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第三話 元災害級魔物が従魔になりました

「……お前、元は災害級魔物なんだよな?」


「ワン!」


「……全然そんな感じしないな」


 俺の足元で、子犬サイズになった呪狼が尻尾を振っている。


 さっきまで体長三メートルもあったとは、とても思えない。


 村人たちも同じようで、誰一人として近づこうとはしなかった。


「カイル……」


 トーマが恐る恐る口を開く。


「そいつ、本当に大丈夫なのか?」


「たぶん」


「たぶんって……」


 トーマが青ざめる。


 俺も少し不安だった。


 いくら温泉で呪いが消えたとはいえ、元は災害級。


 もし突然暴れたら、村なんて一瞬で壊滅する。


「鑑定してみるか」


 俺は呪狼に手を向けた。


【鑑定】


【種族:呪狼】


【状態:呪い解除済み】


【危険度:災害級】


【知能:高】


【忠誠心:???】


【特殊スキル:呪いの牙・影移動・魔力感知】


「……やっぱり強い」


 しかも。


【進化条件:契約者との強い絆】


 という表示まである。


「契約者?」


 俺が首を傾げると、呪狼がこちらを見る。


 そして。


「ワン」


 俺の手に鼻を押し付けた。


「……?」


 次の瞬間。


 俺の頭の中に声が響いた。


『……主』


「――っ!?」


 思わず後ろへ飛び退く。


「今、喋ったか?」


 呪狼が首を傾げる。


『我は……あなたに従う』


「お前、喋れるのか!?」


『今までは呪いに支配されていた』


 呪狼はゆっくり立ち上がった。


 身体が少しずつ大きくなる。


 子犬だった身体が。


 大型犬ほどになり。


 やがて馬ほどの大きさになった。


 漆黒の毛。


 額には一本の銀色の角。


 そして金色の瞳。


『我が名はグラウ』


「グラウ……」


『かつては呪いに侵され、理性を失っていた』


 グラウは温泉を見る。


『だが、あなたが作ったこの泉によって呪いから解放された』


「俺が作ったっていうか……」


 世界の設定を変更しただけなんだけどな。


『それでも、あなたが我を救った』


 グラウは俺の前に頭を下げた。


『命を救われた者は、命を救った者に仕える』


「いや、別にそんなことしなくても――」


『嫌だ』


「え?」


『我はあなたに仕えたい』


 即答だった。


「……理由は?」


『温泉が気に入った』


「そこなのかよ!」


 思わず叫んでしまった。


 村人たちから、くすくすと笑い声が漏れる。


 さっきまで怯えていた空気が、少しだけ和らいだ。


「……まあいいか」


 俺はグラウの頭を撫でた。


「じゃあ、よろしくな」


『……!』


 グラウの尻尾が勢いよく振られる。


 ゴンッ!


 その尻尾が地面に当たり、大きな音が響いた。


「お前、尻尾で人を殴るなよ?」


『善処する』


「本当に頼むぞ」


 俺は笑った。


 その瞬間。


【契約条件を確認】


【対象:呪狼グラウ】


【契約者:カイル】


【従魔契約を開始します】


「……え?」


 目の前に文字が浮かぶ。


【通常の従魔契約ではありません】


【設定変更権限を確認】


【特殊契約へ移行します】


【契約内容を設定してください】


 俺は驚いた。


「契約内容?」


【主人への忠誠】


【契約者への危害禁止】


【契約者の仲間への危害禁止】


【契約者の居住地の防衛】


 そして最後に。


【契約者が望む限り自由である】


 俺はその項目を見て、少し考えた。


「これでいい」


 決定する。


【特殊従魔契約――成立】


 ――ドクン。


 グラウの身体が光った。


「グラウ!?」


『これは……』


 身体から黒い煙が噴き出す。


 だが、今度は苦しんでいる様子ではない。


 むしろ。


 身体がどんどん大きくなっていく。


 三メートル。


 四メートル。


 五メートル。


「おいおい……」


 村人たちが逃げようとする。


「待て!」


 俺が叫ぶ。


 光が収まる。


 そこに立っていたのは――


 体長五メートルを超える巨大な狼。


 しかし。


 その瞳には、もう殺意はなかった。


【従魔契約成立】


【グラウの呪いが完全消滅しました】


【種族が変化します】


【呪狼】


 ↓


【聖影狼】


「……進化した?」


『そのようだ』


 グラウが自分の身体を見下ろす。


『これは……力が溢れている』


 ステータスが表示される。


【名称:グラウ】


【種族:聖影狼】


【危険度:測定不能】


【忠誠度:100%】


【主人:カイル】


【特殊能力】


・影移動

・魔力感知

・呪い無効

・聖属性耐性

・主従リンク

・???


「…………」


 俺は黙った。


「グラウ」


『なんだ、主』


「お前、強すぎないか?」


『そうなのか?』


「たぶん」


 グラウは首を傾げる。


 その姿を見ていると、どうしても災害級魔物には見えない。


 むしろ――


「犬だな」


『我は狼だ』


「犬だろ」


『狼だ』


「犬」


『……主』


「なんだ?」


『散歩に行きたい』


「やっぱり犬じゃないか!」


 村人たちから、今度こそ大きな笑い声が起きた。


 こうして。


 俺の最初の従魔が決まった。


 元・災害級魔物。


 現在の種族――聖影狼。


 そして翌朝。


 グラウは村の入口に座っていた。


 俺が聞く。


「何してるんだ?」


『村を守っている』


「……誰かに頼まれたのか?」


『違う』


 グラウは森を見る。


『主の住む場所だからだ』


「……そうか」


 俺は少しだけ笑った。


 追放されて。


 仲間も失って。


 王都を離れて。


 誰も俺を必要としていないと思っていた。


 でも。


「……ありがとな、グラウ」


『礼は不要だ』


 グラウは尻尾を振った。


 ゴンッ!


 また地面が揺れた。


「だから、その尻尾は危ないって!」


『……善処する』


 その日。


 村には一匹の「番犬」が増えた。


 ただし。


 その番犬の強さは――


 王国最強の騎士団すら、まだ知らない。

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