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地上へ

 簡素なベッドが一つと、机と椅子が一組。僕はベッドに腰掛け、少女へは椅子に座るよう指示をする。


「じゃあ、お互いを知ることから始めようか」

 少女はかなり困惑している様子だ。椅子に座れと言ったことを訝しんでいるようだけども、命令には逆らえないため大人しく座った。


「名前は?」

「私はル・セルラフィム」

「セルラフィム。長いね。セラって呼ばせて」

「お好きに」


 セラは他人行儀で堅苦しい感じで話してくる。先ほど共に落ちかけた時にはもう少し砕けていて、怒りっぽい感じだったのに。


「好きに話していいよ。敬語とか、堅苦しいし」

「……分かったわ」


 セラはまたしても怪訝な顔でこちらを見つめてくる。まあ、それもそうか。この世界で奴隷となった彼女の扱いは想像に難くない。そこに日本人の倫理観を持つ僕の対応は異常に見えるだろう。


「君は何者なの? さっきの様子だとエルフじゃないみたいだけど」

「私は天翼種(フェザーリア)の生き残りよ」

「へい神様。フェザーリアについて教えて」

『フェザーリアは、かつてこの浮遊島に生息していた人型種族の名前。人間との戦争に敗れて絶滅したと言われていたけど、まさか生き残りがいたなんてね』


 なるほど。つまりセラは滅亡したこの地の本当の住人ということだ。すごいね。うん、なんというか、すごい人を奴隷にしたのかもしれない。


「セラの翼は出し入れできるんだね」

「そりゃ、普段の生活には邪魔だからね」

「翼をしまうとエルフみたいなんだね。エルフ見たことないけど」

「そうね。私はエルフとして狩られたわ」


 セラの翼は大鷲よりも大きいものだ。人の体を飛ばすにはそれだけの大きさが必要ということだろう。そして、普段はどこかにしまっていると。人体の不思議に興味は尽きないが、それよりもまずはセラについてだ。


「エルフとして生きていた君は奴隷狩りに遭いこの島に連れてこられた。そして、脱出の機会を伺ってたってところかな」

「っ、そうよ」


 セラは少し驚いたような顔と、悔しそうな顔半々な反応を見せた。僕ってそんなにバカっぽいだろうか。

 少し考えればセラの狙いは一目瞭然。奴隷は使えなくなったら捨てられる。捨てられればその後は自由の身だ。なぜなら、奴隷紋は所有権を放棄されなければ新しい契約は結べない。しかし、その所有者は奴隷を捨てる際にわざわざ所有権を放棄したりはしない。飛べない奴隷は島から落ちれば死ぬからだ。


 でも、セラは空を飛ぶことができるから捨てられても死ぬことはない。だから、病弱を装って捨てられるのを待っていたんだろう。


「それを僕が邪魔した。と」

「そうよ!」

「なんか、ごめんね」

「ごめんで済まないわよ!」


 セラは感情を爆発させて僕に怒ってくる。ようやく自由の身になれるというところで邪魔が入ったのだ。怒って当然だ。でも、僕ももう後には戻れない。だって契約しちゃったし。もちろん、日本人として仁義と礼はしっかり通すつもりだ。


「セラ、安心して欲しい。僕は君を捨てたりしないし酷い扱いをするつもりもない」

「私的には捨ててもらった方が嬉しいんだけどね」


 ごもっともだ。だが、飛行船の夢を手に入れるために気まぐれで起こしたこの奇跡。利用しない手はない。


「セラってさ、戦える?」

「ええ。多少は」

「よし」


 大事なことを確認した僕はこれからの計画を大幅に見直した。僕の見立て通り、強かなセラは他の奴隷とは少し違うようだ。

 僕はまず第一にセラをお風呂に入れ、ご飯を十分に与えた。今日まで貯金をしてきたため、しばらくの間一人を養うくらいお茶の子さいさいだ。セラはまあ、見立て通りものすごく美少女になった。この世界の人間は美少女すらも異人種であれば使い捨ててしまうらしい。


 セラの体調が万全になったら、二人でギルドへ行きハンター登録を済ませる。願ってもなかったハンターデビューだ。もちろん危険を犯す職業なんかにはなりたくなかったが、今はセラがいる。


 ハンターの登録証は身分証として使え、浮遊島間の移動がスムーズにできるようになる。まるで日本のパスポートだ。

 だが、ハンターになったとして僕たちには飛行船がない。そんな初心者ハンターでも大丈夫! ギルドの定期大型輸送船が島から出ているため、乗船券を購入することで下界に行くことができる。


 今までこれをしなかったのは、僕がハンターという職業とこの世界の倫理観を信じていなかったからだ。

 下界に降りれば命は自己責任。護衛依頼を出したとしても、最後は人間。自分の命が可愛いだろう。その点奴隷は逃げないし絶対約束を違えない。まあ、セラのように戦える奴隷がいなかったらからこの選択肢を取れなかったわけだが。


 正直セラがどの程度戦えて、下界の魔物がどの程度の強さなのか見当もつかない。一応事前知識として調べ物はしてきたが、未知数。まあ、セラは元々下界でエルフと暮らしていたこともあって、それなりに任せて大丈夫らしい。


 というわけで、僕たちは今、下界にいる。

 大型輸送船は小高い丘の上に停泊しており、ハンターたちは縄梯子を使って降りて行く。エアーズロックのように平原にドンと置かれた丘からの景色は絶美で思わず写真を撮りたくなるが、あいにくスマホは持っていない。


「セラ。行こうか」

「うん」


 セラは奴隷であるものの、服装は一般人と同じく胸当てや籠手などの軽鎧を装備し、腰には短剣とショートソードを佩いている。僕も同じようなもので、動きやすさ重視の革鎧とテッパチのような兜を身につけ、手斧を装備している。木こりの僕は剣よりも斧の方が使い慣れているのだ。


「目的は魔物の生け取りだから、そこまで無理しなくていいからね」

「分かったわよ」


 依然としてセラの口調は強気であるが、この数日で少しばかり打ち解けることができたように思う。人並みの生活を保証してあげるだけで好感度が稼げるというのは、なんともチョロいというか、この世界の倫理が終わりすぎているというか。


 奴隷紋の力で無理やり同行させられているとは言え、それなりにセラにとっても利のある話であると理解してもらえたからか、怪訝に見つめられることはかなり減った。


「メグルは死なないように気をつけなさい。全力で守りはするけど」

「了解」

 こうして身の心配をしてくれるほどには仲良くなった。


 丘を下った僕たちは近くの森に向かって歩いている。他のハンターたちのほとんどが目的地を同じとしているため、平原を歩いている今はかなり身の安全が保証されている。

 平原にも時折魔物が現れるようだが、ここらは飛行船の離着陸が頻繁にあるため魔物は森の中に潜んでいるという。


 下界にある丘に一番近い森。通称デッカ大森林にやってきた。名前の通りめっちゃデカいため、多くの魔物が生態系を構築している。


 森で一番見かけられるのが霊長類系の魔物で、群れで行動するデングー。猿程度の大きさだが、気性が荒い。それから、デングーの天敵であるゴリラのような魔物のゴゴング。これは数が少ないが単体でも脅威。それ以外には木うさぎやコジャラといった蛇型の魔物もいる。


 僕たちの狙いはその小さいうさぎや蛇の魔物だ。他のハンターたちは金にならないと見向きもしないため競争が起こらず独り占めってわけだ。


「メグル! 一匹取ったよ!」

 早速、セラが右手に小さい蛇を掲げている。コジャラを捕まえたようだ。


「こんなんでいいの?」

「いいのいいの」


 僕はセラからコジャラを受け取る。こいつに毒はないが、噛みついてくるため首根っこをしっかりと掴む。そして今世で初めて、魔石生成のスキルを発動する。


「スキル、拍動する魔石生成」

 僕の魔力に反応してスキルが発動すると、手に持ったコジャラが淡く光を放ち、シュルシュルとトグロを巻いたかと思えば一つの球体としてまとまった。


「なにそれっ!?」

「僕のスキルだよ」


 手のひらに収まる野球ボールほどの魔石を見てセラが驚いた。僕も驚いているが、感動の方が大きい。

 とうとう、とうとう念願の拍動する魔石を作り出すことができた。


 コジャラから作り出した拍動する魔石は濁った赤色をしており、心臓のように脈打っている。生命の輝きを宿すこの魔石を、僕は疑問に思いながら見つめる。


「なんか小さいな」

 造船所で見ていた中型船に積まれている魔石はもっと大きかった。少なくとも、腰ほどの高さと肩幅より少し大きいほどのサイズはあったはずだ。


「まあ、試しに作ってみるか」

 心配は尽きないが、これは初めての試みだ。失敗してもめげないしょげない。


 適当に周りから木の枝を集め、スキルの力で小舟を整形する。小舟というか、形としてはタイヤのない自転車だ。


「それ、飛ぶの?」

「さあ?」


 セラが僕作、初の船を怪しむような目で見てくる。僕も本当にこれが飛ぶのか怪しいと思っていたところだから仕方ないが、他人に言われるとそれはそれで腹が立つ。


「行くぞ! サイクリングシップ!」


 今適当につけた名前を叫びながら船に跨り起動する。魔力回路が開き拍動する魔石が力を発揮する。この魔石にはスキルによって浮遊魔法がかけられており、魔力で物を飛ばす。


 浮遊魔法を覚えた方が早くないかと思うかもしれないがそれは無理な話だ。浮遊魔法の維持には重さに比例してそれなりに魔力を食うし、そもそも僕に与えられた神スキルは飛行船クラフトであって、魔法の才能じゃない。浮遊魔法を拍動する魔石に刻印する工程はスキルに組み込まれているため、僕自身ができるようになることは、ほぼない。


「テイクオフ!」

 ハンドルを握る手に力を込める。ベルトもないし落ちたら終わりだからだ。と心配していたがそんなものは杞憂に過ぎなかった。

 セラの予想通り、サイクリングシップは重量オーバーでぴくりとも浮かなかったのだ。


「ダメじゃない」

「ダメだねぇ」


 僕はそっと船から降りて、そっと解体した。


「セラ。もっと大きな魔石が必要みたいだ」

「そうみたいね」

「どうしよう」

「さあ?」


 僕は頭を悩ませた。これは推測だが、コジャラで作った魔石では先ほど作った船そのものを浮かせる程度のパワーしか出ない。荷物を積んだり、人が乗ったりするのは不可能ということだ。ということはもっと大きくパワフルな魔物で拍動する魔石を作る必要がある。それはつまり、リスクを取る必要があるわけだ。


 多分だけど、ゴゴングクラスの魔物を手に入れる必要がある。僕たち二人だけでは絶対に無理だ。


「金は使うためにあるんだよな」

 僕は腰にしまった巾着にそっと触れる。即金で使える手持ちは二万ほど。半月の食費にはなる金額だ。上に戻れば貯金が二百万弱。ゴゴング狩りの依頼には、人数にもよるが四十万ほどあれば足りるだろう。


「セラ。他のハンターたちを探そう」

「分かったわ」


 他のハンターたちは各々の獲物を狙いに森の中へ散り散りになっていた。僕たちは比較的森の浅いところで実験をしていたため、森の奥を目指す。


「探すのはローリングシェル狙いの四人組だ」

「ああ。あの人たちね」


 今回の輸送船に乗っていたハンターたちの中でゴゴングを狩れそうなチームは一つだけ。船の中でやっていた情報交換が功を奏した。ハンターたちが何を狙ってどこに向かうのか。僕が目をつけたのは、ローリングシェルという魔物を狙う一団だ。


 ローリングシェルは小型冷蔵庫ほどのデカさをしたダンゴムシのような魔物で、多足かつ体を覆う外皮が固く素材も高値で売れる。ただその分倒すのが面倒で実力も必要な相手だ。群れ、というよりも一つの生息域に多数で固まっているローリングシェルを狩れるハンターならばゴゴングの相手も務まるだろう。


「メグル。こっちよ」

「はいよ」


 高校までは田舎で暮らしていたため森歩きも楽勝だ。僕たちはハンターたちを追ってローリングシェルの生息域へと向かった。


三話でようやく飛行船が作れました。失敗でしたが。

これでタイトル詐欺ではなくなりましたかね。

飛行船をたくさん作らせたいけど、それだけじゃ物語にならないというジレンマ。


こんな飛行船があったら面白そうなんてコメントも大歓迎ですので、お気軽に感想よろしくお願いします!

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