぜです?」
タローが振り向くとそこには盗賊風の冒険者がいた。
両腰には短剣がぶら下がり、さらには鍵のようなものをじゃらじゃらさせている。
盗賊が忍んで行動するにはいささか問題があるような恰好だ。
いかにもぱっとしない、冒険者のおっさんというのがタローの評だ。
「そりゃ報酬見れば分かるだろう。破格すぎる」
「確かに――」
内容は、気絶したモンスターを拘束し、晒して、並べて、磔にするというだけだ。
「まずモンスターの名前とかは一切ない。どうやって気絶させるかについてもな。正直おっかねぇよ。しかも依頼者が≪殺戮の小悪魔≫と来たものだ。もし万が一、本人だとしたら何を考えてやがるのか?」
「殺戮の小悪魔?」
そこから、冒険者のおっさんの話が始まる。
この世界の今いる大陸には中央にノキタミア帝国という大帝国と、その北にノーザンテリト王国の他に、南側に魔族たちの住んでいた魔族領という地域とサウスフィールド王国というのがある。
ここで魔族というのが曲者で、多くは人間の奴隷となっていたりもするのだが、ある一定の魔族は戦闘力を保有し、国に仕えていたり冒険者として活動していたりするらしい。
その中の冒険者の一人が今回の依頼人である殺戮の小悪魔とよばれる魔族だ。
しかもつい最近までサウスフィールド側に立って魔族領とノキタミア帝国との戦争に関わっていたという情報もある。
その戦争は魔族領の一方的な勝利で終わったのだが、のちに魔族領に進行したサウスフィールドが漁夫の利を得る形で魔王の討伐に成功、魔族領を併合して邪魔台国と名乗らせ、自らは帝国と化したらしい。
(やまだいこくねぇ……)
邪神と魔族が共存する国だから邪魔台国と名付けた、と一般的には思われるだろうが、タローにはそうはとても思えない。
名前的に言って、絶対にヤマダが関連しているはずだ。
となると、この≪殺戮の小悪魔≫だって十分にヤマダの関係者だろう。
深い理由はないが、推論するには十分な証拠である。
そんな魔族が何をしようとしているのか、確かめる必要がある。
話し込んでいるうちに時間は過ぎてしまったが、結局そのクエストを受けることにしたタローは、張られたクエストをはぎ取ると受付へと提出した。
それを見たおっさんは、その翌日のモンスターからの剥ぎ取り依頼をとって提出する。
もしタローがうまくいくのであればそのまま受け、死んだりしたりしたら違反金を払ってでもキャンセルするつもりだ。
そのあたり、おっさんはちゃっかりしていた。




